『転職』。それはビジネスマンにとって、その後の人生を大きく左右する転機になり得るもの。働き方改革が推進されている今、自身のより良いビジネスライフのために転職を視野に入れている人も多いはず。ここでは、ビジネススクールで代表理事も務めるビジネス・モデル・デザイナーの中山匡氏に「『他社に求められる人』になる、転職の極意」について教えてもらった。

  • 業種・業界の選び方

独立・起業を見据えた転職に必要なこと

前回、前々回の記事を通じて、ライバルよりも転職活動を有利に進める方法を解説した。具体的には、どういった職種・業界で人材が求められ、また、ライバルが少ないかを、具体的なマーケット分析を行って判断する方法である。その重要性は分かっていても、残念ながら通常はマスコミを通して耳にする情報、感覚や直感をもとに判断してしまっている人も多いはず。

ところが、Googleが提供している「キーワードプランナー」を活用すると、まさにそういったデータを無料で知ることができるのである。具体的には、その職種・業界等を表すキーワードが「Googleで毎月何回検索されているか」が、企業が求めている人材の大小を表し、「入札単価」がライバルの強さを表している。

転職における「キーワードプランナー」の活用方法については、前々回の記事「転職に有利な資格とは?」。前回の記事「採用されるためにすべきこと」を参照してほしい。

今回は趣旨を少し変えて、このマーケット分析は、独立・起業にも使えるという点について解説する。読者の中には、いつか起業したいと考え、そのために必要なスキルを身に付けようと考えて、転職先を考えている方もいるだろう。ところが、独立・起業とはスキルや資質が高ければ、上手くいくというようなものではないというのも現実なのだ。

著者は、これまで15年間で、6,000名以上の起業家の支援を行ってきている。独立後、半年もたたないうちに十分に生活していけるだけの売上が立つ方もいれば、残念ながら3年たっても資金繰りに追われている人がいるのも事実。外資系企業でバリバリと活躍していた方が、結局離陸できずに会社員に戻ってしまうケースがある一方で、会社員の女性が週末に立ち上げた事業で大成功を手にするケースもある。

重要なのは、それらの違いは必ずしもスキルや資質の違いでもなければ、生まれ持った才能によるものではないということだ。では、何がその違いを生み出しているのかと言うと、これを言ってしまったらおしまいではないかと思うかもしれないが、"選んだ分野・業界の違い"だと言えるのである。

転職先の業種・業界の選び方

今、2020年の東京オリンピックに向けて、マスコミの露出がさらに増え、各種競技に注目が集まっていく近い未来が想像される。期待される選手が増えていけば、そのスポーツの人口も増えていく可能性もあるだろう。そこで、スポーツの分野で起業しようと考えた人がいたとする。では、同じスポーツでもどんな競技分野で起業すると最適だと言えるだろうか?

「自分は子供の頃からずっと野球をしてきた。だから、野球の分野で起業しよう!」。そう考えるのが実は一番、危険な場合が多い。なぜならば、前述の通り、起業においてスキルは二の次だからだ。どんなにその分野が得意であったとしても、起業の成功率とは必ずしも直結しない。

一方で、「どうも、最近は水泳やバドミントンについてのニュースを目にする機会が以前よりも増えてきた気がする。競技人口も増えるだろうから、それらに参入してみようか!」というような発想ができるようになると、成功率がぐんと高まってくる。

ただ、重要なのは、なんとなくそんな気がするという直感ではなく、データでの裏付けが重要になってくるのは言うまでもない。そこで登場するのが、前述のGoogle「キーワードプランナー」だ。

このツールを使うと、Googleの検索エンジンでは、「水泳」は毎月数万回、「バドミントン」は数十万回検索されているのが分かる。つまり、バドミントンに関心を持っている人の数が水泳よりも10倍多いと言えるのだ。そして、入札単価は、「バドミントン」では約60円程度、「水泳」では120円程度。つまり、両者の競争の厳しさは2倍あると言える(データは2018年11月末時点のもの)。この2つのデータを掛け合わせた結果として、「バドミントン」は「水泳」の2×10=20倍ほど新規参入しやすいと考えられる。

独立・起業すると、当然ながら会社も上司も守ってくれない、厳しい世界に足を踏み入れることに他ならない。それは、参入したての零細企業でさえも、大企業と渡り合っていく力も必要とされる、言わばビジネスにおける総合格闘技。だからこそ、直感だけに身を任せず、きちんとしたデータの裏付けをとったうえで、自分が勝てるマーケットで勝負をしていくことが求められる。

そうした思考を養うためにも、転職活動を進める中でも、同様な考え方をもとにどんな業種・業界を選んでいくか検討するのが、非常に有効なのではないだろうか。

筆者プロフィール: 中山匡

ビジネスモデル・ロードマップ・デザイナー。一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表理事。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院修了後、フランチャイズ本部立ち上げ支援最大手の経営コンサルティング会社に入社。31歳で起業し、「月刊アントレプレナー・コーチング」を創刊。2009年には「在宅秘書サービス」を創業。現在、150社以上に導入。1,500名以上の秘書が登録。ビジネスモデルのロードマップを描けるコンサルタント養成にも力を入れ、「ビジネスモデル・デザイナー認定講座」を開講。著書『失敗をゼロにする 起業のバイブル』(かんき出版)。