第1章 Windows 8への道 - Windows 1.0からWindows 8まで その7

このように安定したWindows XPは人気を博したが、その一方でMicrosoftは次世代OSの開発につまずいてしまう。そもそもWindows XPの初リリースは2001年11月。次バージョンとなるWindows Vistaは2006年11月と五年もの開きがある。これまでの同社は二年ないし三年スパンで新OSを発表してきたことを踏まえると、異常事態であることを理解できるだろう。

そもそも1998年当時、同社の研究機関であるMicrosoft Researchで次世代OSに実装する新技術の研究が行われ、その結果生まれたのがBlackcomb(ブラッコム:開発コード名)である。同社が実際にBlackcombについて言及したことはないものの、当時のITジャーナリストらによれば、2001年時点ではWindows XPの後継OSに位置していたようだ。

Blackcombでは当時は概念しかなかった.NETテクノロジーを筆頭に、まったく新しいOSを開発しようと試みていたが、Cairoプロジェクトと同じく、いつまで経っても成果物の完成に至ることはなかった。そこで登場するのが"中継ぎ"OSであるLonghorn(ロングホーン:開発コード名)。先進的なアイディアを盛り込み、ユーザーや市場の注目を集めていたが、2003年時点の開発途中版(Build 4501)のシステム要件は4GHz(ギガヘルツ)のプロセッサ、物理メモリは2ギガバイト以上と、当時としては手の届かないものだった(図018)。

図018 Longhornのデスクトップ。ビルド番号は4051。後のWindows Vistaを彷彿させる

当時多く知られていたムーアの法則に則せば、Longhorn開発チームの設定したハードウェア・スペックは高望みしたものではないはずだが、実際はハードウェアの進化も停滞し、非現実的なスペックであることがはっきりしただけだった。そのため2004年以降の同開発チームは、Longhornの機能縮小に取り組み、その結果生まれたのが後述するWindows Vistaである。

Blackcombから始まる混乱は続き、数多くの技術をお蔵入りさせることとなった。中でも特筆すべきがWinFS(Windows File System)である。Cairoプロジェクト時代から続く同技術は、NTFS上の点在するファイルをリレーショナルデータベースで管理し、個々のファイルが持つ情報をアプリケーションに提供するというものだ。この実装を元にマイドキュメントフォルダーなども仮想フォルダー(Virtual Folder)として管理する予定だったものの、WinFSの開発自体が遅々として進まなかった。

最終的にはWindows Vistaのリリースタイミングを考慮し、ベータ1を最後にWinFSの実装を取りやめ、WinFS自体の開発を中止している。このような経緯でBlackcombはVienna(ビエナ:開発コード名)となり、一部技術をWindows VistaをベースにしたWindows 7へと受け継ぐこととなった。確かにWindows XPは大ブレイクしたOSだが、その影では度重なる遅延で迷走したBlackcomb。大幅な仕様変更で本来とは違う姿で世に出ざるを得なかったLonghorn。一連の流れはCairoプロジェクトに続く第二混乱期となってしまったのである。