『転職』。それはビジネスマンにとって、その後の人生を大きく左右する転機になり得るもの。働き方改革が推進されている今、自身のより良いビジネスライフのために転職を視野に入れている人も多いはず。ここでは、ビジネススクールで代表理事も務めるビジネス・モデル・デザイナーの中山匡氏に「『他社に求められる人』になる、転職の極意」について教えてもらった。

  • 転職に有利な資格とは?

企業に選ばれるために必要なこと

前回の解説の通り、転職活動を有利に進めていく上では、強みを磨くことだけではなく、企業情報をどれだけ収集し、あなたが入りたいと考える企業が本当のところ、何を一番求めているのかを知ろうと努力することが重要である。

とは言え、優れた企業ほど、もともと採用を予定していた職種・人材像にとらわれることなく、応募者が持つ技能・見識などに感化され、「この人材を採用すれば、あの課題解決に役立つのでは?」といった判断をすることも少なくない。

そういった網に、より高確率でかかるようにするためには、ひとつでも多くの強みを磨いておくにこしたことはないと言える。

だからと言って、流行りの資格や、皆が持っている資格取得のための勉強を闇雲にしたところで、どの程度の効果があるのかは予測が困難だ。では、仮に資格取得により強みを高めたいと考えた場合、どのような基準で判断していったら良いのだろうか?

実は、こうした優先順位の意志決定を、感覚ではなく論理的に明確にすることが可能なのである。

取得すると有利になる資格は何か

Googleは「キーワードプランナー」というツールを通じて、どのようなキーワードが、月に何回、検索されているかを無料で公開してくれている。

例えば、「貿易実務検定」というキーワードは毎月数千回検索されているのに対して、「全国通訳案内士」は毎月数百回である。「社会保険労務士」、「メンタルヘルス・マネジメント検定」は、どちらとも毎月数万回検索されている。こうした検索回数は、どれだけ社会から求められているかという、まさにニーズの大きさを表していると言えるだろう。 では、ニーズが大きい資格、検索回数が多い資格を取得した方が有利かというと、全くそうではない。なぜならば、ニーズが大きくても、そのような資格をがんばって取得しようとするライバルが多ければ、資格取得者数も多く、同じ資格を持つあなたの存在が目立たなくなるからだ。

そうした、ライバルの強力さについて知るにはどうしたら良いのだろうか? 実は、これも、Googleの「キーワードプランナー」が無償提供してくれいている「入札単価(高価格帯)」というデータを見ることで、定量的に知ることができる。その原理をご理解頂くために、Googleのサービスの仕組みについて補足説明することにしよう。

Google検索から読み解く、転職に有利な資格

Googleの収益源のひとつに、検索エンジンでの検索結果の最上部付近に広告を出せる、というサービスがある。例えば、今、Googleで「社会保険労務士」と検索すると、結果の画面の最上部に、広告が表示されるだろう。こうした検索結果の最上部に広告として表示された場合には、非常に大きな宣伝効果があるのは言うまでもない。そのため、そのスペースに広告を出したいと考える企業が多いことは想像できるだろう。

そこでGoogleは、その場所に広告を出し、1回クリックしてその企業のホームページに訪れることになった場合には、1クリック当たりに対して、何円払っても良いかということを、自己申告するような入札制度を導入している。

前述の通り、「社会保険労務士」も「メンタルヘルス・マネジメント検定」も、毎月数万回検索されている。一方で、入札単価はどうかというと「社会保険労務士」は635円、「メンタルヘルス・マネジメント検定」は151円だ。その差は約4倍ある。

この入札単価が高いのはどういうケースかというと、社労士に合格したい人向けの教育サービスを行いたい企業が資格取得希望者を集めようと、必死になっているような場合である。それは別の角度から見たら、合格するために投資をしても良いと考えている熱心な受験生が多い場合だとも言える。

そう考えると、「社会保険労務士」は、「メンタルヘルス・マネジメント検定」よりも、仮に合格したとしても、ライバルが4倍多い可能性があると言える。ニーズが同じであれば、社労士1本に絞って結局合格できなかったというよりは、ライバルが少ないもう一方の資格を先に取得する方が、有利になりやすいとも考えられるかもしれない。

ちなみに、「貿易実務検定」というキーワードは毎月数千回検索されていると書いたが、入札単価の方は140円だ。「全国通訳案内士」は毎月数百回で、入札単価は206円。 単価の差は先ほどよりは差が小さく1.5倍に対して、ニーズの差は10倍と開きが大きい。

この場合、6.7倍(=10÷1.5)ほど、「貿易実務検定」の方が取得すると有利な資格である。逆に言うと「全国通訳案内士」は仮に取得が簡単であっても有利に働きにくいということが言えるのかもしれない。

こんな簡単な計算が本当に成り立つのかというと、この手法を1,000社以上の当社クライアントの経営者が、各種経営判断に活用し始めた2006年以降、8割方この計算が成り立つということが検証されているのだ。ぜひ、感覚ではなく論理的に判断して頂けたら嬉しい限りである。

次回は、今回の考え方をベースにして、あなたの現在のスキルを活用した場合、どんな業界だとより活躍しやすいか、より多くの企業からあなたのことが求められやすいか、という点について解説する。

筆者プロフィール: 中山匡

ビジネスモデル・ロードマップ・デザイナー。一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表理事。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院修了後、フランチャイズ本部立ち上げ支援最大手の経営コンサルティング会社に入社。31歳で起業し、「月刊アントレプレナー・コーチング」を創刊。2009年には「在宅秘書サービス」を創業。現在、150社以上に導入。1,500名以上の秘書が登録。ビジネスモデルのロードマップを描けるコンサルタント養成にも力を入れ、「ビジネスモデル・デザイナー認定講座」を開講。著書『失敗をゼロにする 起業のバイブル』(かんき出版)。