テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第186回は、14日に放送されたTBS系スポーツバラエティ番組『炎の体育会TV SP』(18:21~21:54)をピックアップする。

今回は「東京オリンピック 日の丸メダリスト大集結!」と掲げてソフトボール日本代表、卓球の水谷隼選手・伊藤美誠選手、競泳の大橋悠依選手らメダリストが集結。さらにバドミントンの渡辺勇大選手・東野有紗選手、スケートボードの堀米雄斗選手、体操の村上茉愛選手にも「オファー中」と予告されていた。

レギュラー放送中のスポーツバラエティとして、オリンピック特需をどこまで生かしつつ、視聴者のニーズにどれだけ応えられるのか。

  • 『炎の体育会TV』MCの今田耕司(左)と蛍原徹

■メダリストに優しい“恩返し”企画

番組冒頭、特番のタイトルに「東京オリンピック後 初の超本気プレーで恩返し!」というフレーズが添えられていることに気づかされた。

すでにメダルという大きな成果を得ているメダリストたちが今、テレビで何らかの賞品を得たところで感動は薄く、本人たちも強欲なイメージを嫌って出演しづらい感がある。その点、「お世話になった人々への恩返し」というコンセプトは、新たな感動を誘える上にメダリストたちも出演しやすい。企画の切り口としてはベストに近かったのではないか。

まずは山本里菜アナとフワちゃんが登場したが、なぜかスタジオではなく外の通路。そこにボクシング女子フェザー級金メダルの入江聖奈選手と、競泳200mバタフライ銀メダル・本多灯選手が登場し、早速フワちゃんがなれなれしく写真を撮ったことをアピールする。

「ボクシングと競泳だと、生放送で“超本気プレー”はしづらいのでは?」と思っていたら、始まったのは「ホンネで答えて5の質問!」というトークコーナー。2人は“超本気プレー”要員ではなく、トークパート要員ということなのだろう。

質問は、「正直、メダルを獲れると思っていなかった?」「生まれ変わったら、また同じ競技をやりたい?」「メダルのご褒美に会ってみたい芸能人がいる?」「引退後は芸能活動にちょっとは興味ある?」「今、人生で1番、幸せ?」の5つ。知られざる裏側を尋ねるわけでも、人柄を掘り下げるわけでも、積極的にイジるわけでもない。閉会式から6日がすぎ、オリンピックのムードが薄れはじめたタイミングとしては微妙な質問だった。

■悩ましいチャレンジの難易度設定

ようやくここでタイトルコールがあり、レギュラー陣の待つスタジオに、卓球混合ダブルス金メダル・男子団体銅メダルの水谷隼選手、卓球男子団体銅メダルの丹羽孝希選手と張本智和選手、ソフトボール金メダルの藤田倭選手、レスリング女子50㎏級金メダルの須崎優衣選手、さらに入江選手、本多選手が登場。MCの今田耕司が各選手のプレー映像を振り返りながら、1人ずつショートインタビューをしていった。

続いて本題に入ると思いきや、放送されたのは「メダリスト金の卵時代 超貴重映像」というコーナー。これは若いころに番組出演したメダリストたちの姿を振り返る企画であり、9年前の体操女子・村上茉愛選手、4年前の卓球・水谷隼選手と伊藤美誠選手、5年前のレスリング・須崎優衣選手の過去映像が流された。すでに放送10年の歴史を持つ番組だけに、このようなお宝映像は強みであり、年内いっぱいくらいはメダリスト絡みの映像をもっともっと使ってもいいのではないか。

ゴールデンタイムの19時台に入ると、メインコーナーの「恩返しするための豪華賞品を賭けた難関チャレンジ」がスタート。まずは卓球男子団体の3人が「60秒で3本のロウソクをスマッシュで消す」「変化球サーブでボールをカップに入れる」「2人で21枚の的を撃ち抜く」という3つのチャレンジに挑んだ。

水谷、丹羽、張本の3人は、倉嶋洋介監督ほかチームスタッフに恩返しとして6,500円の高級焼肉弁当を贈るべく奮闘。3つ中2つのチャレンジに成功し、50人前をゲットした。

