第1章 Windows 8への道 - Windows 8のラインナップ

Windows 8を評価すべきポイントの一つが、エディション構成の一新である。あらためて述べるまでもなく、Windows Vista以降はエディションが複雑化し、ユーザーの混乱を招く要因だった。しかも、このエディション構成はWindows 7にも引き継がれるだけでなく、新興市場向けのエディション名が入れ替わるなど、ますますわかりにくいものになっている。もっとも日本国内では、新興市場向けエディションを選択する場面やユーザーは限られるため、大きなトラブルに至ることはなかった。

このように膨れあがったエディション構成だが、Windows 8ではコンシューマーユーザー向けの「Windows 8」、ビジネス/中上級者向けの「Windows 8 Pro」の二つにまとめられた。この他にもボリュームライセンス契約者向けの企業向けエディションとなる「Windows 8 Enterprise」や、ARMプロセッサ採用のタブレット型コンピューター向けとして「Windows RT」も用意されているが、後者の2エディションは単独販売の予定は組まれていない。

つまり、一般的なユーザーが購入できるのは前者二つに絞られるため、通常はWindows 8、Windows 7 Professionalを使ってきたユーザーはWindows 8 Proを選択することになるだろう。なお、本稿では特定のエディションに対してエディション名を記するので、"Windows 8"はエディション名ではなくOSに対する呼称として読んでほしい。

通常であれば、"Windows 8をフル活用したいユーザーは、Windows 8 Proを選択すべき"と述べたいところだが、今回は最上位版であるUltimateに相当するエディションが存在しないのである。まずは図035をご覧いただきたい。こちらはWindows 8各エディションの主な機能を比較したものだが、Windows 8 Proは未サポートながらもWindows 8 Enterpriseがサポートしている機能が多いことに気付かれることだろう(図035)。

図035 Windows 8のエディションおよび主な機能差

例えばVPN(Virtual Private Network)を使用せず社内ネットワークにアクセスするDirectAccessや、狭い帯域のWAN回線経由で接続したサイト間でデータをキャッシュするBranchCacheは、Windows Server OSをLAN内に設置しないのであれば、基本的には不要だ。しかし、USBメモリなどからWindows 8の起動を可能にするWindows To Goの未サポートは利便性を損なう可能性があり、VDI機能強化の未サポートはHyper-Vクライアント使用時にRemoteFX USBを使用できないため、コンシューマーレベルで仮想マシンを活用する際の制限となる。

このエディション構成に至る理由を知る由もないが、各機能に対して要不要を問わないのであれば、"Windows 8をフル活用したいユーザーは、Windows 8 Enterpriseを選択すべき"となってしまうのだ。しかしWindows 8 Enterpriseは、複数台のコンピューターに対するソフトウェアライセンスの付与販売となるボリュームライセンスのため、個人が気軽に購入するには敷居が高い存在である。

その一方で注意しなければならないのが、Windows Media Centerの未サポート。日本国内でWindows Media Centerを多用している方は少数派にあたるため、それ自体が大きな問題ではない。問題は、DVDビデオなどを再生するためのMPEG-2を復号するための、コーデックが備わっていない点だ。Windows VistaはHome Premium/Ultimateエディションが、Windows 7はパッケージ販売される大半のエディションが備えていたものの、Windows 8はWindows XP時代と同じく別売されるという。

そもそもOSにコーデックを内包するには一定のロイヤリティが発生し、DVDビデオ再生用コーデックのラインセンス代理店であるMPEG-LAに2ドル/単価のライセンス料が支払われている。加えてDolbyとのライセンス契約単価が追加されるが、ライセンス内容やボリュームによって異なるため、ライセンス料は公表されていない。

Microsoftの試算だが、Windows 7の出荷台数に換算すると八十億円以上、OSのライフサイクルを踏まえると約八千億円にも及ぶという。このような背景からDVDビデオ再生機能が必要な方と不要な方の公平性を維持(すると同時に同社の販売コストダウンを実行)するため、同社はDVD再生機能の切り分けという手段を選択した。

つまり、Windows 8使用時にDVDビデオの再生を可能にするには、Windows 8使用時は「Windows 8 Pro Pack」、Windows 8 Proは「Windows 8 Media Center Pack」の購入が必要となるのだ。もっともサードパーティメーカーのDVD再生ソフトや、コーデックだけを単体発売する流れも発生する可能性も拭いきれないため、ユーザーとしては選択肢が増えたと捉えた方が賢いだろう(図036)。

図036 Windows 8に搭載されるオーディオ/ビデオコーデック