「第17回全国高等学校鉄道模型コンテスト(全国大会)」が8月1~3日、新宿住友ビル三角広場で開催された。例年、上位入賞を果たしている白梅学園が今年、2部門で2連覇を達成する快挙を成し遂げた。

  • 「鉄道模型コンテスト」出展作品の数々を今回は見ていく(写真は岩倉高等学校の京都丹後鉄道レイアウト)

コンテスト終了後、本誌記事で最優秀賞作品を紹介したが、他の参加校も熱心にジオラマ制作に取り組んでいる。学生の部活以外の個人でも、大人からこどもまで一般参加可能な「T-TRAKジオラマSHOW」「ミニジオラマサーカス」を今年も開催していた。今回は最優秀賞作品を改めて解説するとともに、各企画の出展作品を詳しく紹介する。

モジュール部門に出展された作品の数々

まずは「全国高等学校鉄道模型コンテスト」モジュール部門から振り返る。この部門では、幅900mm×奥行き300mmの直線モジュールまたは一辺600mmの曲線モジュールにジオラマ作品を制作する。ボードも含む作品全体の高さは450mmまで。背景板を設置する場合もその高さに収める。両端に指定された線路以外は配線を多少変更しても良いが、いずれにおいても建築限界を超えないように作品を作らなければならない。

モジュール部門で最優秀賞を受賞したのは、白梅学園清修中高一貫部鉄道模型デザイン班「愛され続ける日光軌道」。東武日光軌道線が存在していた昭和30年代で、紅葉の日光を再現した。これらの樹木は、20色以上を独自に調合して表現。光の当たりやすい高地が先に紅葉し、滝壺付近などの低地には緑を残すように、樹木の配置と光の当たり方も意識した。ジオラマの奥にある華厳の滝は、ジオラマ用・クッション用の2種類の綿を組み合わせ、霧がかかった迫力ある雰囲気を表現。岩肌が濡れていたり、苔むしたりしている質感も再現し、そこから川になっていく部分はレジンと「大波小波」の組み合わせで作成している。

  • 東武日光軌道線、神橋、華厳の滝を望むモジュール作品

  • 紅葉に囲まれた奥に華厳の滝が流れる

  • 東武日光軌道線と神橋周辺の様子

  • 社務所。部員自作の垂れ幕、授与品、花火大会の広告も

  • 車道・併用移動の脇を歩く人々。この中と境内に計4人の部員がいる

  • いろは坂も再現

加えて、人物表現でもさまざまなストーリーを散りばめている。神橋で執り行われている煤払いや、それを見物している観光客はもちろん、ツアー客や、部員自作の授与品を用意した社務所、番組のロケ風景なども取り入れている。いろは坂も作り込んでおり、急カーブに挑むバイクや、路肩から覗いている鹿なども見られる。総じて、視点によって多くの見どころが散りばめられ、自然表現・人物表現ともに完成度の高い作品になっていた。

優秀賞は八洲学園高等学校横浜分校ジオラマクラスと、東京都立大崎高等学校ペーパージオラマ部。八洲学園横浜分校は、「5月5日」という作品を制作した。海を題材とし、かつイベントがある場所として、山陰本線の鎧駅周辺を参考にしたという。特徴的な海は、階層ごとに色分けしたレジンを3回に分けて流し込んで制作。自然な地形となるように注意したとのこと。鯉のぼりはペーパークラフトで、軒下の洗濯物は100円ショップ素材の修正用布で作成し、風になびくように取り付けた。人情がうかがえるような人物配置もポイントとなっている。

この地域の特色として、大半の住宅の屋根が黒色で統一されていることもある。その特色を表現すべく、プラ板を黒く塗装した後に光沢のある仕上がりにした。線路付近のみ地形が高くなった高低差も意識しているとのことだった。

  • 八洲学園高等学校横浜分校の作品。山陰本線鎧駅の町並み

  • 活気づく鎧港で、鯉のぼりが空を泳いでいる

  • 高台になっている海沿いを列車が駆け抜ける

大崎高校は開業111周年を迎えた東京駅丸の内駅舎と、その隣にある「KITTE 丸の内」を紙で制作した。部員らが2DCADで制作した図面をもとに、数千ものパーツを手作業で切り出した上で組み合わせている。装飾や窓枠は重ね貼りによって立体的に表現。その窓はフィルムで作成し、内側にティッシュペーパーと黒い紙を貼ることでカーテンを再現した。