次にソフトボールの選手たちが宇津木麗華監督に超高級食材とワインを贈るべく、「12球でダブルビンゴ」「100秒バッティング3人で40枚以上」「動く風船を10個中7個割る」に挑戦。VTRでトヨタ自動車所属の後藤希友選手、峰幸代選手、渥美万奈選手、山崎早紀選手が2つのチャレンジを成功させたあと、スタジオで藤田選手が生放送で挑み、見事すべて成功させた。

卓球もソフトボールもチャレンジの難易度設定には悩んだはずだ。もちろん選手は成功させたいし、視聴者もスーパープレーを期待しているし、制作サイドも恩返しを実現して盛り上げてほしい。しかし、イージーすぎても選手のすごさを引き出せない上に、視聴者をしらけさせてしまう。その意味で卓球は絶妙だったが、ソフトボールは簡単すぎたかもしれない。

■パリまでの3年間、出演ラッシュを

続くコーナーは、「東京オリンピックメダリストを鼓舞し支えたパワーソング」と題して、柔道100㎏級金メダル ウルフ・アロン選手のMr.Children「終わりなき旅」、体操個人総合金メダル橋本大輝選手のGENERATIONS from EXILE TRIBE「to the STAGE」、ソフトボール金メダル上野由岐子選手のDOBERMAN INFINITY「We are the one」などが紹介された。

さらに、「体育会最強スラッガー軍VSマスク・ド・ピッチャー」という野球コーナーを放送。“オリンピック特別マッチ”と題してシドニー五輪日本代表のエースだった黒木知宏投手をマスク・ド・ピッチャーに迎え、芸能人たちとの対戦を行った。

最後のコーナーは、「東京パラリンピック開幕直前 金最有力 最強パラアスリート参戦!」。車いすテニスの国枝慎吾選手と上地結衣選手の的当て企画だったが、短時間の放送のみで終了。エンディングは生放送のスタジオに戻り、なぜか再び入江選手と本多選手だけが残っていて、今後の目標を尋ねたところで番組は終了した。

ただ曲を流しただけのパワーソングも、通常コーナーに過去のオリンピアンを絡めただけのマスク・ド・ピッチャーもこじつけの感が強く、「3時間半の尺を埋めるための企画」と言われても仕方がないだろう。「オファー中」と打ち出していたメダリストたちが呼べなかったからこういう構成になったのかもしれないが、数的な物足りなさを感じさせた。

番組全体を振り返っても、東京オリンピックのプレー映像が相当多かった。これらは多くの人々がすでに何度も見ているものだけに、大半の視聴者は生放送ならではのトークやプレーのパートをもっと増やしてほしかったのではないか。

放送翌日には『ジャンクSPORTS』(フジテレビ)と『中居正広のスポーツ!号外スクープ狙います!』(テレビ朝日)が放送され、それぞれメダリストたちが登場。テレビ局にとってオリンピック特需が得られる期間とは言え、トークパートはどうしても似通ってくるだけに、『炎の体育会TV』はもっと“超本気プレー”にフィーチャーして差別化するべきだろう。

また、視聴者にとっても、東京オリンピックで存在を知ったメダリストのすごさをもっと感じたかったのではないか。「メダリストのサイン入りグッズを抽選でプレゼント」という企画があったが、それはスポーツバラエティの本質とは言えない。

『炎の体育会TV』にはパリオリンピックまでの3年間、過去最多58個のメダルを獲得したメダリストを中心に、さまざまな競技のアスリートたちを番組に招いて彼らの魅力を引き出してほしいところだ。それができればパリオリンピック閉会式直後、今回よりも充実した3時間半特番が放送されているだろう。

■次の“贔屓”は…ライバル『王様のブランチ』との関係性は? 『ゼロイチ』

『ゼロイチ』(左から)石川みなみアナ、指原莉乃、松丸亮吾

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送される日本テレビの情報バラエティ番組『ゼロイチ』(毎週土曜10:30~)。

「トレンドや次世代のスターを“ゼロイチ”で生み出す」というコンセプトで今年4月3日にスタートし、まもなく5カ月になる。

果たして指原莉乃、松丸亮吾、石川みなみアナというフレッシュな顔ぶれは機能しているのか。裏番組のライバル『王様のブランチ』(TBS)との比較も含め、さまざまな角度から掘り下げていきたい。