さまざまな「キダルト(キッズ+アダルト)」ホビーを紹介していく当連載。今回は手に取りやすいNゲージ鉄道模型として、KATOの「旅するNゲージ」というシリーズを紹介したい。国内NゲージのパイオニアであるKATO(関水金属)が展開している「旅するNゲージ」は、先頭車両1両を封入したお土産向けシリーズ。2025年11月には、JR九州の誇るD&S列車(デザイン&ストーリー列車、観光列車)、787系「36ぷらす3」が登場した。

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    KATO「旅するNゲージ」に「36ぷらす3」の先頭車両が登場

本誌でもKATOが出展したイベント等で同社の新製品を取材してきたが、「旅するNゲージ」はあまり触れることができていなかった。そこで、「36ぷらす3」を例に「旅するNゲージ」の商品内容を詳しく見ていく。シリーズが生まれた背景なども取材した。

九州7県を走るD&S列車がお土産向けNゲージに

実車の「36ぷらす3」は、JR九州の特急形電車787系を改造し、2020年10月に運行開始したD&S列車。コンセプトに「九州のすべてが、ぎゅーっと詰まった“走る九州”といえる列車」を掲げ、全車両グリーン車の6両編成で運行される。登場時の787系も手がけた水戸岡鋭治氏が車両デザインを担当。通常編成のガンメタリック以上に黒い車体色に、金色の装飾を施した外観に生まれ変わった。内装も九州の伝統工芸を随所に取り入れ、大幅にリニューアル。在来線の特急「つばめ」時代に設置していたビュッフェカウンターも17年ぶりに復活した。

木曜日に博多駅から鹿児島中央駅、金曜日に鹿児島中央駅から宮崎駅、土曜日に宮崎空港駅から別府駅、日曜日に大分駅から博多駅へ走行し、月曜日は博多~佐世保間を往復(往路のみ肥前浜駅停車)。5日間で九州7県を巡る。九州の食や曜日ごとの体験イベント、途中駅での地元関係者によるおもてなしも用意し、乗ること自体が特別な体験となっている。なお、実車の「36ぷらす3」は今後、6号車にグリーン個室を10席新設するリニューアルを実施予定。5月11日の運行をもって一時休止し、リニューアル後は2026年秋の運行再開を予定している。

  • 「36ぷらす3」の実車は5日間かけて九州7県を巡る。車内にグリーン個室やビュッフェカウンターも備える(2020年、編集部撮影)

Nゲージ鉄道模型としての「36ぷらす3」は、KATOが2025年11月に発売し、6両セットと「旅するNゲージ」の2種類を発売。6両セットは前面ライト、1~3号車のテーブルランプ、3号車ビュッフェカウンターの冷蔵庫が点灯し、別パーツの障子窓も付属する。価格は3万5,200円。「旅するNゲージ」は1号車「クモロ787-363」のみの収録で、障子窓も付属しないが、ライトとテーブルランプが点灯する。価格は4,950円。

KATO「旅するNゲージ」シリーズでは、1両用の紙箱を使用している。箱の大部分は共通デザインで、各車両に合わせたカラーリングを加えている。裏面には、収録車両とKATOブランドの概要を3カ国語で掲載しており、外国人観光客がお土産として購入することも意識しているとわかる。この中には、車両本体が1両、ディスプレイ用の直線線路(S186)が1本、車輪が動かないようにする手歯止めが1軸分付属している。

  • 「旅するNゲージ」パッケージと内容物。箱裏面には多国語で概説も載っている

  • 付属の手歯止めは線路に挟むだけで固定可能。車輪を載せるだけで転がらずに飾れる

箱から出して飾る際は、手歯止めを線路の間に挟み、車輪1軸をその上に置きながら線路に載せる。手歯止めに接着剤は必要なく、線路の間に挟むだけでしっかり固定される。箱から出した状態で車両を飾る場合は、手歯止めに車輪を固定しておくと良いだろう。100円ショップなどで手に入るディスプレイケースも用意すると、埃や汚れを避けられる。

