本連載の第31回では「お客様はあなたの仕事のどこにお金を払ってくれているのでしょうか」と題し、顧客の目線に立って仕事を見直すことの重要性をお伝えしました。本稿でも引き続き顧客目線に焦点を当てて、より実践的かつ効果的に生産性を上げる方法をお話します。

前回のコラムでは顧客の目線に立って自分の仕事を点検し、「お金を払いたいと思うかどうか」で、その仕事が本当に必要かどうかを判断しましょう、というお話をしました。この視点は仕事を見直す出発点として絶対に欠かせないものですが、いざやってみると案外難しいことがおわかりになることと思います。

例えば法令対応や内部監査、会計上の仕訳などの仕事は、顧客にとって価値がないからといって、なくすわけにはいきません。社員への研修や社内のナレッジシェアリングなども直接的には顧客に価値を与えるものではありませんが、長期的には価値を増幅させたり継続させたりするのに必要なものなので、やはり削るべきではないでしょう。

このような気づきは、とても重要です。顧客価値を軸に仕事を再定義する際、「価値を生む仕事かどうか」というだけではなく、もう一歩踏み込んだ考察を加えることをお勧めします。なお、検討対象の「仕事」の粒度が大まかすぎて分類に支障をきたす場合は、一挙手一投足まで細分化して「活動」レベルで捉えるとよいでしょう。

そして顧客価値を軸に考える際には、以下の4つの区分で捉え直すことで、より精緻かつ効果的な対処につながると考えられます。それは「顧客への価値を生み出すもの」「顧客への価値を増やすもの」「顧客への価値創出を維持するもの」「顧客への価値に寄与しないもの」です。

顧客への価値を生み出すもの

「仕事」あるいはそこから細分化した「活動」を見直した際に、顧客への価値を生み出しているものがあれば、それは重要なものとして認識する必要があります。例えば営業であれば、顧客の課題のヒアリングや分析、そこから提案内容を作りこんで提案することなどは、いずれも顧客への価値を生み出す活動と言えるでしょう。コンビニエンスストアの店員であれば、接客や商品の発注・補充・陳列、店内の清掃などが該当するのではないでしょうか。

言うまでもなく、こうした仕事/活動は付加価値を生む重要なものなので、効率化すべき対象としては通常、優先度を落とします。もちろん、これらの仕事/活動についても、手順や使用するツールなどを見直すことで、手間を減らしながら提供価値を増やすことはできる可能性があるので、必ずしも効率化対象の候補から外す必要はありませんのでご留意ください。

顧客への価値を増やすもの

仕事や活動の中には、顧客への提供価値を増強するものもあります。これは先ほどの分類とは異なり、顧客に直接価値を提供するものではありませんが、会社の競争優位性を維持・向上させるためになくてはならないものです。

先ほども例に挙げましたが、研修や教育は一般的にはこの分類に含めます。なぜなら、こうした仕事は中長期的に従業員のスキルを向上させて、顧客に提供する価値を増やすことにつながるからです。また、社内のナレッジシェアリングも従業員の知識や経験の共有によって価値を創出し、提供する能力を向上させる効果があるので同様に当該分類に含めます。

これらの仕事/活動の多くは、すぐに目に見える効果がなく緊急度も高くないことが多いため、往々にしてなおざりにされてしまいがちで、多くの企業ではこれらの業務の比率が十分に高いとは言えない状況に陥っているように見受けられます。しかしながら、競争が激しい業界であればあるほど、この分類の仕事/活動には継続的かつ十分な投資を行い、競争優位性を高め続けることが求められます。

顧客への価値提供を維持するもの

冒頭にも触れたとおり、仕事/活動の中には顧客に価値を提供しないが必要とされるものが存在します。この分類のものは「顧客にとって価値がないから」といってやめてしまうと、企業自体の信頼が揺らいだり、場合によっては商品やサービス、あるいは企業そのものの存続が危ぶまれたり、といった事態に陥ってしまいます。つまり、こうした仕事や活動は顧客への価値提供を維持するために存在すると解釈できます。

先ほど挙げたような法令対応や会計上の仕訳などに加えて、資金調達や取引先への支払い、給与計算や社会保険・労働保険の手続き、社内システムの保守・運用などもこの分類に含まれます。

これらの仕事/活動をそっくりそのままなくしてしまうわけにはいきませんが、だからといって手間を減らすことを諦めてはなりません。この分類のものは世の中の多くの企業が同じルールに従って実施していることが多く、それゆえに人力で行っているタスクのほとんどを自動的に遂行してくれるシステムや、専門的なスキルを身に付けた人が代行してくれるアウトソーシングなどを活用できるチャンスが多い領域なので、一考の価値はあるでしょう。

顧客への価値に寄与しないもの

4つ目の分類は上記のいずれにも該当しない、顧客価値に全く寄与しないものです。この分類の仕事/活動は、基本的にはムダなものと捉えることができるので、対応方針としてはシンプルに「なくすこと」が原則になります。

例えば、日頃からオフィスの片づけが行き届いておらず、紙の資料が部屋の至る所に散在しており、必要な資料を見つけるのにあちこち探し回ることや、出力する必要が全くない資料を印刷したりファイリングしたりすることなどは、整理整頓や電子データの活用などでなくすべき活動と言えます。また、よくあるのが全く同じデータを別々のシステムに入力する作業や、入力後のデータ照合などの作業です。これらはシステム間でデータ連携できていないために仕方なくやっているという場合が多いですが、顧客価値の観点からするとムダでしかないので、極力手間を減らすための工夫を行うべきでしょう。

なお一点、「顧客価値に全く寄与しないもの」と判断した場合でも気を付けるべきことがあります。それは、その仕事や活動をなくしたり減らしたりすることによって、「意図しない影響」が発生しないかを検証することです。

わかりやすい例で言えば、昔からの慣習で毎朝行っている朝礼を「顧客価値に全く寄与しないもの」と分類して即廃止した場合、マネージャーによるメンバーの作業の進捗把握が疎かになってサービスの遅延が増えてしまったとか、社員間のコミュニケーションが減ってモチベーションが落ちてしまうなどの副作用が発生する可能性があります。もし、こうした影響が発生してしまったとすると、この活動は実は「顧客への価値提供を維持するもの」か「顧客への価値を増やすもの」として捉えるべきだったのかもしれません。

「意図しない影響」の発生を極力抑えるには、顧客価値の観点で仕事や活動を検証し、分類して対応に移す前に「本当にその分類でよいか」と「対応内容」について様々な立場の人から意見をもらうことをお勧めします。

さて、本稿では顧客価値に焦点を当てて仕事を分類し、それに応じて効率化する際の考え方についてお伝えしました。実際にやってみると、すんなりと分けられないものも多々あるでしょうが、その先に効率化という果実があることを思い出して、諦めずに粘り強く検討していただければ幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。