時代とともに変化が見られる競馬場の魅力を探る本連載。第7回目の舞台は、神奈川県川崎市にある川崎競馬場だ。競馬場のほかに川崎競輪場がある川崎は、公営ギャンブルが盛んな土地でもある。ここならばきっと、ギャンブラーたちが愛してやまないご当地グルメに出会えるはずだ。

  • 川崎競馬場の川崎ドリームビジョン

    「スパーキングナイター」としてナイター競馬を開催する川崎競馬場。正面奥には2010年の設立当時、ギネス記録にも認定された大型ターフビジョン「川崎ドリームビジョン」が鎮座する

意外な発見? ファミリー向け施設も多い川崎競馬場

古くから東海道五十三次で2番目の宿場として栄えてきた川崎市。近年では川崎駅の再開発も進み、ますますの発展を遂げている。

そんな当地で1950年から競馬を開催している川崎競馬場。かつてはゴリゴリのギャンブラーが数多く集っていたが、現在では内馬場に子供たちが遊べる広い芝生や遊具を併設しており、場内にはバーベキューエリアもある。イベントスペースとしても利用されることがあるそうだ。

  • 川崎競馬場

    馬場内入場門から入ってすぐ右手にある子供向け遊具「かわさきホースライダー」。手前に見える黒いフェンスで囲まれた場所は、白熱したレースを間近で見ることができる「エキサイティングゾーン」だ

そうした変化があるとはいえ、そこは古くからギャンブラーたちに愛されてきた川崎競馬場。当然、名物料理は今も健在だ。中でも「激辛焼きそば」なるものが人気と聞き付けたので、さっそく店舗を訪ねてみた。

ビール必須か!? 刺激的な焼きそばに遭遇

訪ねたのは、第2入場門前からすぐの1号スタンド1階にある「馬王」。営業を始めて35年以上という同店だが、川崎競馬場が2016年に全面リニューアルしたこともあって、外観は意外にも(?)に綺麗だ。この店では「激辛焼きそば」(500円)のほか、「フランクフルト」(1本250円)や「串焼き各種」(1本150円)などを取り扱っている。注文の前にまず、店主の松原詩香さんに話を聞いてみた。

  • 川崎競馬場の馬王

    「馬王」という競馬場っぽい店名とともに“川崎競馬場名物”の文字が確認できる

  • 馬王の激辛焼きそば

    店頭のショーケースに山積みされた「激辛焼きそば」は、次々にお客さんが訪れるのでその数をどんどん減らしていった

――「激辛焼きそば」はいつから始めたんですか?

「うーん、25年ぐらい前かな? その当時は私の母が焼いてたんですけど、ソースをブレンドして、辛い焼きそばを作り始めたのは多分それぐらいからです」

――なんで辛い焼きそばを販売しようと思ったんでしょうか?

「やっぱり、ここは博打を打つお客さんが多いところだから、(熱くなれる)辛いものがいいねという感じでしょうね」

――川崎といえばギャンブルの街というイメージですが、客層の変化は感じますか?

「だいぶ変わりましたよ。昔はもっと、博打をやるお客さんばっかりで、言葉の強い方も多くて。一言でいってしまえば、柄が悪かった(笑)。でも、今は若い人たちも来るようになって、お客さんの客層はよくなったと思います」

――家族で訪れる方も多い印象ですか?

「ファミリー層はすごく増えていますし、女性同士のお客さんもよく見かけます。それに、昔はやっていなかったんですが、今はナイター開催をするようになったので、仕事帰りのサラリーマンも増えましたね」

――その中で、激辛焼きそばは1日にどれくらい売れているんですか?

