第1章 Windows 10は新たな時代を築けるか - プラットフォーム化するWindows

Microsoftの変革が始まったのは、CEO(最高経営責任者)としてSatya Nadella氏が就任した2014年2月以降と言えるだろう。同社CEOを振り返ると、共同創業者の1人であるBill Gates氏、Steve Ballmer氏、そしてNadella氏は、就任直後から「モバイルファースト・クラウドファースト」のキーワードを掲げていたが、具体的な内容を解説したのが2014年7月、内外にメールで発信した「Bold Ambition & Our Core(大胆な理想と我々のコア)」である。

2014年10月に訪日したMicrosoft CEOのSatya Nadella氏

Nadella氏は自社の組織と文化を変革するにあたって、これまでとは異なる価値観の元に長年続いた慣例(=文化)やビジネスモデルを変えなければならない。デジタル化が進む社会において、相互接続したプラットフォームという視点を重視しながらWindowsエコシステムを目指すと述べている(詳しくは日本マイクロソフトの抄訳記事を参照)。

ここで言う「エコシステム」は生態系を指す科学用語ではなく、複数の企業が開発や営業など事業活動上のパートナーシップを組んで、共存共栄する仕組みを指すバズワードだ。既に90年代から昨今までのWindows一強多弱時代は過ぎ去り、AppleやGoogleといったスマートフォン・タブレットを武器にした勢力が台頭する状況を踏まえ、Nadella氏はエコシステムをビジネスの核としたのである。

Nadella氏はWindows 10の存在を「モバイルファースト、クラウドファースト時代を始める中心的な役割になることを期待している」と、2014年1月のプレスリリースで述べている。それを受ける形で2015年4月末に開催した開発者向けカンファレンス「Build 2015」では、2~3年内に10億台のデバイス上でWindows 10が動作することを目指すと表明した。

Microsoftは10億台ものデバイスでWindows 10が動作することを目指している

もっともNadella氏は先のプレスリリースで「我々の理想は15億人がWindows 10を気に入り、何十億もの人々がWindowsをホームグラウンドとして利用することだ」と述べているから、10億台という数字は控えめであることが分かる。

この目標を実現するためWindowsはPC固有のOSではなく、スマートフォンやIoT(Internet of Things)デバイス向けOSを目指したマルチプラットフォーム化(詳しくは後述する)を目指し、開発環境においてもAndroid(Java/C++)やiOS(Object C)向けアプリケーションからの移植性を高めるSDKを用意する。よく見ればMicrosoftは"過去の頑な姿勢から柔軟性を強めた"と言えるものの、穿(うが)った見方をすれば、"なりふり構わずIT業界すべてと手を取り合う"と言えるだろう。

2001年に前CEOであるBallmer氏は「Linux is a cancer(Linuxはガンだ)」と非公式に発言したと言われているが、Nadella氏は2014年10月自社開催のMicrosoft Cloud Briefingで、「Microsoft LOVES Linux(我々はLinuxも愛している)」と発言している。こちらは公式サイトで視聴できるが、同社がYouTubeにアップした動画の方が分かりやすい。

Ballmer氏が営業畑が中心だったからモバイル・クラウド時代に対応し切れなかったという見方もあれば、Nadella氏がCloud and Enterprise部門EVP(上級副社長)出身だからこそ、Windowsだけではままならない状況を把握できたという見方もあるだろう。分かっていることは、今はWindows単独の時代ではない。エコシステムによる共存共栄が目の前の課題だが、その核にはMicrosoft(=Windows)がいるという同社の目標である。

だからこそMicrosoftは、Windowsをサービスとして常に居続けさせ、Microsoft Azureなどのハブと連動する浸透的な存在に移行させようとしているのだ。