第1章 Windows 8への道 - Windows 1.0からWindows 8まで その5

Microsoftの念頭にあったコンシューマー向けOSとビジネス向けOSの融合を初めて形にしたのが、2000年2月にリリースしたWindows 2000である。前バージョンであるWindows NT 4.0から実装したNTFS(New Technology File System)により、ストレージの大容量化やパフォーマンスの向上を実現。DirectXの一部を取り込むと同時に、Windows 9x系で培ってきたUSBやACPIといった内部的機能を備えることで、一定レベルの堅牢性を維持するデスクトップOSが誕生した(図014)。

図014 Windows 2000。一見するとWindows Me風だが、カーネルなど各所が異なる

前述のとおりWindows 2000は、Cairoプロジェクトの停滞から生まれたWindows 95と同じく、"中継ぎ"的なOSである。当時のMicrosoftにはOSの融合計画とは別に、Windows 9x系とNT系のカーネルを統一する予定もあったという。結果的には、Windows 2000の成功により破棄されることとなったが、当時の情報を精査すると計画自体は早期から予定されていたが、技術的理由はもちろんマーケティングに起因する理由なども相まって、予定は遅々と遅れてしまった。そのため、Windows 9x系とNT系のカーネルを統合するのではなく、後者を主軸にWindows 2000という企業向けとコンシューマー向け両者の顔を持つOSを作り上げたのである。

Windows NT系に数えられるWindows 2000は、それまでのラインナップと同じように、従来のWorkstationに相当するProfessional、小規模サーバー向けの同Server、中規模サーバー向けの同Advanced Server、大規模サーバー向けの同Datacenter Serverと四種類のエディションを用意していた。この方針はWindows 2000が最後となり、Windows XP以降はクライアント向けOSとサーバー向けOSを分離。Windows 2003 Serverシリーズを用意した。

それまでのWindows OSの中では、高い安定性を誇るWindows 2000だったが、あまり印象に残っていないはず。それというのも、翌年の2001年にはWindows XPが早々に登場しているからだ。そもそもWindows 2000が発売された、たった二カ月後に開催されたWinHECで、後にWindows XPとなる次世代OS「Whistler」(ウイスラー、開発コード名)の概要が発表されたのだ。Windows 2000とWindows Meの後継OSに位置するWhistlerは、両者の長所を備えた同社の主軸OSとして披露されたのである(図015)。

図015 開発途中版のWhistler。ビルド番号は2250。デスクトップデザインはまだWindows 2000風だった

Whistlerの存在はあまりにも唐突に見えるが、社内では七転八倒の方向転換が行われていた。当初Windows 2000をベースにコンシューマー向けOSとしてNeptune(ネプチューン)の開発が進んでいたが、諸事情で計画はお蔵入り。その結果Windows 9x系カーネルを採用したWindows Meがリリースされたのである。その一方で純粋なWindows 2000の後継OSとして開発が進められていたOdyssey(オデッセイ)が浮上し、Neptune開発チームとOdyssey開発チームが統合。その結果生まれたのがWhistlerだ。

ベータテストを経て2001年8月(日本語版は同年10月)にリリースされたWindows XPは、当時としては比較的高いシステム要件に阻まれ、あまり評価されなかった。Luna(ルナ)と呼ばれるGUIデザインが、冗長かつパフォーマンスダウンにつながる、と判断したユーザーはWindows 2000を再インストールしたという。LunaはWindows XPで強化されたビジュアルスタイルの一つで、それまで無機質な四角形から、丸みを帯びさせることで親和性を高めることに成功したものの、低スペックのコンピューターでは描画処理が増えるため、Windows 2000風のクラシックデザインを選択するユーザーも少なくなかった(図016)。

図016 Windows XP。ビジュアルスタイルとして採用したLunaが印象的なOSだった

現在のWindows OSやMicrosoft製ソフトウェアにも用いられているアクティベーション(ライセンス認証)が導入されたのもWindows XPからである。不正コピーを防ぐために導入されたアクティベーションは、ハードウェア構成などを元に一意性を判断していたが、一定カウント数を超えてしまうとOS導入後でも再アクティベーションが発生してしまう。この点を嫌う自作ユーザーが、Windows 2000を使い続けていたのも理解できるだろう。

Windows XPはユーザーの切り替えやシステムの復元、ClearTypeなど数多く新機能が搭載し、コンシューマーOSに対するスタイルを確立したOSだが、前述のとおりハードウェアスペックの問題で快適に動作させるのは難しかった。そのため、不要なサービスの停止やレジストリのエントリを調整するチューニングが盛り上がったのは記憶に新しいのではないだろうか。