「川崎競馬開催時で大体300~400個ぐらいの日が多いですけど、出るときは600~700個ぐらいのご注文をいただきます。お正月はもっと多いですけどね」

  • 馬王の激辛焼きそば

    屋台のように大きな鉄板の上で1度に何人前も作る「激辛焼きそば」

お話を聞いた後、激辛焼きそばと「生ビール」(600円)を注文すると、「せっかくなら、できたてを食べて欲しい」という松原さんのご好意もあり、作りたてを用意してもらった。思わぬ幸運に感謝しつつ、店舗前にあるテラスへと移動した。

  • 馬王の激辛焼きそば

    パックに大盛りにされた「激辛焼きそば」はずっしりと重い。味付けには唐辛子などは使わず、こしょうのみでスパイシーに仕上げているというが、果たしてそのお味は

  • 馬王の激辛焼きそば

    具はメインのキャベツのほか、小エビと玉ねぎが入る。添えられた紅生姜と一緒にさっそくいただく

口に入れた直後は、お祭りの屋台で食べる普通の焼きそばと似たような印象なので、かなり余裕をかましていた。しかし、噛むごとにその辛みが増してきて、最初の1口を飲み込んだ時には、すでに体が熱くなっているのを感じた。

  • 馬王の激辛焼きそば

    あまりの辛さにたまらずビールを流し込む

激辛焼きそばを食べ終わるころには、じんわりと汗ばんできた。唐辛子のピリッとした辛さとは一味違う、スパイシーでクセになる味わいに、“これが川崎名物グルメの実力か”と白旗を挙げた。唯一の失敗といえば、取材中という意識も働いたため、ビールを1杯に限定したこと。正直なところ、激辛焼きそば1個で軽く2、3杯はいけそうだった。

ちなみに日が落ちて辺りが暗くなっても、馬王には激辛焼きそばを求めるお客でひっきりなしの行列ができていた。

1日1,200個も? バカ売れコロッケを発見!

ボリューム満点の激辛焼きそばを堪能してパドックに向かっていると、パドック横で再び、川崎名物をうたう行列店に遭遇。行列が途切れたタイミングを見計らい、すぐさまスタッフへの聞き込みを開始した。

  • 川崎競馬場のコロッケ屋

    こちらが川崎名物「手作りコロッケ」(1個250円)を販売するお店。遠目にくまなく確認するも、店舗名は見当たらない

――すいません、こちらは何というお店でしょうか?

「特に名前は付けてないから、店名はないの(笑)。まあ、コロッケ屋ね。でも、昔はラーメン屋だったのよ」

――ラーメン屋さんがコロッケ屋さんに変わったんですか?

「そうよ。25年ぐらい前にラーメンと揚げ物を扱うお店としてオープンしたんだけど、8年ぐらい前かしら。ラーメンをやめて、揚げ物だけになったの」

――やっぱり、一番売れているのはコロッケなんですか?

「そうですよ。コロッケは1日600個ぐらい売れているのかな」

――1日600個!

「お店を始めた当初は1日80個ぐらいだったんだけど、だんだんと人気になって。お正月なら1日1,200個ぐらい販売しているかな」

――それはすごいですね。何か秘密でもあるんですか?

「うちの営業は開催日のみで、場外の日は営業していないの。そうなると、食べられるのは月に1回ぐらいでしょ? だから、皆さん楽しみにしていただけているのかもしれませんね」

  • 川崎競馬場の名物コロッケ

    ジャガイモ、合びき肉、玉ねぎを塩こしょうで味付けした昔ながらのシンプルな「手作りコロッケ」。トッピングはソース、からし、塩こしょうを用意

激辛焼きそばでお腹は十分に満たされていた。しかし、話を聞いているうちに“実食してみたい”という衝動に駆られてしまうのも人のサガ。すぐさま1個注文し、ソースをかけてパドックを見ながら味わうことにした。

  • 川崎競馬場の名物コロッケ

    女性の握りこぶし大ほどある大きなコロッケ。これ1個でお腹がふくれそうだ

その見た目は大きさ以外、普通のコロッケと異なるところはない。となると、味付けはどうだろうか。その疑問を確かめるべく、手作りコロッケにかぶり付いた。すると、思いがけない味わいに驚いた。先ほど食べた激辛焼きそばにも通ずる、スパイシーなコロッケではないか。

どうやら、川崎競馬場を訪れるギャンブラーたちは、焼きそばもコロッケも普通の味付けでは満足しない、身も心も焦がす本物の博打打ちだったようだ。この愛すべきギャンブル飯は、ぜひ川崎競馬場で味わってほしい。

後編では競馬場グルメの定番「モツ」を提供する川崎競馬場の名店をご紹介したい。