本連載の第33回では「まずは業務の全体像を把握しよう」と題し、業務改善を検討する際に大枠で捉え、そこから細分化して把握することの重要性をお伝えしました。本稿では業務の可視化について、さらに深堀りしてお話します。

前回のコラムでは、業務を把握する際に全体像をまずつかんで、そこから細分化していくことをお勧めしました。いざやろうとするといろいろな可視化の手法が考えられますが、どれを使えばよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。一口に「業務を可視化する」といっても、業務を一覧化した業務リストや業務間の関係性を表した業務相関図、時系列での流れを表す業務フロー図など、さまざまな可視化手法が考えられます。一体どのように使い分ければよいのでしょうか。

万能な可視化手法は存在しない

巷のビジネス書やウェブサイトなどでは、さまざまな業務可視化手法やフレームワークなどが紹介されています。それらで学んだツールはせっかくなのですぐに使いたくなるかもしれません。ところが、それは「興味深いことに、金槌しか道具を持っていない人は、何もかも釘であるかのように取り扱う」という心理学者、アブラハム・マズローの言葉の通り、本来改善すべきことかどうかを問わずに、手あたり次第に可視化するだけで満足してしまうことにつながりかねません。どんな病気にも効く薬がないのと同様に、どんな目的にも使える可視化手法は存在しないのです。

卑近な例を挙げると、世の中の可視化手法の一つに「地図」があります。この地図一つ取ってみても、標高や地形の起伏などがわかる地形図、電車の路線図、送電網が載っている電力系統図、防災に使われるハザードマップ、天気図など、そこから読み取れる情報はまるで異なります。そして、どんな目的にも対応できる万能な地図はありませんので、利用目的に応じて必要な地図を選択します。

地図の例と同様に、業務を可視化する際にも万能のものはありませんので、「何を把握したいのか」を明らかにして、それに合う手法を選びましょう。

まずは改善を実現するためのストーリー作りから

狙った改善につなげるには、何の手法を選ぶかを慎重に検討する必要があることは、すでに述べた通りです。ただし、手法を選択するといっても、必ずしも「一つだけ」に留めることはありません。むしろ複数の手法を併用することが一般的で、それらをどのように組み合わせて、どういう順番で使うのかを考えることが肝になります。これは正に業務改善に向けた「可視化のストーリー」作りと言えます。

例えば、慢性的に長時間の残業が発生している職場で残業を減らそうとするのであれば、社員がそもそもどのような業務を行っているのかを把握し、その上で、何の業務にどれだけの時間を割いているのかを把握することで、どの業務に焦点を当てて改善を検討すればよいかがつかめるでしょう。

そこでターゲットに置いた業務の詳細な流れや手順を明らかにすることで、転記作業やそれに伴うチェック作業、部署間や社員間での重複作業、明らかに過剰な決裁などの非効率な部分を見つけて改善していきます。このようなストーリーを仮説ベースであらかじめ描いておき、それを検証するために必要な手法を選択する、というのがセオリーです。

こちらはあくまでも一例ですが、このようにゴールまでのストーリーを先に考えておくことで、「そもそも何を可視化しなければならないのか」が明確になり、そこから自ずと「では、何の手法を使うべきか」もはっきりするはずです。これを怠ったまま適当な手法で業務を可視化してしまうと、できあがったものを眺めてから「で、ここからどうすればよいのだっけ?」と気がついて右往左往することになりかねません。

ストーリーに合わせて手法を使用する

改善のゴールに至るストーリーさえできてしまえば、手法の選択や使用する順番を決めるのは難しくないでしょう。例えば先ほどの残業削減を例に挙げると、以下のように可視化を進めていくことができます。

1.社員がそもそもどのような業務を行っているのかを把握する

ここでは業務リストの作成や業務機能鳥瞰図、もしくは業務相関図などを作成するのが一般的です。

・業務リストでは通常、最も抽象度の高い業務大分類を洗い出し、そこから中分類、小分類と3段階、もしくはさらに細かいレベルまで分解しながら表形式で作成します。その際、分類ごとの粒度を合わせたり、表現を統一したりすることが肝要です。

・業務リストは通常、100行を超えるボリュームになることが多いので、業務全体を意識しながら複数人で議論するのには向いていません。その際に重宝するのが業務機能鳥瞰図です。これはパワーポイントなどのプレゼンソフトで作ることが多いのですが、資料の上部にバリューチェーン、その下に構成要素となる業務機能を、各々オブジェクトで配置して作成します。ここで肝心なのは、資料を1ページに収めること、対象とする全業務を網羅すること、プロジェクターなどで投影しても各々の業務機能の記述がはっきり見えるくらいの粒度で作成すること、の3点です。

・抽象度の高い業務機能同士の関連に改善機会がありそうな場合は、業務機能相関図を作成することをお勧めします。これは先ほど挙げた業務機能間の時系列でのつながりや金銭、データ、モノの動きなどをオブジェクトと矢印で可視化して作成します。なお、ここでも「何に着目するか」で相関図の表現が変わるので留意してください。

2.何の業務にどれだけの時間を割いているのかを把握する

先ほど挙げた業務リストや業務機能鳥瞰図、または業務相関図をベースに、各業務の業務量を調査し、記入することで業務量を把握します。なお、ここでは業務リストの横に業務量を入力するための列を追加し、そこにデータを追記することで楽に集計ができるようになります。その際、集計にはピボットテーブルを使用するとさまざまな角度から簡単かつ迅速に作業ができるのでお勧めです。集計結果はグラフで表現すると直感的な理解を促進します。そして、一般的には業務量が大きいところや、想定していた業務量と実際の業務量の乖離が著しいところなどは、改善余地が大きいと考えられますので、これらの分析を基に深堀りして検討すべき領域を絞り込みましょう。

3.業務の詳細な流れや手順を明らかにする

先ほどの業務リストで、すでに流れや手順が明らかになっている場合もありますが、もしそうであったとしても、業務プロセスフロー図を描くことをお勧めします。特に業務プロセスが長かったり、多くの部署や人が介在していたり、判断や状況による条件分岐が多かったりする場合には、業務リストの記述だけで十分に理解することは至難の業です。このような複雑な業務を対象とする場合でも、業務プロセスフロー図を見れば理解が容易なので、それを基に改善機会を見つけるのにはもってこいです。

4.非効率な部分を見つけて改善する

業務プロセスフロー図を見ながら改善機会を探すとはいっても、口で言うほど簡単ではありません。特にご自身が携わっている業務であれば、可視化できたとしても、自身の業務を客観的・批判的に分析するのは難しいでしょう。ぜひ他の部署の人や、同じ部署内でも当該業務に携わっていない人に業務プロセスフロー図を見せて、気になる点を指摘してもらってみてください。きっと、これまで当然だと思ってやってきた業務に、思わぬ改善機会が見つかることでしょう。

ここで挙げた進め方は一例ですが、効率化による残業削減を目的とした改善を進めるうえでは割と汎用的なアプローチです。いずれにせよ、改善の目的を達成するためのストーリーを描き、それに沿った可視化手法を選んで活用していくことでムダなく、効果的に改善の成果を出せるはずです。ご自身の職場でもぜひ、ストーリーから作ってみてください。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。