本連載の第36回では「業務改善のサブプロジェクトを立てよう」と題し、改善機会を見つけた後、効果を出すための取り組み方についてお伝えしました。本稿では、改善機会の発掘や施策を立てる際によくある社内からの抵抗と、その対処方法についてお話します。

世間の流れに合わせて、自社でも働き方改革を進めようということで、現場の社員に業務の詳細をヒアリングしたり、マニュアルを集めて精査したりして改善機会を探っていくと、「そもそもこの業務って何のために必要なのだっけ」などと、抜本的な改善機会の種が見つかることがあります。

このような改善機会は、抜本的なものであるほど、また大規模であるほど、施策を立てようとする際に社内の抵抗に遭うことが予想されます。その中でもよくあるのが、「この業務は社員が創業以来30年かけて確立したものだ。しかも今のやり方で困っていないのに、なぜわざわざ波風を立てるのか」とか、「重要事項については当該部署の課長が起案して部長承認後、さらに役員会議で稟議にかけるのが我が社の昔からの常識だ。それを変えろというのは非常識極まりない不用意な発言だ。慎みたまえ」などと上席者から咎められ、改善策を骨抜きにされたり、小粒で無難なものへの変更を余儀なくされたりすることです。

「社内の常識だから変えない」という論理は通らない

このような社内の論理や常識というものは、突き詰めると論理自体が破綻していたり、実は社会の常識とかけ離れていたりすることがあります。先ほどの1つ目の例で言えば、「社員がその業務を創業以来30年かけて確立した」という事実は、「その業務を抜本的に見直すべきではない」という示唆を何ら提示していません。つまり、「そのやり方を長くやってきた」という事実から、「だから今後も同じやり方を続けるべきだ」という結論を導くことは、論理的な飛躍があるということです。

それに比べて、同じ例の中にある「今のやり方で困っていない」から「その業務を抜本的に見直すべきでない」という議論については、前半の主張が正しければ、結論の妥当性も一定程度は持つと考えられます。とはいえ、ここで諦めてはなりません。現状では「困っていない」のだとしても、1年先、3年先、10年先など、将来に向けて想定される社内外の環境変化を踏まえると、「今のやり方では将来、ある時点で困ることが予想される」ということで「やはり今のうちに見直すべきだ」という結論に持ち込むことができそうです。これは、互いの議論の前提となる時間軸を明確にすることで、議論を前進させることにつながります。

2つ目の「重要事項は課長の起案、部長承認、役員会議で稟議が常識」という例については、「その常識は社会の非常識かもしれない」という見方ができます。たとえ一昔前には社会の常識と合っていたとしても、社会の変化に取り残されてしまっている可能性があります。また、それ以前に、そもそも「変えてはならない」理由が「常識だから」では論理が通りません。

いずれにせよ、ここで挙げた2つの例のような一見もっともらしく聞こえる論理は、さまざまな組織で耳にしますが、実は全く説得力がないことをご理解いただけましたでしょうか。

論理が通っていなくても論破すればよいとは限らない

ここまでで「長年のやり方」や「社内の常識」を振りかざして改善案の策定や実行に抵抗する人たちの論理の問題点をお伝えしてきましたが、ここで留意すべき重要なポイントがあります。それは、これらの論理を用いて抵抗しようとする人に、真っ向から「あなたの論理は破綻しています。なぜなら……」と論破するのは控えた方がよいということです。特に相手が上の立場のときは、なおさら気をつけてください。

もしあなたが相手の意見を正面から論破してしまうと、あなたの話が正論であっても相手は感情を害されて、あなたをあたかも「敵」であるかのようにみなして、取り組みを阻もうとするリスクが増します。

このような事態は、改善策を実行して効果を得るという目的を達成するうえでは「大幅な後退」と言わざるを得ません。そうならないために必要な手は2つあります。

1つ目は改善策の説明の仕方を工夫することです。「社内の常識」の無意味さや「社会の常識」とのズレを論理的に認めさせようとすればするほど、相手は意固地になることが予想されますので、その場合は、相手の主張を否定せずに「改善策はよさそうだな、じゃあやってみるか」と思わせるように誘導するのが円滑に取り組みを進めるコツです。

例えば、調査の結果、何のために必要な業務なのか、わからないものがあったとした場合に「この業務はムダだからなくしましょう」と言うと角が立ちますが、「この業務は長年にわたって役割を果たしてきました。携わってきた多くの社員に敬意を表して、今後はさらなる進歩のために、よりよい業務のあり方を模索しましょう」などと言うと、聞いた方も真っ向から反対しにくいのではないでしょうか。

2つ目はより根本的な対応で、相手がなぜ抵抗しているのかを分析したうえで対応することです。「社内の常識に合わない」と言いながらも、抵抗する理由を丁寧に紐解いていくと、実は「今は自部門の繁忙期で、このタイミングで業務を抜本的に変更するのは、ミスの誘発につながるからやりたくない」という単にタイミングの理由であったり、「業務を変更しようとすると一時的に負荷の増加が想定されるが、人手不足で慢性的に残業が発生している以上、たとえ一時的であっても、これ以上の負荷は受け入れがたい」といった理由が隠されていたりすることもあります。また、全く異なる理由では「取り組みを始めても面倒なだけで、自分が評価されるわけではない」という自己本位の都合の場合もあります。

このような場合、抵抗する本当の理由を伝えること自体が面倒だと感じたり、もしくは自己本位の理由ゆえに伝えにくかったりすることで、とりあえず「社内の常識に合わない」などと一見それらしい理屈で反対しているのにすぎなかったりします。こういう場合には、「社内の常識に合わない」という理屈を論破したところで真の理由が残されたままになるので、相手はまた別の論法を使って抵抗を続けることになり、一向に前向きな議論には持ち込めないでしょう。

それゆえ「社内の常識に合わない」などという理由で抵抗に遭ったとしても、それをそのまま鵜呑みにせずに、相手が抵抗する本当の理由は別のところにあるかもしれないと探ってみることをお勧めします。

長年同じ業務を続けている組織ほど、「社内の常識」が強固に定着して、特に古参の社員にとっては「これまで長年やってきた」という自負を抱いている場合があります。そのような場合には「社内の常識」そのものを疑ってみることはもちろんのこと、「社内の常識」を盾に抵抗する相手の心情や背景、真の抵抗理由を読み取って対処することが、改善の実現には欠かせません。本稿の内容を応用して、「社内の常識」を覆してブレイクスルーを起こしていただけたら幸いです。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。