第1章 Windows 8への道 - Windows 8の新機能: WindowsストアアプリとWindowsストア

前述のとおりWindows 8は、Windowsストアアプリという新しい枠組みを用意している。従来のWindows OSでは、Win32 APIと呼ばれるAPI(Application Programming Interface:各種制御を容易に実行するためのライブラリ)を使用することで、各Windows OSでの互換性を維持してきた。その一方でWindowsストアアプリはWinRT(Windows Runtime)という、まったく異なるAPIを用意。Windowsストアアプリを開発するためには、この新しいバックボーン上で行わなければならないのだ(図030)。

図030 Windowsストアアプリの概念図。デスクトップアプリケーションとは異なり、特定のプラットフォームで書かれたコードはWinRT上で動作する

その一方でWindowsストアアプリに関するUXデザインも詳細に定められており、Windowsストアアプリ作成時はタッチ操作(Microsoftいわくタッチ言語)が必須であり、コンテンツに触れた時は内容をブラウズし、指の動きにコンテンツが付いていくようにするなどのルールが用意されている。複数の指を使用するマルチタッチや、触れた際の視覚効果によるフィードバックも求められるため、Windowsストアアプリの開発者は一定のガイドラインに沿うことを強いられることだろう(図031)

図031 Microsoftが開発者向けに配布しているWindowsストアアプリのテンプレート。PhotoShop用形式になっており、自身のアプリケーション開発に役立てることが可能だ

エンドユーザーを中心にした本稿でソフトウェア開発の話から始めた理由は、Windowsストアアプリが"新たに用意された存在"であることを、読者に知ってもらうためだ。Windows 8のプレビュー版を触れてきたユーザーならご存じのとおり、Windowsストアアプリの流通経路であるWindowsストアへアクセス可能になったのは、Windows 8 Consumer Previewから。そもそもWindowsストアとは、Windows 8と対になったMicrosoftのオンラインソフトウェアショップである。

近年自社プラットフォーム用オンラインソフトウェアショップとして成功した例を挙げると、iPhoneやOS X向けのApp StoreやAndroid向けのGoogle Play Storeが思いつくが、古くはドコモ製携帯のiアプリも一種のオンラインソフトウェアショップに含まれるだろう。WindowsストアはWindows 8やARMプロセッサ用となるWindows RT専用のショップである。

Windowsストアアプリ開発者/企業は、無料もしくは有料のアプリケーションを登録し、Microsoftの審査を経てからWindowsストアに掲載される仕組みだ。ユーザーはあらかじめ用意されたWindowsストアを使用し、Windowsストアアプリのダウンロードや購入を行うことになる。ちなみに従来のデスクトップアプリを配布することも可能だ(執筆時点では自身のWebサイトへナビゲートするリンクしか発見できなかった)。

気になる有料Windowsストアアプリの支払いは、Microsoftが以前から運営してきたシングルサインオンサービスであるWindows Live IDを拡充させ、改名したMicrosoftアカウントを使用する。同アカウントに登録したクレジットカードなどを使用し、オンラインで決算を行うという一般的なオンラインショップと同じ仕組みだ。

筆者はソフトウェア開発の現場から離れてから十数年も経つため、開発者側から見たWindowsストアの功罪を述べることはできないが、ユーザー視点で見ると気になる点がいくつかある。一つ目がMicrosoftの運用だ。同社は以前からオンラインショップを運営していることをご存じだろうか。ソフトウェアや周辺機器を販売するマイクロソフトストアや、Windows Phone向けのWindows Marketplaceがそれにあたる。

Windows Phoneユーザーはともかく、Windows OSユーザーでもマイクロソフトストアを利用しているという話は、浅聞ながらも聞いたことはない。どうもMicrosoftはWindows 95時代のインターネットアクセスや数々のインターネットコンテンツなど、オンライン系のアプローチが不得手に感じられる。さすがに最近は改善されているが、きめ細やかな対応が行われるか否かはフタを開けてみないとわからない、というのが正直な感想だ。

もう一つがWindowsストアアプリのラインナップである。Windows 8が登場して間もない時点で判断しにくい部分ながらも、MicrosoftがWindows 8の主軸として推すWindowsストアアプリの充実が、Windows 8の成功を左右するからだ。"卵が先か鶏が先か"ではないが、Windows 8のシェア(占有率)とWindowsストアアプリの充実は、車の両輪として回るべきである。だが、Windows 8プレビュー版から正式リリースまでの数カ月を見る限り、どちらかが率先して一方を引き上げる可能性は少なそうだ。

現在でもMicrosoft自身が率先して、情報提供や開発陣のサポートを行っているものの、従来のデスクトップを過去の存在として追いやるようなWindowsストアアプリがキラーアイテムとして登場することを待ちたい。