本連載の第34回では「業務改善のストーリーに合わせた可視化手法を使おう」と題し、改善の目的を達成するまでのストーリーを描き、それに沿った可視化手法を選んで活用することの重要性をお伝えしました。本稿では業務可視化後に改善機会を見つけるための観点についてお話します。

  • 「7つのムダ」を探そう

    「7つのムダ」を探そう

仕事の生産性を上げるべく業務を可視化できても、当然ですが、それだけでは何も変わりません。次にすべきことは、これまでやってきた業務の内容や進め方を見直して、改善機会を探索することです。しかしながら、いざやってみると、改善機会を見つけることは口で言うほど容易ではないことに気がつくと思います。特にこれまで対象業務に長年従事している人ほど、現状の業務が「当たり前」になっているので、改善機会を発掘するのは困難でしょう。

そこで、改善機会を発掘するための観点の一つとして、業務に潜む「ムダ」についてご紹介します。「ムダ」の観点から業務を精査することで、改善機会を捉え、当該業務を効率化するための打ち手を策定することにつながります。

業務に潜む「ムダ」とは何か

業務のムダを探しましょう、と言うと「ムダだって? 私は仕事でムダなことなんて何一つやっていない。失礼な!」と反発される方が稀にいらっしゃいます。「この仕事、ムダだけど決められたことだから、しょうがない」などと思いながら仕方なくやらされているという方なら別ですが、大半の方は今の仕事の内容と進め方がベストか、それに近いと信じて取り組んでいるのではないでしょうか。

しかしながら、「ムダなことなど一つもない」と突っぱねることは裏を返すと「私の仕事は改善の余地がありません」と考える前から白旗を上げているようなもので、そこからの進歩は望めません。そもそも「全く何のムダもない業務」というものは滅多にありませんので、そういうものだと受け入れていただくほうがよほど生産的です。

それでは前向きに業務に潜むムダを探すことになったとしても、今度はきっと「そもそもムダって何だっけ?」と、すぐに行き詰まってしまうかもしれません。そこで、本稿では業務上のムダについて「付加価値を生まないモノやコト」と定義します。

この付加価値自体に焦点を当てて顧客目線で改善機会を探すことについては、本コラムの第31回第32回で詳しく論じていますので、ここではより業務寄りの目線で考えたいと思います。

「7つのムダ」を探そう

ここでは業務に潜むムダを見つけるのに便利な「7つのムダ」という観点をご紹介します。この観点は移動のムダ、在庫のムダ、動作のムダ、手待ちのムダ、加工のムダ、作りすぎのムダ、欠陥のムダの文字通り7つの要素で構成され、いずれも業務の品質やスピード、生産性を低下させる要因になりうるものです。

この7つのムダは元々、トヨタ生産方式で使われていた概念のため、製造業寄りの言葉ではあるものの、今では他の業種でも業務生産性向上の取り組みに広く活用されています。そして、ホワイトカラーに適用されるケースも多く、改善の事例が多数あります。

それでは7つのムダを一つずつ詳しく見ていきましょう。

1.移動のムダ

ある場所から別の場所にモノを移動させたり、人が移動したりすることは基本的に、付加価値を生まないのでムダと認識します。例えば、作成した書類を会社の別のオフィスに郵送したり、別のフロアに持ち運んだりすることは、それが今の業務遂行上必要なことであったとしても「移動のムダ」として捉えます。「業務遂行上必要」というのは、あくまでも今の仕組みやルールを前提とした時の認識であり、その前提から根本的に見直すことで移動の必要性がなくならないか、あるいは少なくとも移動時間を減らせるようにできないか、と考えることで改善の余地と方法を考えるのです。

2.在庫のムダ

オフィスで働く自分にとっては「在庫なんて関係ない」と思われるかもしれませんが、工場や店舗における「在庫のムダ」の考え方は、オフィスでの業務にも適用できます。それは机の上に散乱している誰も見ない資料や中途半端な状態で残っている作業などが該当します。少なくとも何のために今、その場にその資料が存在するかを説明できないようであれば、それは付加価値を生む仕事の妨げになり得る「在庫のムダ」として捉えて、対処を検討することをお勧めします。そして「在庫のムダ」をなくして、職務の遂行を円滑にしましょう。