Nゲージでも実車の特徴はしっかり再現。外観は光沢のある漆黒の塗装をまとい、屋根や冷房もすべて漆黒塗装になっていることに驚く。金色の文字とロゴマークは前面・側面ともに印刷されている。ドア付近の大型エンブレムは立体表現を施していた。部品構造は通常のNゲージ車両と同じで、車体・床板を外すこともできる。内装部品でもグリーン個室の部屋割りを再現し、各室に置かれたテーブルランプもクリアパーツで表現。実車同様に点灯する。内装表現は造形のみなので、しっかり色分けしたい場合は自力で塗装することになる。

  • <!-- Original start --></picture></span>1号車「クモロ787-363」<!-- Original end -->

    1号車「クモロ787-363」

  • <!-- Original start --></picture></span>随所に金色の装飾も再現。写真左側のエンブレムは立体的に表現<!-- Original end -->

    随所に金色の装飾も再現。写真左側のエンブレムは立体的に表現

  • <!-- Original start --></picture></span>グリーン個室の内装も新規部品となっている<!-- Original end -->

    グリーン個室の内装も新規部品となっている

ちなみに、車体・床板を分ける際、車体下部を少し広げ、中で留まっている爪4カ所を外し、車体を前にスライドさせながら持ち上げて分解する。爪は4カ所とも台車付近にあり、外れたときには音が鳴るので、噛み合っている部分を慎重に探ってほしい。

9V電池と専用ソケットでライト点灯

「旅するNゲージ」は走らないとはいえ、Nゲージ鉄道模型のひとつ。線路に電気を流せばライト点灯も楽しめる。鉄道模型用コントローラーももちろん使えるが、コントローラーがない場合、9V電池と専用ソケットを使うと良い。

9V電池用ソケットを線路に取り付ける際、線路両端に差し込まれているジョイントを先に外す。KATOの9V電池ソケットや、スターターセットなどに同梱するユニジョイナー外しを使ってジョイントを外した後、9V電池用のソケットを線路端に接続。その上で、9V電池をソケットに取り付けると線路に電気が流れるようになる。

  • <!-- Original start --></picture></span>レール先端のジョイナーを外す<!-- Original end -->

    レール先端のジョイナーを外す

  • <!-- Original start --></picture></span>9V電池用のソケット・ジョイントに交換(写真は自作品)<!-- Original end -->

    9V電池用のソケット・ジョイントに交換(写真は自作品)

  • <!-- Original start --></picture></span>車両を線路に載せるとライトが灯る<!-- Original end -->

    車両を線路に載せるとライトが灯る

  • <!-- Original start --></picture></span>クリアパーツのランプに導光し、電球色の光が灯る<!-- Original end -->

    クリアパーツのランプに導光し、電球色の光が灯る

  • <!-- Original start --></picture></span>白色・電球色で光り分けする前照灯<!-- Original end -->

    白色・電球色で光り分けする前照灯

  • <!-- Original start --></picture></span>後部灯<!-- Original end -->

    後部灯

配線の左右を逆にすると、前照灯・後部灯を切り替えられる。前照灯は白色ヘッドライトと電球色のフォグランプの光り分けも再現されていた。テーブルランプは向きに関係なく電球色で室内を照らし、ひときわ見ごたえのあるギミックとなっている。障子窓が付属しないとはいえ、手軽に飾って楽しむには十分だと思う。

ただし、9V電池用ソケットを使用する場合は電圧をコントロールできないため、「旅するNゲージ」のように、動力の入っていない車両を置くのみにとどめておいたほうが良い。動力が組み込まれた車両を9V電池用ソケットで通電した線路に載せると、急発進してしまい、思わぬケガや破損のリスクが生じる。

1両展示をもっと面白くするクリアパーツや室内灯

ここまでの作業で、「旅するNゲージ」は鉄道模型の繊細な技術を生かしつつ、この箱のみで完結するNゲージ製品と見受けられた。一方で、鉄道模型店などで買える別売品を利用すると、より楽しめるようになる。ここでは、手歯止めと室内灯について紹介したい。

