第7章 Windows 8の機能とソフトウェア - Adobe Flash Playerを内蔵する「Internet Explorer 10」

第4章ではWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10を紹介したが、ここではデスクトップ版Internet Explorer 10を紹介する。デスクトップアプリとしてのWebブラウザーはInternet Explorer 10だけでなく、Mozilla FirefoxやGoogle Chromeなど、数多くのライバルが存在し、独自のアドバンテージを備えねばならなかった。その一方でRIA化したWebアプリケーションが増加することで、Webブラウザーの重要性も高まっている。

そのためMicrosoftは、HTMLレンダリングエンジンであるTrident(トライデント)を強化。HTML5やCSS3への対応強化や、Internet Explorer 9から搭載されたJavaScriptエンジンであるChakra(チャクラ)の改良が行われている。多くの方がご存じのとおり、Windows OSとInternet Explorerの開発は別プロセスで行われてきた。

Internet Explorer 10も、2011年4月から「Platform Preview 1」として独自開発を進め、同年6月には「Platform Preview 2」をリリース。同年9月以降はWindows 8のプレビュー版に統合され、プレビュー版の更新と共に開発が進められている。そして、Windows 8 RTM版には、正式版となるInternet Explorer 10が搭載された(図509)。

図509 Windows 8のinternet Explorer 10。バージョンは「10.0.9200.16384」。新バージョンをチェックする機能が復活した

Web開発者はサポートするタグの内容に興味が向くだろうが、エンドユーザー向けのパフォーマンスに関して注目しよう。WebブラウザーにおけるWebページ表示のパフォーマンスはHTMLレンダリングエンジンとJavaScriptエンジンに集約されるが、大きな差を生み出すのは後者である。近年はインタラクティブなWebサイトが増え、JavaScriptの実行スピードが閲覧の快適性を左右するようになった(図510)。

図510 CSS TransformsとAnimationsを使った動きのあるデモページ

基本的な構成はInternet Explorer 9に搭載されたChakraと大差ないが、JIT(Just-In-Time)コンパイラがサポートするプロセッサとして、x64とARMが新たに加わり、それらのプロセッサを搭載するコンピューターでも処理スピード向上の恩恵を受けられる。また、JITコンパイラが生成する命令量も軽減され、全体的なメモリ消費量の抑制と、処理速度の向上も実現したという。

もう一つのポイントはガベージコレクションの強化。プログラムが動的に確保したメモリ領域から、不要になった領域を自動的に解放する機能で、プログラミング手法としては一般的である。従来は破棄されたオブジェクトからメモリを回収していなかったため、Webブラウザーが瞬間的に応答しなくなるという場面が発生してた。だが、新しいChakraはメモリ管理とガベージコレクターに改良を加え、ガベージコレクションのタイミングを見直すことで、中断場面を大幅に軽減。

これらの変更によって、Internet Explorer 10におけるJavaScript実行環境は大幅に改善されている。その一方でシステム的な改良も加わった。セキュリティ対策は前章のSmartScreenフィルターで述べてしまったので、機能的な変更点を確認していこう。一つ目はAdobe Flash Playerの統合だ。Google Chromeが既に同様の仕組みを備えているが、Windows 8の場合はWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10がアドオンをサポートしないため、市場対策のために導入された救済策だ。

しかし、Adobe Flash Playerはご存じのとおりバージョンアップ頻度が多く、それにActiveX版が追従できるのか疑問が残る。通常であればWindows Update経由で更新されていくのだと思われるが、執筆時点の9月上旬はバージョン11.4.402.265がリリースされながらも、ActiveX版の更新がWindows Updateに列挙されることはなかった。しかし、RTM版リリースまで更新しないと述べていた同社だが、9月21日(米国時間)の時点でAdobe Flash Playerを更新する修正プログラ(KB2755801)を公開。このように今後はWindows Update経由でサポートされるのだろう(図511)。

図511 執筆時点で内蔵するActiveX版よりも新しいバージョンがリリースされている状態だった

もう一つは「Do Not Track」という呼称で知られている「トラッキング防止」機能である。広告団体から多くの批判を集めつつも、初期状態で有効になったという。そもそもトラッキングとは、広告を見たユーザー(Webブラウザー)に対して、より訴求性の高い広告を配信するため、その後に閲覧したWebページに対する操作を追いかける仕組みを用いている。広告出稿側として有効な機能だが、プライバシー情報の保護が声高に叫ばれている昨今、欧米を中心に問題視されるようになった。

この対策として用意されたのが、トラッキング防止機能である。具体的にはWebブラウザーのリクエストヘッダに「DNT」というパラメータを追加するだけだ。しかし広告掲載側は、同パラメータを踏まえてトラッキングを抑制する選択肢が生まれたに過ぎない。あくまでも推奨にとどまっており、法的抑制や義務があるわけではないことを留意しなければならない。このあたりはプライバシー問題の新しい課題であり、なかなか答えを出しづらいが、トラッキング防止リストを併用しつつ自己防衛に努めてほしい(図512~513)。

図512 Internet Explorer 10は初期状態でトラッキング防止機能が有効になっている

図513 アドオンから管理できる「追跡防止リスト」。こちらは新機能ではない

以上がInternet Explorer 10の主な新機能だが、多くのユーザーは古いInternet Explorerの印象が強く、どうしてもサードパーティ製Webブラウザーを選択してしまうことが多いだろう。実際に筆者も拡張機能が豊富なMozilla Firefoxをメインに使用している。しかし、これらのパフォーマンスや機能改善を総合的に見ると、Internet Explorerも十分信頼に至るWebブラウザーに成長したと言っても過言ではない。興味を持たれた方はサードパーティ製Webブラウザーと併用しつつ、新しいInternet Explorerを評価してほしい。