中でもドームなどの曲面はとくに難しく、骨組みをもとに曲げ癖を付けていく際、折り目が入らないようにしなければならなかったという。部員らは搬入直前まで作業を行ったとのことで、「完成して安心した」と話していた。なお、この作品は文部科学大臣賞も受賞した。

  • 大崎高校の東京駅モジュール

  • 数千もの紙素材のパーツで丸の内駅舎を精巧に再現。規格の線路は地下ホームとして使用した

  • 「KITTE 丸の内」屋上から丸の内駅舎を望む

ここからは筆者の独断だが、最優秀賞・優秀賞以外で印象的だった作品も紹介したい。横浜市在住の筆者としては、サレジオ学院高等学校鉄道模型部による昭和の赤レンガ倉庫が目にとまった。フィールドワークや各種資料から考察し、プラ板やレンガ模様の板で赤レンガ倉庫を自作。ところどころ草が伸びている。他にも、倉庫の前まで貨車が止まっていたり、随所に汚し表現があったりと、港湾地区独特の雰囲気を再現していた。観光地化した現在の赤レンガ倉庫と比べると、驚く人も多いのではないかと思う。

東京都立科学技術高等学校鉄道研究部は、「誰もやったことがないだろう」という着眼点で、音を楽しむ作品を制作。JR成田線(成田空港支線)・京成成田スカイアクセス線並走区間を制作したが、高架を中空構造にしたことで、列車のジョイント音が増幅されるという。成田線の線路だととくによく聞こえるだろう。両線で異なる線路表現や、自然豊かな沿線風景とのコントラストも魅力的だった。

  • 貨物の往来があった昭和の赤レンガ倉庫を再現

  • 成田空港へ向かう2路線の高架を再現。JR成田線の線路(京急電鉄の車両の隣)はジョイント音がよく聞こえた

  • ローカル鉄道が走るミニレイアウトとしても成り立つモジュール

最後に、城北埼玉中学・高等学校鉄道研究部の作品は、モジュールとしてつながずともミニレイアウトとして完結する作品として印象的だった。規格の複線を乗換駅に見立て、海と山に囲まれたローカル鉄道へ。舟屋のある港町や、山間部のトンネル、その上の神社や鳥居など、ノスタルジックな情景を複数取り入れており、旅に出たくなるような作品となっていた。

一畳レイアウト部門、多摩や丹後の情景が上位に

次は一畳レイアウト部門を見ていく。長辺900mm~1,820mm・短辺600mm~910mmの寸法範囲で、線路を1周つなげたレイアウトを制作する。他校のモジュール作品と接続しないので、線路のメーカーや配置は自由。ただし、作品全体の高さは700mmにする必要がある。

一畳レイアウト部門の最優秀賞も白梅学園清修中高一貫部が受賞。「耳をすませば聞こえてくるかな」というタイトルで、スタジオジブリ制作映画『耳をすませば』を題材にしたレイアウトを制作した。同作品が京王線の聖蹟桜ヶ丘駅周辺を舞台としているため、多摩地区の町と自然を表現した作品にもなっている。

  • 『耳をすませば』を題材にした一畳レイアウト

  • 高台から商店街と京王線を見下ろす

  • 映画の世界を表現しつつ、現実らしさも感じる街並み

  • 高台へ坂道が続き、上り切った先にも住宅街が広がる。赤茶色の建物が「地球屋」

中央の川を境に、町と高台の両方を再現。作中で主人公「雫」が住んでいる団地は、「パンパステル」(ホルベイン画材)を使用して経年を表現した。高架線の下から商店街をのぞくと、町の生活感を一層感じられる。商店街を中心に、既製品の建物を活用していたようだが、川沿いの柵や高台の住宅には、園芸用の鉢底ネットを加工しているという。

一方の高台は、発泡スチロールを重ね、切り出したところに粘土を使用したという。アスファルトも粘土で作成したとのことで、坂道として傾斜を付けながら、道路表面が平らになるように整えられていた。坂の上も、作中に出てきた「地球屋」を含め、町を作り込んでいる。総じて、映画の世界を表現しつつ、実際にありそうな情景が実現していた。加えて、水の表現や建物のウェザリングなど、過去の出展作品にも見られた技法が取り入れられているので、部員が先輩から学んだ技術がしっかり生かされているように感じられた。