車輪を動かなくする手歯止めは、実車でも見られる黄色い手歯止めが商品に付属していた。これをクリアカラーの手歯止め(別売り)に交換する。線路の間に差し込むだけの簡単固定はそのままに、クリアパーツによって手歯止めが目立たなくなる。クリアタイプは30個入りで価格4,950円。筆者が「ホビーセンターカトー東京」で購入した際、2個入りで分売されていた。

  • 「旅するNゲージ」をさらに楽しむべく、クリア手歯止めと室内灯を用意した。クリアパーツによって手歯止めが目立たなくなる

2つ目は「LED室内灯クリア」。「36ぷらす3」はデフォルトでもテーブルランプが点灯するが、客室内全体の照明を追加すると一層映える。今回は実車にちなみ、電球色を用意した。1両分の価格は792円。この中に入っているライトユニット、集電板(銅板2枚)、プリズムを使って、室内灯を組み込んでみる。

KATOの車両では、内装パーツと床板の車端部に集電板を差し込む隙間が開けられている。車体を床板から外し、内装・床板の隙間に集電板を差し込む。その後、集電板と金属のピンが接するようにライトユニットをはめ込む。一方、車体の天井にはプリズムを取り付ける。プリズムには溝が設けられ、車体に合わせてカットできる。プリズムの取付け方法は車両によって異なり、「36ぷらす3」の場合、正しい向きで天井に押し込むと固定される。

「クモロ787-363」のような先頭車両には、ライトレンズの固定と遮光を兼ねたライトケースが固定されている。後ろに引いてから床下側にずらしていくと外せるので、プリズムを入れづらい場合は試してみると良い。ただし、ケースを後ろに引かないとライトレンズが折れる原因になるので、注意する必要がある。

  • <!-- Original start --></picture></span>集電用の銅板を車端部の隙間に差し込み、ライト基板を装着<!-- Original end -->

    集電用の銅板を車端部の隙間に差し込み、ライト基板を装着

  • <!-- Original start --></picture></span>車体の天井にプリズムを設置。プリズムは端から2本目の溝でカット<!-- Original end -->

    車体の天井にプリズムを設置。プリズムは端から2本目の溝でカット

  • <!-- Original start --></picture></span>ライトケースは後ろに引いてから床下側にずらす。レンズを折らないように注意<!-- Original end -->

    ライトケースは後ろに引いてから床下側にずらす。レンズを折らないように注意

  • 室内灯を組み込んで点灯させた状態。車端部のライトユニットから天井のプリズムへ導光する

床板を組み直して線路上に設置し、通電させると、車内全体に光が灯った。車端部に取り付けたライトユニットから天井のプリズムへ導光し、車内全体を照らすしくみになっている。「旅するNゲージ」単体では自走しないため、見て楽しむ要素を増やすとより楽しめるだろう。その他、駅やホームを置く、木や建物を並べるなどの工夫で、さらに生き生きとした情景になる。既製品を置くだけでも情景は十分に発展するが、物足りなくなったら、より本格的なジオラマ制作も待っている。いずれにおいても、この単品車両が活躍するだろう。

クリアータイプの手歯止めと室内灯は、どちらも鉄道模型専門店、量販店の鉄道模型コーナーや「ホビーセンターカトー」で手に入る。慣れないうちは車体の分解や部品の取付けなど怖いかもしれないが、成功すれば車両の見映えが大きく向上する。Nゲージの鉄道模型を始めた後も使えるテクニックなので、試してみてはいかがだろうか。

一方で、車輪やレールは金属部品である以上、ずっと置いたままでいるといずれ錆びてくる。そうなると、通電させてもライトが思い通りに点灯しなくなってしまう。市販の綿棒とレールクリーニング溶液で車輪・レールを拭けるので、日常的な手入れもぜひ行ってほしい。手入れ方法を知ることで、鉄道模型をより長く楽しめるようになる。

KATOに聞く「旅するNゲージ」のきっかけと今後は?

