第1章 Windows 8への道 - Windows 1.0からWindows 8まで その8

2006年11月に登場したWindows Vistaはイタリア語で「眺望」を意味し、Microsoftも「混乱を解消し、あふれる情報を整理し、未来を垣間見る」という思いを込めて名付けたのだろう。しかし、Windows XPの長期化は、ユーザーに新しいOSの必要性を忘れさせるのに十分な月日だった。

Windows Vistaはユーザーの目を惹き付ける新UI(ユーザーインタフェース)としてWindows Aeroを搭載して、GPUの3D機能を用いた透過処理(Aero Glass)やリソース消費の軽減を実現し、Windows XPから続く古風な印象を一新。また、ユーザーの行動パターンに基づいて必要なデータをメモリ上にキャッシュし、全体的なパフォーマンスを向上させるスーパーフェッチ(SuperFetch)。USBメモリをキャッシュメモリとして使用することでパフォーマンスの向上を目指すレディブースト(ReadyBoost)など、システムを拡充するための機能が多数実装されている(図019)。

図019 Windows Vista。Windows Aeroによる透過機能が印象的だ

しかし、ここでもハードウェアスペックの問題が発生した。Windows Vistaでは、Windows Vista CapableとWindows Vista Premium Readyという、二種類のシステム要件が用意されていた。端的に述べれば前者は最低システム要件、後者は理想のシステム要件である。今にして思えばさほど高くないシステム要件だったが、Windows XPから乗り換えるにはハードルが高く、Windows XP登場直後に言われていた「重い」「遅い」という評価が、ここでもふたたび与えられた。

確かに見過ごすことのできないバグや仕様変更もあり、使い勝手は高くなかったものの、この評価は正しいものではないと筆者は愚考する。Windows Vista RC(Release Candidate)版からメインコンピューターに導入していたが、当時のコンピューターに物理メモリを4ギガバイトまで搭載していたため、当初から応答性の悪さを感じず使うことができた。

その一方でWindows Vista Premium Readyの要件をギリギリで満たすコンピューターでは、"遅い"と感じる場面も確かに経験していることを踏まえれば、前述の悪い評価はハードウェアスペックを棚上げした意見といえるだろう。いずれにせよWindows Vistaが過度なハードウェアスペックを要求するOSであったのは事実だ。

同OSが安定するようになったのは、2007年8月にリリースされたWindows Vista Service Pack 1以降。しかし、一度下された評価が変化することはなく、多くのユーザーがWindows Vistaをスキップして、Windows 7へアップグレードしていった。Windows Vistaは、32ビット版と64ビット版の両方を同時に提供する初めてのWindows OSとなり、64ビットアーキテクチャの特徴である使用可能メモリ容量も格段に増え、個人的には快適なOS環境の一つである。リリースタイミングや状況が異なれば、もっと正しい評価を得られたOSになっただろう。

そして2009年にリリースされたのがWindows 7だ。歴史の表舞台に現れたのは2008年頃のMicrosoft公式ブログに、クライアント向けウィンドウズOS開発チームに属するChris Flores(クリス・フローレス)氏が投稿した記事。開発コード名がそのまま製品名に採用されるのは同社としても希なケースだが、注目すべきは内部バージョンである。製品名を見ればバージョン7.0に相当するように思えるが、Windows 7のバージョンは6.1。後述するWindows 8もバージョンは6.2。つまり、Windows Vista以降はマイナーアップデートにとどまっているのだ(図020~021)。

図020 各Windows OSのバージョン情報

図021 Windows 7のデスクトップ。ライブプレビューなどWindows Aeroが有効活用されている

Windows 7は前バージョンのOSとなるため詳しい解説は割愛するが、デスクトップというメタファーが有効だった時代を象徴する最後のOSとなる。詳しくは後述するが、Windows 8は新UIを前面に押し出した新しいコンセプトを採用し、Windows 7までとは異なるアプローチをユーザーに強いたOSだ。コンピューター自身のあり方が変化する今、Windows 8がデファクトスタンダードOSになり得るのか、それとも奇異なOSとして歴史に残るのか現時点では判断するのは難しい。そこで次節からWindows 8の機能や特徴を詳細にピックアップしていくので、是非自身の目でご判断いただきたい。