電車に乗るとき、扉や窓のそばで赤いランプが光っている。しかし、ほとんどの乗客は気にしないと思う。それも当然、このランプは乗客のためではなく、車掌や駅員に「この車両の扉が開いていますよ」と知らせるランプだ。扉が閉まるとすべての車両の赤ランプが消える。

  • 都営新宿線本八幡駅に停車中の電車(2018年4月の報道公開にて撮影)。扉が開いている間、車体側面の赤いランプが光っている

このランプを「車側表示灯」という。「側灯」と略して呼ぶ場合もあり、車掌が指をさして「側灯滅(そくとうめつ)」と声を出して確認している。

車側表示灯が点灯していると電車は発車できない。車掌はドアを閉める操作をした後、すべての車両の側面で赤ランプが消えたことを確認し、運転士にブザーで発車の合図をする。すべての扉が閉まったことは運転席の「戸閉表示灯」の点灯でも確認できる。運転士は車掌の合図と戸閉表示灯の両方を確認して電車を発車させる。ワンマン運転の場合も、運転士は窓やバックミラーで車側表示灯を確認している。

すべての車両のドアを閉めたとき、1つでも車側表示灯が点灯していると、その車両は何らかの事情でドアが開いている。たとえば乗客の体や荷物などが扉に挟まっているおそれがある。原因を解決し、車側表示灯が消えるまで発車できない。

都市部の電車は長編成化しており、カーブのあるホームでは車掌からすべての車側表示灯を確認できないことがある。その場合は駅員が車掌の代わりに車側表示灯を確認し、ランプで車掌に合図を送る。

車側表示灯は、赤の戸閉め車側灯の他にもある。車両の故障を示す警告灯、車内の非常ボタンを押したときに点灯する非常灯などだ。駅員や車掌が外部から問題のある車両を発見しやすくなっている。これらは赤い戸閉め車側灯と区別するため、橙色、黄色、緑色、白色など別の色を使う。

駅で観察してみると、古いタイプでは4種類以上の車側灯を備えた車両もあった。しかし、運転台のモニターで故障車両の確認ができるようになると、故障表示ランプの役目は終わった。現在は赤の戸閉め車側灯のみ、あるいは非常灯を組み合わせた2個一体型ランプが多いようだ。非常灯も点いてはいけないランプだから、列車の走行中は側面のランプがすべて消えている状態になる。

電車を降りたとき、もし時間に余裕があったら、振り返って電車の発車を見送ってみよう。扉が閉まり、すべての車両の戸閉め車側灯の赤いランプが一斉に消える。とくに夜間、たくさんのランプが一斉に消える様子に儚さを感じるかもしれない。しかしそれは消えて良いランプ。安心のしるしといえる。