第5章 Windows 10のテクノロジー - PDFの標準サポートはXPSを捨て去る布石か
Windows 10 Insider Previewを使ってきた方ならご承知のとおり、早期ビルドから仮想プリンタとして「Microsoft Print to PDF(旧Print as a PDF)」を搭載してきた。PDFに関しては改めて述べるまでもないデファクトスタンダードな電子書類フォーマットだが、Microsoftはその対抗馬としてXPS(XML Paper Specification)を開発し、2009年6月には国際標準規格にもなっている(厳密には「OpenXPS(ECMA-388 Open XML Paper Specification)」。XPSと互換性はない)。
そもそもXPSはPostScriptやLIPSといったページ記述言語の一種で、Windows 10でもUI各所に使われているXAMLのサブセットとして生まれた存在だ。既にWindows Vistaの時代から内部レンダリングフィルターをGDIからXPSに置き換わり、対応プリンタさえあればスムーズな印刷が可能である。古いユーザーであればNeXTのDisplay PostScriptとPSプリンタの関係と言えば分かりやすいだろう。その点において言えばXPSは、基幹的な技術に属するため、次世代技術が登場するまで"捨てる"という選択肢は現実的ではない。
だが、単純に電子書類フォーマットとしてのPDFとXPSの存在を比べると、後塵を拝するというよりも、"XPSフォーマットは使われていない"と正直に述べた方が正確だろう。Microsoftの公式資料も以前はXPSフォーマットを使う部署が多かったように記憶しているが、最近はWord文書ファイルやPDFファイルのまま配布している。この変節はビジネスモデルの変革と時流に合わせて、個々のフォーマットにこだわっている時代ではない、ということをMicrosoftが受け入れた結果だろう。
さて、仮想PDFプリンタの性能に目を向けよう。Microsoft Print to PDFは仮想プリンタとして使用できるため、アプリケーションの制限はない。デスクトップアプリやユニバーサルWindowsアプリから印刷機能を使えばPDFファイルの作成が可能になる。オプション設定は必要最小限の項目を用意している程度で、特殊な項目は見当たらない。
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Microsoft Edgeの印刷機能からMicrosoft Print to PDFを選択した状態。オプション項目は標準的なものばかりだ |
<その他の設定>から選択できる項目は「印刷の向き」と「用紙サイズ」のみだった |
PDFファイルはドキュメントフォルダーに出力し、関連付けは最初からMicrosoft Edgeだったため、そのまま同アプリケーションが起動する。ちなみにMicrosoft EdgeのWebノート機能はPDFファイルに対して使えなかった。コメント挿入などの機能も備えていないため、PDFファイルを校正などに使う場合は別途ビューアーを用意した方がいいだろう。
生成したPDFファイルをAcrobatでプロパティダイアログを確認してみると、PDFのバージョンは1.7。国際標準化機構(ISO)による標準化に合わせたPDFを出力するようだ。あくまでも印刷物として出力しているせいか、Webサーバからページ単位でダウンロードするバイトサービングを有効にする「Web表示用に最適化」は行われていない。また、Microsoft Print to PDFのオプション設定からも分かるようにセキュリティ設定は皆無である。
これらのことからMicrosoft Print to PDFは必要最小限の機能を備える仮想プリンタであり、印刷用紙の代わりにPDFファイルに出力するといった日常業務程度であれば十分使えるものの、印刷用途を目的としたPDF/Xや長期保存を主眼に置くPDF/Aといった規格を選択する場合は、従来どおり専用のPDF作成ツールの併用が必要となりそうだ。






