幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第85回は 女優の宮澤エマさんについて。現在『鎌倉殿の13人』(NHK総合)に出演中の宮澤さん。今年から来年にかけて、ブレイクの期待が沸々と高まる女優さんといえば彼女なのだろうと、作品でお見かけするたびに思います。意志の強さが全面に感じられる雰囲気、惚れ惚れ。

登場するや否や「誰?」と思わせる際立ち

宮澤エマ

毎週、行く末を多くの視聴者が固唾を飲んで見守る『鎌倉殿の13人』。SNSでの盛り上がりも絶好調である。そんなドラマのあらすじを。

源平の争いは続き、平家の追討軍を退けた佐殿こと、源頼朝(大泉洋)。その傍らで北条義時(小栗旬)らも闘いに意を見せつつ、頼朝に関わる人々の世話が続く。鎌倉では本妻の政子(小池栄子)が目を光らせる中、前妻である八重(新垣結衣)も頼朝のそばに住まいを移し、亀(江口のりこ)という新たな存在が出現。戦いは城の中でも止まることはない。

物語を追いかけたくなる要素が満載の『鎌倉殿の13人』。そうあらすじのごとく、戦いの現場がいくつもあるのが要素のひとつ。平家との争いに、これから頭角を表してくるであろう源義経(菅田将暉)の存在。これまでの大河ドラマでも幾度なく見てきた。今回はここに女たちによる場外乱闘が加わっている。その中心にいる小池栄子さん演じる政子に「佐殿は渡しませんよ」という、強靭な覚悟は毎週のハイライトだ。

その政子の妹・実衣(みい)を演じているのが、今回注目している宮澤エマさんである。家族、特に姉の動向を見守り、絶妙なタイミングで突っ込みを入れてくる。

戦から身を守るため、義時が政子たちを一時移住させるように促す。

「姉上だけ行けば良いではないですか」

「生まれてから、ずっとこの家にいるんですけど。(住まいとの)別れを惜しむとか。そういうのはないんですか?」

こんな末っ子らしい跳ねっ返りの意見を飛ばしてくる。実衣役はけしてセリフ数は多くないけれど、一言一言に含まれたエッジがめちゃくちゃ強い。そして目立つ。

美しさも場末感も好バランスだった、朝ドラデビュー

宮澤さんの姿が広く知られるようになったのは、朝ドラ『おちょやん』(2020年)の竹井栗子役。ヒロイン幼少期時代、働きもせずに娘を奉公へ出そうとする父親の、新しい妻として登場した。やわ肌という文字をそのまま表すように、白く美しい肌に、強い意志を見せる顔立ち。美しさと場末感の好バランスが、そこにはあった。「あれ、誰?」と騒つく、朝ドラ視聴者。

ドラマでは新人のポジションだったにも関わらず、時を経て、老婆姿の栗子も見事に演じ切っていた。三味線を引く姿は今でも脳裏にふわん、と浮かんでくる。それもそのはずだ。ドラマではまだ見る機会が少ないものの、彼女はミュージカル女優として数々の作品で名を馳せている。

偶然、彼女が出演していた舞台を見たことがある。その時は"一人の役者さん"という認識だったけれど、多くの出演者の中でまたこれも「あれ、誰?」という興味が働いた。そして朝ドラの栗子役とリンクをした。「ああ、あの人!」。

先日、話題の『スマホ脳』を読んだのだが、その一説に舞台にまつわるものがあった。脳細胞を活性化させる現象のひとつにミラーニューローンというものがある。すごく簡単に言うと、他人と接触することでこの現象を得ることができるらしい。実験によると映画鑑賞では反応がなかったものの、演劇鑑賞では活性化が見られたとあった。精神科医も取り上げるほど、舞台演劇には人の感情を揺らす作用がある。当たり前に思われそうなことかもしれない。でも改めて振り返ると、宮澤さんには観劇の場でだいぶ、揺らされたんだなあと。

彼女の活躍の行き先はまだこれからだけど、見るたびにあの時と同じように、感情を揺さぶられる自分がいそうである。この人、きっとすごい女優になる。