『転職』。それはビジネスマンにとって、その後の人生を大きく左右する転機になり得るもの。働き方改革が推進されている今、自身のより良いビジネスライフのために転職を視野に入れている人も多いはず。ここでは、ビジネススクールで代表理事も務めるビジネス・モデル・デザイナーの中山匡氏に「『他社に求められる人』になる、転職の極意」について教えてもらった。

  • 面接でライバルに差をつける方法

その仕事の日本一になってみろ

これまで4回の連載を通じて、マーケットリサーチを具体的に行うことでライバルよりも有利に転職活動を進める方法について解説した。最終回となる今回は、最後のダメ押しとして、ライバルよりさらにもう一歩抜きん出るために、今すぐできることについて触れようと思う。

転職を考えるということは、なんらかの形で現在の職場に対する不満があるというケースが大半だろう。もちろん、新しいチャレンジをしたいから転職する人も多いと思うが、それは即ち、今の職場ではそういったチャレンジをしにくいという意味にもとれる。

一方で、そういった不満ある環境さえも、あなたの魅力をより輝かせていく上で、活用することが可能な場合もある。

例えば、今、あなたは会社の受付の仕事をしているとしよう。自分はもっと人と深く関わる仕事がしたいのに、事務的なコミュニケーションが大半を占めており、今の受付の仕事だけでは物足りないと思っていたとする。

では、あなたは本当に今の職場で成長することが難しいのだろうか? 阪急東宝グループの創業者である小林一三氏の名言に、

「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。
そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」

というものがある。下足とは靴のことで、下足番とは、人が脱いだ靴の番をする職業である。もしあなたの仕事が下足番だとしたら、受付の仕事と同じように物足りないと感じるだろう。しかし、小林一三氏は「世界一の下足番になってみろ」と言うのである。これは、一体どういう意味なのか? 受付の仕事に当てはめれば……

「受付の仕事を命じられたら、日本一の受付になってみろ。
そうしたら、誰も、君を受付にはしておかぬ」

ということになる。改めて、その意味を深く考えてみることにしよう。「日本一の受付」とは、何だろうか? それは言ってみれば、接客業の一流ではないかと考えられる。では、具体的な職業は何だろうか? と、このように考えをめぐらせていけば、ホテル業の方や航空会社の客室乗務員といった職業が、頭に浮かぶかもしれない。さらに考えを深めてみると、ホテル業、客室乗務員の中で日本一の人は誰だろうか? という問いも生まれてくる。そういう目的意識を持つと、同じ業種の中でも"より優れた人"、"日本一の人"とはどのような人物なんだろうということを意識し始めるのである。

そうなれば、ネット検索で一流の人たちが書いた書籍などを探し、購入して読みたくなる可能性も高い。読むだけではなく、そうした人の講演会に参加してみようという気持ちが生まれるかもしれない。さらには、その人から個別にアドバイスを頂き、上を目指したいという向上心を抱く人もいるだろう。

これらの学びの結果、あなたは受付の仕事をする際に、お客様にどんな言葉をかけるべきか、どんな表情をするべきか、さらに心の中では何を想うべきかといったことまで大切にするようになるかもしれない。

当初、あなたは今の受付の職場は物足りない、これ以上に成長はできないなどと思っていたはずである。しかし「日本一の受付とは?」という問いを自身に投げかけた瞬間、今の仕事を通じて、いくらでも新しい成長の機会を発見できたのだ。

自分を"輝く"存在に高めよう

このような志をもって、日々の仕事に取り組んでいる人には"輝き"がある。全く同じ能力や可能性を持った人が、転職の面接に訪れた際にも、今の職場に対して不満を言いまくる人と、今の職場で成長の努力をしている人とでは、輝きが違う。

当社も、毎月100名以上の方々から入社希望のエントリーを頂いているが、当然ながら採用したいと考えるのは、後者の方だ。

今の職場を卒業するにしても、決してその職場を否定することなく、今の職場環境からも多くの学びがあるということをしっかりと理解し、他のライバルたち以上に"輝く"人材になって頂けたとしたら幸いである。

筆者プロフィール: 中山匡

ビジネスモデル・ロードマップ・デザイナー。一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表理事。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院修了後、フランチャイズ本部立ち上げ支援最大手の経営コンサルティング会社に入社。31歳で起業し、「月刊アントレプレナー・コーチング」を創刊。2009年には「在宅秘書サービス」を創業。現在、150社以上に導入。1,500名以上の秘書が登録。ビジネスモデルのロードマップを描けるコンサルタント養成にも力を入れ、「ビジネスモデル・デザイナー認定講座」を開講。著書『失敗をゼロにする 起業のバイブル』(かんき出版)。