今回、「旅するNゲージ」を詳しく見ていくにあたって、同シリーズについてKATO広報に取材も行った。もともと「旅するNゲージ」を立ち上げる前から、ホビーセンターカトー京都駅店」や台湾新幹線関連、博物館といった一部のチャネルで先頭車両のみの特別パッケージを販売していた。一方、TOMIX(トミーテック)からは「FIRST CAR MUSEUM」(ファーストカーミュージアム)という単品シリーズが先に登場しており、現代の人気車両から懐かしの名車まで、幅広くそろえている。

そうした中、KATOは販売店などにヒアリングを重ね、「Nゲージの先頭車両だけ欲しい」という需要について社内で熟考したところ、「旅の思い出の一部」「鉄道好きな家族へのお土産」という用途が挙げられた。加えてインバウンド需要も見られたという。鉄道に乗る体験そのものが旅の思い出になり、その記念として手のひらサイズのNゲージ鉄道模型が注目されていると気づき、そこから「旅するNゲージ」を立ち上げるに至った。ちなみに、「鉄道で移動すること自体が豊かな体験」という考え方は水戸岡鋭治氏の影響を受けているとのこと。

シリーズの軸には、「鉄道の旅の思い出」というコンセプトがある。コンセプトからブレないように縛りを設けつつ、「旅のお土産」「地域に関連した商品」というイメージを自然に伝えられるネーミングを時間をかけて検討した。これを受けて、ラインナップは先頭車両に限定せず、「乗った(見た)記憶」を象徴できる車両かどうかを重視して決めているとのこと。車両固有のギミックに関しても、「旅するNゲージ」発足当初は省略されていたが、その車両を象徴する要素を可能な限り再現していく方針に変わり、連結機構やギミックライト点灯が単品車両でも楽しめるようになった。車両の部品構成例はここまで見てきた通りだが、KATO車両の部品は、細かいものを含めてすべて国内の自社工場で生産され、人の手で丁寧に組み立てられているとのこと。実際、その精度の高さには筆者もたびたび驚くことがある。

  • <!-- Original start --></picture></span>「36ぷらす3」ではテーブルライトが点灯。他の車両も特徴的なギミックを再現する<!-- Original end -->

    「36ぷらす3」ではテーブルライトが点灯。他の車両も特徴的なギミックを再現する

「旅するNゲージ」はおもに鉄道模型店や量販店の鉄道模型コーナー、鉄道関連博物館のミュージアムショップで販売。ミュージアムショップではとくに好評だという。「36ぷらす3」は実車の車内販売でも扱われ、パッケージがJR九州オリジナルデザインとなっている。販売箇所の拡大について、KATO広報から「まだ実現には至っていませんが、日本各地のお土産物店や百貨店などにも並んでくれたら」との展望もうかがえた。

今後のラインナップ拡大については、自社のNゲージ製品の中で「旅」という文脈と強く結びつく車両を「旅するNゲージ」としても積極的に展開していくとのこと。「旅」の定義は社内でも議論になるポイントらしく、ファンや鉄道各社の声も聞きながら、将来的にはラインナップを全国・海外へ広げていくことも視野も入れているようだった。

KATO「旅するNゲージ」で発売された787系「36ぷらす3」は、外観・内装ともに実車の特徴がNゲージにしっかり落とし込まれていた。とくに漆黒の塗装、エンブレムの立体表現と、テーブルランプの点灯に、筆者も唸ってしまうほどKATOの技術が感じられた。この単品を購入した後で、通常の車両セットにステップアップしても良いだろう。その点でも、旅行のお土産から本格的な趣味の入口になりうるポテンシャルがありそうだと感じた。

「36ぷらす3」以外のラインナップも各種発売中。ちなみに、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」のリニューアル仕様を2026年6月に発売することが決定しており、客車の1号車「マイ77-7001」(ラウンジカー)を「旅するNゲージ」で同時発売するとのことだった。

KATO広報への取材を通じて、「日本が誇る鉄道文化と、繊細なものづくり技術の結晶とも言える存在ですので、そうした価値も含めて多くの方に『Nゲージ』を知っていただければと考えています。『旅するNゲージ』には、そうした新たな市場と鉄道模型市場をつなぐ、いわば“切り込み隊長”のような存在になってほしいです」というねらいも知ることができた。Nゲージファンとしても、シリーズの発展に期待したい。