テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第54回は、19日に放送されたTBS系スポーツバラエティ番組『炎の体育会TV』をピックアップする。

アスリートの単独チャレンジから、vs芸能人、vs一般人まで、真剣勝負にゲーム性を加えた独自の企画を連発。2011年10月のスタート当初からスポーツフリークを中心に、一定層のファンを集めている。

今回の放送には、大坂なおみ、平野美宇、伊藤美誠、山田哲人らのビッグネームに加えて、新体操の美女軍団も参戦。番組の強みと弱みを探りながら、スポーツバラエティの現状も考えていきたい。

  • (左から)宮迫博之、今田耕司、蛍原徹

55人目で初のパーフェクト達成も…

今回のトップコーナーは、野球のトスバッティング。画面の左上に「最難関100秒で16枚の的を抜け」、右上に「今夜初の完全制覇者が!一体…誰!?」のテロップが表示されている。「エッ?! もうネタバレしちゃうの?」と思った人も少なくないだろう。ともあれ、これまで47人が挑戦したが、いまだ成功者ゼロの超難関であることは間違いない。

1人目はヤクルト・スワローズの「山田哲人2世」こと廣岡大志で記録は9枚、2人目は「2015セ・リーグ首位打者」の川端慎吾で記録は10枚。ここでCMに入ったのだが、直後に「今夜ついに初快挙、完全制覇者」と正式にネタバレしつつ、「プロ野球選手息子」「甲子園アイドル」「ホームラン王」「球界史上No.1」「2015ドラフト1位」と書かれたシルエットを見せて、「誰なの?」と期待感を高めた。

続いて、「U12世界少年野球大会」の優勝メンバーが登場。なかでも目玉は3人目に登場した元木大介監督の息子・翔太くん。しかし、8枚に終わり、リベンジとばかりに父が挑戦して13枚を打ち抜いたが、「バッターボックスから出ていたため非公認記録」というオチで笑わせた。

次に映像はオリックス・バファローズに変わり、「2010パ・リーグホームラン王」T-岡田が15枚で最高記録に並んだが、「Mr.フルスイング」吉田正尚が14枚、伏見寅威が11枚でパーフェクト達成ならず。再び映像はスワローズに戻り、「Mr.トリプルスリー」山田哲人が登場する。

この瞬間、大半の視聴者は「……ということは山田がパーフェクト達成するのか」と気づいてしまった。実際、山田は残り1秒でパーフェクト達成。55人目で初の快挙だったのに、ハラハラドキドキを半減させてしまったのはもったいない。

スタート時や繰り返しのネタバレは、「ザッピングされないため」「毎分視聴率を落とさないため」というテレビ局の思惑であり、コンテンツの魅力を損ねている現状が歯がゆい。特にスポーツコンテンツは、筋書きのないドラマ性が売りであり、だからこそ視聴者を熱狂させている。

しかし、今回の構成は制作サイドが、見え見えの筋書きを作り、熱狂の幅を狭めていた。アスリートのパフォーマンスがすごいだけに、それをどう伝えるのか。放送順などの編集も含めて、制作サイドの姿勢が問われているのではないか。

番組に欠かせない美女アスリート

放送から40分が経過したところで、次のコーナー「2019年 活躍期待の女性アスリートスペシャル」に突入。1つ目は、マスクをかぶったトップアスリートが一般選手と対戦する「マスク・ド・アスリート」で、今回の競技はスノーボードパラレルだった。

「2代目マスク・ド・スノーボーダー」の正体は、オリンピックに5度も出場したレジェンドで、12歳、10歳、14歳の天才キッズに6~8秒(40~50m相当)のハンデを与えながら、軽々と3連勝。その正体はソチオリンピック銀メダリストの竹内智香であり、将来有望な子どもたちに愛のあるアドバイスを送ってコーナーを締めくくった。

先述したU12少年野球チームも含め、番組のスタート当初と比べると、明らかにキッズアスリートの出演が増えている。これまでは「2020年の東京オリンピックを見据えて」という見方ができたが、1年後に迫った今となっては、やはり視聴率確保を狙ったファミリー向けの戦略という見方が強い。

事実、子どもばかりではなく、応援する親の姿が繰り返し映され、勝負が終わると、「子は悔しくて涙、親は頑張りに感動の涙」という共感を誘うシーンもあった。その意味で当番組は、スポーツに励む子どもを持つ親にとって、貴重なコンテンツとなっている。

続いて、卓球の伊藤美誠が100秒間で30枚の的を抜く「卓球スマッシュ30」に挑み、残り1秒で見事パーフェクト達成。「試合で勝ったときよりうれしい。最後抜いたの1番だよ。カッコよくない?」と満面の笑みを見せた。さらにライバルの平野美宇が登場。1枚足した31枚バージョンでパーフェクトを達成して盛り上げた。

