第1章 Windows 8への道 - Windows 1.0からWindows 8まで その6

Windows XPが本当に安定したのは、2004年8月(日本語版は同年9月)にリリースされたWindows XP Service Pack 2である。本来は2002年9月にリリースされた同Service Pack 1を取り上げるべきだろう。しかし、同Service Pack 1は各種バグフィックスに加え、USB 2.0やDVDオーディオのサポートにとどまり、ドラスティックな変化は加わっていない。その一方で同Service Pack 2は、当時流行していた各種ウイルスへの対策を重要視し、セキュリティ対策を強調する意味で「Service Pack 2 セキュリティ強化機能搭載」と名称まで付けられた、他に類を見ないService Packだった(図017)。

図017 Windows XP Service Pack 2から搭載された「セキュリティセンター」

そもそも2001年当時から、Microsoftはセキュリティに対する考えを改めると同時に、以前から問題となっていたセキュリティ対策の一環として、Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)という目標を掲げていた。翌年2002年初頭からNGSCB(Next Generation Secure Computing Base:新しくセキュアなコンピューターシステム)プロジェクトを開始。

開発者に対するセキュアコードを書くためのトレーニングを施し、セキュリティ開発ライフサイクル(Security Development Lifecycle)を導入して、静的コードに点在するオーバーフローバグの排除、外部からの侵入を許してしまうぜい弱性の排除などを徹底的に行っていた。そのため、Service Pack 2のセキュリティ対策は急きょ行われたものではないが、Trustworthy Computingによる結果がより早く前面に押し出された結果と言えるだろう。

Windows XP Service Pack 2導入後も、自身でウイルス対策ソフトなどを導入しなければならなかったが、ゾーン情報を用いたダウンロードファイルへの警告や、ファイアウォールを使いやすくするための改善などが加わり、堅牢性が高まったOSに生まれ変わっている。またハードウェアスペックの進歩に伴い、メモリやHDD(ハードディスクドライブ)の容量も潤沢となったことから、初期状態でも十分に使えるOSになっていた。

安定化したWindows XPは多角的戦略を伴い、従来のHome Edition/Professional以外にも、さまざまなエディションをリリースしている。一つ目はMedia Center Editionと呼ばれるマルチメディア機能に特化したWindows XPだ。OSの単独発売は行われず、プリインストールマシンを購入する必要があった。無印/2003/2004/2005と四種類のバージョンが開発され、最終版となった同2005はDSP(Delivery Service Partner:提携企業やショップなどで販売されるOEM版の一種)版も販売されたが、正直なところ筆者はほとんど触れる機会がなかった。

二つ目は2002年に発売したTablet PC Edition。Windows XP Professionalをベースにタブレット型コンピューター向けのOSとして専用機能を多数備えていた。スタイラスペン入力を前提とし、タッチパネルをなぞることで手書き文字入力やイラストの作成などが可能。独自アプリケーションもいくつか用意していたが、商業的成功には至らず、リリースされたバージョンも2002/2005の二種類のみ。現時点でTablet PC Editionの失敗が、Windows 8に正しく活かされているか興味深いところである。

そして最後は64ビット版Windows XP。この64ビット版は二種類存在し、一つ目はItanium(アイテニアム)というIntel製64ビットプロセッサ向けの、64-bit Itanium Edition。もう一つはAMD製x86アーキテクチャの64ビット拡張を当初の前提にした、Professional x64 Editionだ。プロセッサベースの問題から、多くのユーザーが実際に触れたことがあるのは後者だろう。ソフトウェアやデバイスドライバーの整備が伴わず普及には至っていないものの、本誌の企画で実際に使用してみると、すこぶる快適な環境に仕上がったことを今でも覚えている。