第1章 Windows 8への道 - Windows 8の新機能: 新しいMicrosoft Designスタイル

さて、ここからはWindows 8の特徴について駆け足で解説していくが、最初に述べなければならないのは「Metro(メトロ)」の改称についてである。2012年8月2日に複数のメディアが報じた内容によると、「Metro」という呼称を差し止め、新しい名称を予定しているという。

そもそもMicrosoftはMetroを正式名称としてではなく、Windows Phone用のデザインシステムにおける内部コード名とブログ記事で説明している。そのため、ここに来て改称することは特段不思議なことではない。問題はそのタイミングだ。

既に2012年8月1日の時点でWindows 8は完成し、公式ブログなどを通じて報告を終えてから、ブランド名が変更された例は少ない。本誌記事でJunya Suzuki氏が述べているように、商標権問題が露呈したと見るのが自然だろう。海外メディア「The Verge」の記事では「欧州の重要なパートナーとの協議の結果、Metroという呼称を中止するに至った」という社内メモの存在まで報じられている。

ここからは筆者の推測だが、当初Microsoftの開発陣やマーケット担当陣はMetroという名称に慣れ親しみ、そのまま同じ呼称を使い続けるつもりだったのだろう。その理由として、同社はWindows 7以降、特定のブランド名を模索せず、開発コード名をそのまま製品名や機能名とする傾向を強めてきたからだ。

もちろん同社のような大企業が、商標権という基本中の基本を取りこぼすようなミスを犯すとは考えがたい。事実が明らかになることが同社にとってプラスにならない以上、真相はわからない。わかっていることは、「Metroアプリ」は「Windowsストアアプリ」、「Metroスタイル」は「Microsoft Designスタイル」に変更されたことだけだ。

それではWindows 8の特徴について駆け足で解説していく。Windows 8がこれまでのWindows OSと異なるのはWindows 8 UIの存在だ。そもそもMicrosoft Designスタイルは、Windows Phone 7シリーズのUIデザイン言語に対して名付けられた開発コード名である。当初はWindows Phone 7だけにとどまっていたが、Xbox 360やWindows 8にも用いられることとなった。

もちろんWindows Phone 7のUIをデスクトップコンピューターに持ってきても有効活用できるわけがない。そこで生み出されたのが従来のスタートボタン/スタートメニューを廃して追加した新しい「スタート画面」だ。従来のWindows OSでは、[Win]キーを押す/スタートボタンをクリックすることで、スタートメニューが開く仕組みだが、Windows 8ではデスクトップやWindowsストアアプリから、各タイルが並ぶスタート画面に戻る仕組みを採用。図で示したとおり、新しいスタート画面は従来のスタートメニューに置き換わる機能だ(図022~023)。

図022 従来のWindows OSにおける[Win]キーの動作

図023 Windows 8における[Win]キーの動作

ただし"スタート画面"は"スタートメニュー"の単なる代替機能というわけではない。Windowsストアアプリはスタート画面から起動して全画面表示となる一方、従来のデスクトップアプリはデスクトップ上で起動する。初めてWindows 8に触れる方であれば、"そういうものだ"と捉えることもできるだろう。しかし、これまでWindows OSを使ってきたユーザーにとっては、従来のデスクトップに加えて、新しいスタート画面が加わったことになる。また、デスクトップという慣れ親しんだメタファーもアプリケーションと同じ位置で扱われるため、Microsoft Designスタイルに慣れるまで混乱せざるを得ない。ここがWindows 8の評価に対して意見のわかれる最大ポイントだ(図024~025)。

図024 Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10。全画面表示となる

図025 デスクトップアプリ Internet Explorer 10。従来と同じ使用方法が可能だ

そのスタート画面に並ぶアイテムは「タイル」もしくは「ライブタイル」という呼称が用いられている。前者は静的なアイテムであり、後者はバックグラウンドで通信を行い、Windowsストアアプリが取得した情報を動的に表示するという仕組みだ。タイルサイズは大小を切り替えることが可能で、ライブタイルによってはサイズを小さくすると情報が更新されない場合がある。

気になるのは、デスクトップアプリも同列にタイルとして扱われる点だ。例えば図026はMozilla Firefoxを導入したコンピューターのスタート画面だが、旧来のアイコンとショートカットファイル名だけ表示されるため、少々寂しい印象を覚えることだろう。Windows 8付属の標準アプリケーションも同等。Windowsストアアプリとの差別化という意味ではわかりやすいが、Windows 8を従来のWindows OSと同じように使用するユーザーにとって、少々物足りなくなってしまうのだ

この点に関してMicrosoftは、Windowsストアアプリを強調してアピールしているものの、Windows 8におけるデスクトップアプリに関しては何ら言及していない。あらためて述べるまでもなくWindows 8でも従来のデスクトップアプリは動作する。しかし、前述のようにタイルとしてデスクトップアプリがスタート画面に並ぶのは陳腐に感じるのではないだろうか(図026~027)。

図026 ライブタイルは文字どおりリアルタイムで取得した情報が表示される

図027 [Win]+[Z]キーを押してアプリコマンドを表示させ、<すべてのアプリ>ボタンをクリックすると、インストール済みアプリケーションの一覧が表示される

確かに各アプリケーションの一覧を呼び出す機能も用意されているが、あまり視認性がよくないため、同機能を使うことは多くないだろう。従来のデスクトップとWindowsストアアプリ/デスクトップアプリの併用、そして新しいスタート画面という混在した環境を使いこなすには、従来のWindows OSとは異なる価値観と操作感覚を備えて対応しなければならない。