旅行や出張で仲間と並んだ席を取る場合、誰かがまとめて指定券を買う。事前にきっぷを渡せない相手には、当日、現地で渡すことになる。

「指定席を買ったら3号車でした。発車10分前にホームで待ち合わせましょう」

あるいはもっと気楽に、「自由席でいいよね」という場合もある。
そして当日、乗るべき列車がホームに着いたとき、ちょっと慌てる。

「3号車ってどこ、前のほう? 後ろのほう?」
「この列車の自由席ってどこ? 1号車から3号車まで? それってどの辺り?」

  • 東京駅を発着する列車の1号車は西側(大阪方面)にある

そんなときのために「1号車の法則」を覚えておこう。基本的には、東京駅のホームに着いたとき、西側(大阪方面)の先頭車が1号車となっている。JRグループは国鉄時代の基準を引き継いでいる。

東海道新幹線は下り新大阪方面の先頭車が1号車。一方、東北・上越・北陸新幹線は上り東京方面の先頭車が1号車で、東京駅到着時に1号車の位置が東海道新幹線と同じになる。ちなみに山形新幹線「つばさ」、秋田新幹線「こまち」には1号車がなく、10両編成の「はやぶさ」「やまびこ」と連結するために11~17号車となっている。

伊豆方面の特急「踊り子」は下り熱海・伊豆急下田方面の先頭車が1号車。これに対し、中央本線の特急「スーパーあずさ」は上り新宿・東京方面の先頭車が1号車となっている。新宿駅発着の列車が多いけれど、東京駅に到着した際、1号車が東海道新幹線と同一の位置になる。千葉・房総方面の特急「しおさい」は、東京駅地下ホームに停車したとき、新橋側の先頭車が1号車になっている。

在来線の普通列車なども、東京駅を基準にすると1号車の位置がわかりやすい。上野東京ラインや京浜東北線の列車は横浜方面の先頭車が1号車。山手線は外回り(東京駅から品川・渋谷方面)の先頭車が1号車、内回り(東京駅から上野方面)の先頭車が11号車となる。山手線の各駅で外回り・内回りの電車が並んだとき、1号車同士が並ぶわけだ。号車番号の表示はシールで貼り付けるなど固定されているから、その電車が内回りで走っても外回りで走っても同じ号車番号になる。

しかし、すべての列車が東京駅を通るわけではない。東京駅を通らない列車の号車番号は、東京駅を通る列車に合わせている。九州新幹線は東海道・山陽新幹線「のぞみ」などに合わせ、鹿児島中央方面の先頭車を1号車としている。JR西日本の特急「はまかぜ」も、大阪駅を発車するときは神戸・姫路方面の先頭車が1号車となっている。

JR北海道の特急「北斗」は函館行の先頭車が1号車。函館~札幌間の特急列車は青函連絡船の時代からこの位置だった。東北本線の特急列車に合わせて東京方面の先頭車を1号車とし、それがいまも続いている。北海道新幹線が新函館北斗駅に到達すると、ちょうど「はやぶさ」と同じ側が1号車になった。

もっとも、基本を守っていても、列車の運行経路が複雑になると1号車の位置をそろえられない。たとえば大崎~池袋間では、埼京線の電車は山手線の号車番号に合わせているため、池袋側の先頭車が1号車となる。これに対し、湘南新宿ラインは東海道線の号車番号を使うため、大崎側の先頭車が1号車となり、埼京線とは1号車の位置が逆になる。

例外もある。特急「しなの」は名古屋駅で東海道本線の列車に合わせた場合、本来なら大阪側の先頭車が1号車になるはず。実際には長野方面の先頭車が1号車で、篠ノ井線内では東京方面からの特急「スーパーあずさ」「あずさ」と1号車の向きが反対になる。

そもそも「東京駅を基準に西側が1号車」という基本法則はどうして作られたか。それはもしかしたら、1872(明治5)年の鉄道開業の頃に決まったかもしれない。鉄道の開通式典の記念列車には号車番号が与えられていた。機関車寄りの1号車と2号車に近衛護衛兵が乗車した。3号車に明治天皇。4号車は政治家や大使、5号車は海外来賓という編成だった。したがって、号車番号は横浜方面の先頭車が1号車となり、この基準に合わせるように全国の列車で1号車の位置が決められていった。

もし、開業記念式典の記念列車が横浜発新橋行だったら、新橋方面の先頭車が1号車になったのではないか。東海道本線は現在とは逆に「東京へ向かう列車の先頭車両が1号車」になっていたかもしれない。