幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る“脇役=バイプレイヤー”にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第88回は 女優の香椎由宇さんについて。春ドラマもそろそろ始まる4月上旬、ラインナップを見て「おっ……」と目を引く名前がありました。それが今回のレビューを書かせていただきたい、香椎由宇さんです。もうゆとり、Z世代になってしまうと彼女のことを知らない人もいるかもしれません。だからこそ描きたかった。美しい伝説を奏でて、そして連ねる女優さんなのです。

生きているうちに拝めて良かった、香椎の美

香椎由宇

香椎さんがこの春出演するのは4月18日(月)から放送開始の『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系)。スタート前につき、詳細はさっぱり分からないけれど、とにかくラブストーリー。桜沢純(広瀬アリス)、長峰柊磨(松村北斗/SixTONES)、清宮響子(西野七瀬)、岩橋要(藤木直人)、真山アリサ(飯豊まりえ)、内村克己(岡山天音)らによって、それぞれの恋が展開していく。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の稔さん役の余韻がまだ残っているので、松村さんがどう新しい顔を見せてくれるのかが個人的な見どころだ。

この面々の向こう側に香椎さんはネイリスト役で登場する。昨年ほんの僅かなシーンでドラマ出演はあったけれど、連続ドラマはもう8年以上ぶりのことらしい。今回は長らくのお休みで、彼女のことを知らない人に事前情報を伝えていこうと思う。

まず、香椎さんといえば顔のパーツが日本人には非常に珍しい、左右対称であることを知ってほしい。この事実というべき事件がデビュー近辺の2003年前後から世間の話題をさらった。男性タレントで言うと、佐藤勝利さんが(SexyZone)同じくシンメトリータイプだと聞いたことがある。いずれにしても生きているうちに見られて良かったと思うほどの現象だ。ちなみに私は彼女によって、こういう顔立ちがあるのだと知った。

また新しい女優の物語が始まるわけで

そんな完全無欠の美が放置されるはずもなく、香椎さんはいわゆるスター街道まっしぐら。印象に残っているのは『有閑倶楽部』(日本テレビ系・2007年)の白鹿野梨子役。そもそも映像化することが難儀であろう、きらびやかさ漂う世界観のマンガだった。でもそんな心配はどこ吹く風と言わんばかりに、香椎さんは演じきっていた。あの白鹿さんを。

今から15年ほど前の日本。香椎さんは新しい"絵に描いたような造形美"の体現者だった。宮沢りえさんなどに見られるような、いくつかのブームはいつの時代にもあったけれど、見事に配列、整備されたパターンはあまり他で記憶がない。

そして他の女優陣とはどこか一線を画すような、凛とした雰囲気も兼ね備えていた香椎さん。ゆえに人気絶頂期、留学をしたり、21歳という若さで俳優のオダギリジョーさんと結婚したこともなぜか不思議はなかった。そう、ここでポカンとしているみなさん、あの『カムカム』のジョーさんが香椎さんの旦那さんなのです。第一線からは退き、家庭中心で生きていた中で彼女には非常に辛い出来事があった。あまりの辛さで、ここに書くことも憚られる。でもよくぞ立ち直り、仕事復帰に至ったとは、家庭での愛情が本当に深いものだったのだと思う。

そんな一人の女優が連ドラに復帰するとなれば、見ないわけにはいいかない。お節介だとわかっていても(いや、コラムは全てがお節介か)、つい彼女のことを伝えたくなってしまう。『恋マジ』非常に楽しみだ。

しかし、だ。本当に大人ってなっがいな〜としみじみ。伝説の美少女だった一人の女優がデビューをして、結婚をして、母になって、職場復帰する過程をずっと知っているのだから。これがあとまだ50年近く続くとは想像の域を超えている。