幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第87回は 俳優の早乙女太一さんについて。最近、地上波でよく姿をお見かけするようになりました。それもわずか2作品なのですが、とても印象に残りました。今まで触れたことはないのですが、ご出身である大衆演劇の実力を見せつけられたような感覚。これはなんでしょうか。沼入り一歩手前なのでしょうか。

錠一郎の夢は、トミーの夢だった大阪の青春

  • 早乙女太一

最近の活躍で早乙女さんに注目が集まったのは、言わずもがな、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』」(NHK総合)のトミー北沢役。物語の二代目ヒロイン、雉真(大月)るい(深津絵里)の恋のお相手・大月錠一郎(オダギリジョー)の親友であり、ライバル役。錠一郎と同じくトランペッターとして人気を得ていた。

演奏をするジャズ喫茶ではいつも女性に囲まれて、愛車は昭和を感じさせる赤のオープンカーのトミー。恵まれた家庭環境で育ち、いつもクールに、斜に構えている様子は、どこかおっとりとした性格の錠一郎とは真逆であった。

そんなトミーが熱さを震わせたシーンは全視聴者の涙を誘った。謎の病からトランペットが吹けなくなってしまった錠一郎を見かけると「何してんねん、おまえは!」と、怒りをあらわにしていたシーン。錠一郎はライバルのはずだ。でもそんな不粋なことは言わせないとばかりに、親友の身を案じる様子は胸打たれた。さらに錠一郎への思いは続く。東京でレコードデビューをさせようと企画をした人間が、病気の錠一郎を捨てるかのようにトミーを東京へ誘う。プロデビューができるというのはミュージシャンにとって、一世一代のチャンスだ。そんな甘い誘いもトミーにとって全く魅力はなかった。

「なんやねん、ワケのわからん病気になったゆうて、ゴミみたいに捨てやがって。ジョーは(病気が)治る。絶対、治る!!」

あの時、トミーは絶対に心で号泣していた(予想)。スカしていたけれど、いい奴じゃないか。

加えて朝ドラで驚いたのは、トランペットを吹く姿に見えたリアリティである。どこかの媒体で、早乙女さんとオダギリさんが、トランペットの猛特訓を受けていたと言う記事を読んだけれど、相当な努力を重ねたと見受ける。とにもかくにも、キャスティングに日本一の目利き師が登場する(と思われる)朝ドラで、功績を残したというのは素晴らしい。ただ何かを持っているだけでは、通用しない世界で、彼は通用してしまった。皮肉なもので、朝ドラ放送中の裏番組で彼の元嫁が結婚指輪を売ろうしていた。これが黙って芸事を磨いてきた人との落差なのだと、あくまで個人的に悟る。

あの流れるような色気はどこで捕まえたら

トミー熱が治らないうちに早乙女さんの姿を見かけたのは『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)のゲスト出演。この作品、初回から何かと話題になることが多かった。そこには主演の菅田将暉さんたちの実力はもちろんのこと、作品を飾るにはふさわしい豪華ゲストが毎回姿を現しているのも、見どころの一つ。例えば、永山瑛太さん、白石麻衣さん、門脇麦さん、水川あさみさん……。作品をとても大事にしていることが伝わるキャスティングである。

その一人として選ばれた早乙女さんは、トミーもびっくりの影がある井原香音人役。自身が母親から虐待されていた経験を経て、虐待されている子供の家を放火していく"炎の天使"。トランペットを持って真っ白のハットとスーツ姿から一転、黒い衣装を着用していたことがそそられた。このモノトーンは何かを示唆しているような気がする……と、思っていたところに朝ドラへトミー北沢が戻ってきた。それも一線級のトランペッターとなり、一度は怒鳴り散らかした女性を嫁にして。またジョーとステージに立っている。この人たちの友情はそんじょそこらの固さではないのだ。

この原稿を書いて私の中に湧いたことがある。それは同じ大衆演劇の重鎮である梅沢富美男はやっぱりすごいのか。そして、早乙女さんのファン層はどんな人たちが多いのか。未知の世界すぎて、困った。