  • 岩倉高等学校の京都丹後鉄道レイアウト。大部分の構造物を自作しつつ、宮津駅周辺と由良川の情景を両立させた

優秀賞は岩倉高等学校鉄道模型部が受賞。京都丹後鉄道を題材に、「由良川を 渡る鉄道 カタチ変え 人々集う 丹後の道かな」を制作した。宮津駅周辺を市街地とし、由良川および由良川橋梁を取り入れた。宮津駅をはじめ、ほとんどの建物・構造物がプラ板や紙で自作されている。とくに注目を集めるであろう由良川橋梁も、フレキシブルレールと、プラ板・プラ棒および真鍮線で作られている。

市街地から由良川付近への風景変化も見事なものだが、実際の丹鉄線は宮福線全線と宮豊線の宮津~天橋立間が電化されている。そうした電化・非電化の分け方や、連続する短いトンネル、それを抜けた後の由良川橋梁と、見どころの詰まった作品となっていた。ちなみに、展示・走行車両はKTR8500形(元・JR東海キハ85系)や113系ワンマン改造車といった既製品からの改造車両が見られ、鉄道ファンとして車両の満足度も高かった。

  • 海城鉄研の函館市電レイアウト。紅葉の函館山をバックに、港町の魅力を詰め込んでいた

最優秀賞・優秀賞以外では、海城中学高等学校鉄道研究部の函館市電レイアウトもさまざまな要素が引き立っていた。秋の函館山と街の対比で、下から上に見せるように表現し、函館の歴史を表す重要な建物は3Dプリンターで制作。他の建物も設計図からプラ板・プラ棒で自作している。朝市を実際の位置からずらし、ジオラマ上で整合性を持たせるなどのアレンジも施したという。制作した部員の1人は、「半年かけて作ったので感慨深い」と話していた。

HOスケール車両を生徒が自作、今回の出展作品は

続いてHO車輌部門を見ていく。この部門では、HOスケール(おもに80分の1スケール)の鉄道模型を生徒自身で自作する。学園祭以外で出展したことのない未発表作品のみ出展でき、一体成形キットや完成品の改造は不可。ただし、台車とパンタグラフ、その他の装飾品は既製品を使用しても問題なく、動力の取付けも可能(会期中は走行できない)となっている。

HO車輌部門で最優秀賞を受賞したのは、西大和学園中学校・高等学校鉄道研究部の「夢紀行―満鉄 パシナ型蒸気機関車」。担当した部員が個人で活動する中、満州を調べる機会があり、そこからパシナ型蒸気機関車の制作を思い付いたという。3Dプリンター・レーザーカッターは使用せず、すべてプラ板や真鍮線で自作。骨組みに沿ってプラ板を曲げて車体を制作した。キャブ内もプラ板と真鍮線で作り込まれ、動輪とロッドも稼働する。

最大の特徴である流線形の前面は、パテやサーフェイサーで処理し、耐水ペーパーで研磨されている。難しかったとのことだが、見事になめらかな表面に仕上がっていた。その外観を資料にもとづいて自ら考えた色で塗装しており、フルスクラッチの完成度と、資料を熟読して理解を深めたことが見事に噛み合っていると感じた。

  • 西大和学園のパシナ型蒸気機関車。車体はなめらかな曲面が出ており、キャブも作り込まれていた

  • 桐蔭学園中等部の「トークアイ」。大部分を自作し、複雑な塗り分けも見事成し遂げた

優秀賞は桐蔭学園中等教育学校鉄道研究部「日々の安全を守る目 TOQ-i」。ケント紙を活用し、東急電鉄の検測車「TOQ-i」(トークアイ)を作り上げた。制作した部員が東急好きで、「せっかく作るなら特別なものを」と考え、制作に至ったという。アンテナ、パンタグラフ、台車に既製品を使いつつ、CADで設計し、既製品以外の屋根上機器は自作。手すりにはホチキスの針を使った。外観の色が多く、塗り分けも複雑なため、厳重にマスキングし、吹き込み防止に努めたとのこと。

HO車輛部門の最優秀賞・優秀賞以外では、大阪府立今宮工科高等学校鉄道研究部のキハ41形も印象的だった。マニアックな車両と思われるが、JR西日本の改造車両が好きという部員が、工作用紙をメインに、ステップや手すりなどに真鍮線を使用して制作した。薄型の冷房も2mm厚のプラ板に工作用紙を組み合わせたとのこと。

  • 今宮工科のキハ41形。更新車の特徴を抑えつつ、この独特な先頭化改造部分を元々の前面と上手く作り分けた

キハ47形の更新車に見られるアルミの窓サッシは別パーツとなっている。制作した部員は「自分としてはかなり良い出来で、完成した時はうれしかった」と話していた。