3.動作のムダ

付加価値を生まない動作はすべて「動作のムダ」として認識します。一連の作業をこなすのに必要な複数のアプリケーションでのログインとログアウトの繰り返しや、頻繁にかかってくる電話に応対する度に作業を中断させられること、電話で話したら1分で終わるような内容をチャットで10分かけてやり取りすることなどが該当します。このような効率を低下させうる如何なる動作についても「動作のムダ」として捉え、その発生源を突き止めて対処することが望まれます。

4.手待ちのムダ

上司からの指示待ちや上司による承認待ち、部下からの報告待ちや作業完了待ち、それに同僚からの情報提供待ちなどは、いずれも付加価値を生まないので「手待ちのムダ」として捉えます。それは待っている人のリソースをムダにするだけでなく、顧客に価値を提供するまでのリードタイムを伸ばす要因にもなり得ます。

加えて、真面目な人に限って「ただ待っているだけではサボっているように見られそうだ」と考えて自分で新しく仕事を作ってしまうことがあります。そうやって新しくできた仕事が、顧客への価値を生み出したり、増やしたりするのに役立つならよいのですが、そうでない場合は、善意から新たなムダを生み出してしまうことになります。そのため、できれば手待ちのムダを見つけても他の仕事で穴埋めしようとするのではなく、そもそもの「手待ちのムダ」をどうやってなくすかを考えるとよいでしょう。

5.加工のムダ

経費精算などの業務の委託先から届いた計算結果に誤りがないかを確認するために検算をしたり、どう考えても現場で判断した方が迅速かつ適切な判断ができる事案についても本社の承認を求めたり、プレゼンテーション用の資料に過剰な装飾やアニメーションを施したりするのは、いずれも「加工のムダ」として対処します。いずれも顧客が本来必要としている価値ではなく、過剰品質を生み出すことで、コストを上げる要因になりえます。コストに見合った合理的な品質を保つために必要でないことは、「加工のムダ」に当たるのではないかと疑い、止めても支障がないかを検討しましょう。

6.作りすぎのムダ

サービスの一環として週に一度作成して顧客に送っているレポートについて、当の顧客からは月に一度で十分だとか、そもそもそのレポートはいらないと言われているような場合、それは「作りすぎのムダ」に該当します。また、リリースしたアプリケーションの新機能について、顧客から「余分な機能だ」と評されるような場合も同様です。このように、自分の主観だけでよかれと思って、あれやこれやと顧客にとって不要なものを提供したり、必要とされているものでも過度な頻度で提供したりすることは、顧客価値にプラスにならないものとして認識することが必要です。

7.欠陥のムダ

顧客の要求水準を満たさないサービスの提供、計算ミスや入力ミスなどによる作業のやり直し、意思決定に必要なメンバーの会議途中での離脱による会議そのものの中断と延期などは、いずれも「欠陥のムダ」として捉えます。このムダが仮に、発生してすぐには顧客に迷惑を与えるものではなかったとしても、顧客に価値を提供するまでのリードタイムの長期化につながりかねない上に、生産性の大幅な低下を招くことが多々あります。作業を可視化した際に「手戻り」が多いところなどは「欠陥のムダ」が発生していると見做し、対応を検討しましょう。

ここに挙げた「7つのムダ」を用いて議論をする際に一点、注意すべきことをお伝えします。それは、「これはどのムダに該当するのか」を特定するために時間を浪費しないことです。あくまでも「7つのムダ」の観点を使う目的は「ムダを見つけること」であり、「ムダを正確に分類すること」ではないので、一旦ムダを発見できたら、そこからさらに時間をかけてムダの分類を精緻化することは、それこそムダであると認識して控えるべきことなので留意しましょう。

さて、本稿では業務の改善機会を発掘するために使える「7つのムダ」についてお話しました。業務を可視化できたら、このムダの観点を使って分析して改善に繋げていただけましたら本望です。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。