テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第185回は、8日に放送されたNHK『東京2020オリンピック 閉会式』をピックアップする。

17日間にわたる熱戦がついに終わり、閉会式が放送された。開会式は直前までトラブル続きながらも中継はおおむね好評だったが、「Worlds We Share」をテーマに掲げた閉会式はどうだったのか。

ひいては、民放各局の放送も含めて、自国開催のオリンピック関連番組を振り返っていきたい。

  • 閉会式が行われた国立競技場=東京・新宿区

■映像と実況が一致しない不自然さ

2時間超の放送をリアルタイムと録画で2度見た。否定的な声が目立つ式の内容はさておき、ここでは「番組としてどうだったのか」という観点から書いていきたい。

結論から言うと、「的確だった」とも「視聴者を楽しませた」とも思えなかった。めまぐるしく変わるカメラワークは、かえって見づらさを感じさせ、クローズアップした人物の選択も微妙で、多用された空から映像も無観客の寂しさを抱かせる一因に。選手たちの穏やかな表情など閉会式特有の解放感を感じさせるシーンはわずかだった。

それ以上に視聴者をがっかりさせてしまったのが、三瓶宏志アナと桑子真帆アナの実況。落ち着いた語り口こそ好評だった開会式と同じだったものの、映像と実況の内容が一致しないシーンが多かった。

「あ~腕を振りながら……」「上半身裸の方もいらっしゃいますね」「だいぶ集まってきました」と見たままの状態を話すだけで、国旗がわからないのか、大半の選手団を紹介せずスルー。個性的な衣装やカメラに向けたパフォーマンスにも触れず、手元の原稿を読むだけのような印象を与えた。

さらに、「それでは選手たちの和やかな表情を見ながら今回のオリンピック、振り返っていきましょう」と切り出し、各国選手が入場しているにもかかわらず、日本人選手の活躍やコメントを読み始めてしまった。

「マーメイドジャパン。新体操のみなさん」(実際はアーティスティックスイミング)などの言い間違いは仕方がないとしても、残念だったのは、各国のアスリートが登場し、中にはカメラに笑顔で手を振る選手がいたにもかかわらず、日本人選手の話をしていたこと。敬意に欠ける上に、閉会式のテーマである「Worlds We Share」とはかけ離れていた感が否めなかった。

生中継や自国開催らしい気の利いたアドリブも見られず、「NHKのオリンピック中継は杓子定規で、またしても殻を破れなかった」という印象を受けたのは、私だけではないだろう。アナウンサーに限らず、もっとスポーツ愛やオリンピック愛にあふれる人、あるいは世界のスポーツ事情に詳しい人を選んでもよかったのではないか。

■民放に似たNHKの出演者人選

話を閉会式からオリンピック期間全体に移すと、まずNHKの放送で真っ先に挙げておきたいのはサブチャンネルの扱い。閉会式でも急きょ台風情報を放送するためにサブチャンネルへの切り替えを求めていたが、連日あまりにその回数が多いため、「集中して見ていたのに突然見られなくなった」「録画が中断されていて怒りを覚えた」などの声があがっていた。

視聴者感情としては「(人命にかかわる台風情報はさておき)通常のニュース程度なら、こちらをサブチャンネルで放送してほしい」であり、「サブチャンネルの録画設定を知らない」「全録機器なども対応しづらい」という録画中断の問題もある。

もう1つNHKの放送で気になったのは、スタジオ出演者の人選。女性アナウンサーと各競技のOGを中心にした女性中心の放送に問題はないだろう。しかし、中継とは別競技のアスリートOB・OGを集めてコメントを求めてばかりだったのはなぜなのか。

これは民放各局のワイドショーでよく見られる光景だが、当然というべきか競技に関するものではなく、視聴者の感想と似たようなコメントばかりに留まっていた。NHKなら知名度優先ではなく、各競技に合わせたゲストを呼ぶくらいのことはできたはずだ。

もともとスペシャルナビゲーター、主題歌の「カイト」など、嵐ありきの放送だったことの是非も含め、民放と似たタレント中心のスタンスで制作されている感があった。公共放送におけるオリンピック中継のあり方を考え直す時期に来ているのかもしれない。

■テレビをしのぐ選手SNSの魅力

一方、日替わりで担当局を決める形式で放送された民放は、「今日はこの局とNHK」というように視聴者にとって分かりやすいものとなっていた。また、サーフィンは当初ネット配信のみの予定だったが、日本人選手の躍進と視聴者のリクエストを受けて急きょ放送するなどの臨機応変さもあり、競技中継に関してはおおむね期待に応えられていたのではないか。

コロナ禍で直前まで開催反対派のほうが多かったこともあり、「これまでよりタレントを中心に据えたお祭り騒ぎのようなムードが薄かった」という点も好評だった。それでも日本テレビは明石家さんま、フジテレビは関ジャニ∞の村上信五、テレビ朝日は松岡修造、テレビ東京は小泉孝太郎が前面に出て、これまで通りのムードを醸し出していたのも事実。だからこそ、中居正広の起用を野球中継のみに留め、アナウンサーとアスリートで放送を成立させたTBSの誠実さが際立っていた。

もう1つ各局での違いが見られたのは主題歌の扱い。民放共同企画“一緒にやろう”応援ソングと題して桑田佳祐の「SMILE~晴れ渡る空のように~」を使用すると思われていたが、フジテレビは“FUJI Network. Song for Athletes”と題して関ジャニ∞の「凛」を、テレビ朝日はTEAM SHUZOの「CANDO」を優先的に流していた。

これはメインキャスターにそれぞれ関ジャニ∞の村上信五と松岡修造を起用したからだが、コロナ禍や開催反対の声が絡んでもタレントありきの制作から抜け出せない民放の課題にも見えた。すでにそれは過去の大会から多くの人々に見透かされ、ファン以外の人々を引かせてきただけに、課題を解消する絶好機を逸したのかもしれない。

テレビでの放送が選手たちのパフォーマンス以外の魅力に欠けた一方、各選手が発信するSNSは充実していた。試合前後の状況や心境、選手村などでの様子、日本文化とふれ合う姿などを発信して、人々の興味を誘っていたのは間違いないだろう。そのリアルさ、希少さ、エンタメ性の高さは、テレビだけでなくネットや新聞なども含め、すべてのメディアをしのぐ魅力があったのではないか。

■次の“贔屓”は…大型特番でオリンピック特需を得られるか? 『炎の体育会TV SP』

『炎の体育会TV』MCの今田耕司(左)と蛍原徹

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、14日に放送されるTBS系スポーツバラエティ番組『炎の体育会TV SP』(18:21~21:54)。

今回は「東京オリンピック 日の丸戦士 緊急参戦!!」と掲げて、ソフトボール日本代表、卓球の水谷隼・伊藤美誠、競泳の大橋悠依らメダリストが集結。さらにバドミントンの渡辺勇大・東野有紗、スケートボードの堀米雄斗、体操の村上茉愛にも「オファー中」と予告されている。

スポーツバラエティとして、オリンピック特需をどこまで生かしつつ、視聴者のニーズにどれだけ応えられるのか。そして3時間半の放送という大勝負で、どの程度の結果を得られるのか。