その後、大坂なおみが100秒間で20枚の的を抜く「テニスショット20」に2度挑戦したが、15枚、19枚で惜しくもパーフェクトならず。最後のコーナーは、新体操の「2018年全日本選手権」で優勝した武庫川女子大チームが登場。「開脚で旗をどこまで運べるか」「前転での競争」「足で投げたリボンを8m先の穴に入れる」というパフォーマンスを見せた。

番組サイドが自ら「新体操界は国内外を問わず、美女全盛の時代」という企画意図を明かした上で、「人間離れした柔軟性を見せる」構成に抜かりなし。“美”と“超人的なスキル”の両立も当番組の強みだ。

そもそも番組がはじまってからしばらくの間は、「男というだけで、美女アスリートに勝てるのか!?」というコンセプトの番組だった。対決図式は美女アスリートvs男性芸能人であり、後者が勝ったら「キスのごほうび」というゲスさを売りにしていたのだ。当時と比べると、「随分丸くなったな……」と感じるが、他局のテレビマンから見たら「時代の流れに合わせてよい落としどころを見つけたな」と感心しているのではないか。

スポーツはレギュラー放送向きではないのか

TBSのスポーツ関連番組は、「前振りが長い」「あおるような演出がうるさい」などと言われがちだが、映像の作り込みは丁寧かつ繊細。公式戦のようなアナウンサー実況つきのプレーだけでなく、リプレーと解説、実績を伝える過去の映像、自宅取材、関係者インタビューなどを盛り込んで臨場感を醸し出している。

また、「アスリートのプレーはダイジェストではなく、できるだけすべて見せよう」という基本方針も好感度が高い。失敗シーンも見せることで、悔しい顔や本気になった顔を引き出すなど、ふだんのプレー以上に喜怒哀楽が見られるのも魅力のひとつだ。

このあたりの制作ノウハウは、『S☆1』『スーパーサッカー』などのスポーツ専門番組、『バース・デイ』『プロ野球戦力外通告』などのスポーツドキュメンタリー、さらに『SASUKE』『KUNOICHI』『筋肉番付』『スポーツマンNo.1決定戦』などを放送してきたTBSの「民放随一のスポーツ局」たるゆえんであり、彼らの誇りか。

今後も番組を続けることで映像のストックは増える一方。たとえば、今回パーフェクトを達成した山田哲人や、あと1枚で逃した大坂なおみの映像は、ユーティリティな素材として、これから何度も使える。続けるほどノウハウと素材は蓄積されていくだけに、当番組がスポーツバラエティそのものをリードしていくだろう。

ところで、東京オリンピック間近だというのに、スポーツバラエティというジャンルは、盛り上がっていない。『ビートたけしのスポーツ大将』(テレビ朝日系)は昨年9月で終了。昨春からアスリートにフィーチャーした企画に絞り込んだ『中居正広の身になる図書館』(テレ朝系)も今春での終了が明らかになっている。

『ジャンクSPORTS』(フジテレビ系)は健在だが、その他はときどき特番があるくらいであり、レギュラー番組は極めて少ない。1990年代までと比べると、「スポーツはレギュラー放送するジャンルではない」という認識が浸透してしまった。今や競技中継ですら、世界大会以外はCSや動画配信サービスに移行しつつあるのだから、仕方がないことなのかもしれない。

しかし、だからこそスポーツバラエティには、他局を出し抜いて人気番組となるチャンスが潜んでいる。今年はチャレンジするべき時期であり、もし成功したら東京オリンピックが終わってからも人気番組で居続けるのではないか。

次の“贔屓”は…長崎発ツッコミ多きドキュメント?! 『吉村崇、無人島を買う!』

(左から)渡辺直美、吉村崇、中島彩アナウンサー

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、26日に放送される単発バラエティ番組『吉村崇、無人島を買う!』(長崎国際テレビ制作、日本テレビ系10:30~)。

破天荒キャラの平成ノブシコブシ・吉村崇が「超本気」で無人島購入する……というツッコミどころの多そうな特番であり、放送前からゆるいムードを感じてしまう。

ただ、無人島を買う上で「所有権は?」「税金は?」「ローンOK?」「インフラ整備は?」などのさまざまな問題があり、かつて熱愛報道もあった渡辺直美も参戦するなど、何かと波乱含み。吉村は「部不相応」と言われるほどの高級マンションに住み、高級車に乗ることをネタにするなど、芸人としてのあり方に貪欲なだけに、どんな無人島を買うのか楽しみだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。