本連載の第35回では「業務に潜む『ムダ』を見つけよう」と題し、改善機会を見つける上で使える"7つのムダ"の観点をお伝えしました。本稿では改善機会を見つけた後にどう対応すればよいか、その進め方についてお話します。

努力の甲斐あって業務を可視化でき、「7つのムダ」の観点などを活用して、改善機会を発掘することができたとしても、取り組みの果実を得るにはまだ道半ばです。改善機会を実際の効果創出につなげるには、そこに至る施策の定義と設計が必要です。それは言うなれば業務改善プロジェクトを構成する「サブプロジェクト」のような位置づけです。施策をサブプロジェクトとしてしっかり建てつけて、実行を管理することで着実な進展を担保するのです。

なお、サブプロジェクト間で何らかの関係性が見込まれる場合には、実行時のトラブル防止のためにも、事前にサブプロジェクト間の関係性を相関図などで可視化・共有しておくことをお勧めします。

1.目的とゴールイメージの共通認識を作る

サブプロジェクトを定義するうえで最も重要なのは、目的とゴールイメージを決定することと、それを関係者間で共有することです。ここでの目的とは、「サブプロジェクトの実施を通じて目指すこと」で、ゴールイメージとは「目的が達成されたときの具体的な状態」を意味します。

例えば、サブプロジェクトの目的が「各社員のPCに散在しているデータの共有化」とすると、ゴールイメージは「各社員がPCやスマートフォンから手間をかけずに共有すべきデータを選んでネットワークサーバーにアップロードし、同時に他の社員がアップロードしたデータにアクセスして、自在に活用している状態」のように定義します。

このような目的とゴールイメージの策定を怠ると、サブプロジェクトで目指す方向性のすり合わせが不十分なまま進んでしまうことにより、進行途中でプロジェクト自体が空中分解してしまうか、仮にタスクが計画通りに進んだとしても、最終的な結果についてうまくいったと言えるのかそうでないのか、客観的な評価をすることが難しくなってしまう恐れがあります。

なお、目的とゴールイメージを作る際には、それらが情報過多にならないように気を配ることが肝要です。もし、これら2つの要素を説明するのにプレゼンテーションの資料で何ページも必要だったり、1ページに収めても文字がぎっしり詰まって読めないほどの情報量になってしまったりするようでは、関係者ごとの理解度に差が生じたり、微妙に異なるイメージを抱いてしまうことになりかねません。そうならないためにも、目的とゴールイメージはシンプルな文章や図、イラストなどで表現するとよいでしょう。

2.スコープを決める

サブプロジェクトでどこまでの範囲をカバーするのか、そのスコープを決めておくことも、後々になって揉めないために重要です。一部の部署内に留めるのか、他部署も含めるのか、特定の支社だけにするのか、全社規模にするのかなど、スコープをあらかじめ明確に決めておくことはサブプロジェクトのコストと効果を算出して予算を決めるために必要ですし、この後に触れるアプローチやスケジュール、体制決めにも影響を及ぼします。

なお、スコープ決めの際には「施策実行の難易度が低く」「周囲への影響力が大きいところ」を優先的に選択するのがよいでしょう。最初に難易度が低いところを敢えて選ぶことで、施策の成功確率を上げておき、早期に成功事例を作り、それを周囲にアピールすることで対象範囲の拡大を図ることができます。それと同時に、最初に難易度の低いスコープで実行に移すことで、机上では想定できなかった問題の発生と対応の経験値が上がり、そこで得た教訓を活用することで、難易度の高い領域への展開時の成功確率も上げることにつながります。

3.アプローチを決める

目的、ゴールイメージ、スコープが決まったら、それをどのように達成するのか、アプローチを考えます。この段階では目指す場所がすでに決まっているはずなので、そこまでたどり着くための行き方を決めるということです。もしどうしても思いつかないようでしたら一旦、現状(スタート地点)と目指す場所(ゴール地点)を対比させて、イラストや文章で表現してみるとよいでしょう。そうすると、両地点の相違がギャップとして浮き彫りになりますので、それをどうやって埋めるかというのを考えやすくなります。この「現状と目指す場所のギャップをどう埋めるか」がアプローチになる、というわけです。

なお、直感に反するかもしれませんが、アプローチを考える際には「ゴール地点」から逆算して考えると、ムダのないものを作りやすいでしょう。つまり、ゴール地点の一歩手前はどういう状態で、何ができていないといけないのか、二歩手前はどうか、三歩手前はどうか、とゴール地点から現在地までのサブ目標地点を順番に設定していきます。そしてサブ目標地点が設定できれば、具体的なイメージが湧くはずなので、各サブ目標地点に到達するために何をすればよいのか考えるのが容易になるはずです。

筆者は経験がありませんが、このアプローチはロッククライミングに似ているのではないかと思います。たとえ「この崖の頂上に登る」という明確な目標があったとしても、何も考えずに登り始めてしまうと、途中で足場が見つからなくなってしまい、断念してしまうのではないでしょうか。登り始める前に、何m地点でどの場所に到達するべきかというサブ目標地点を定め、その間のルートを決めておくことで、ムダなく効率的に登れるのではないかと考えます。

4.スケジュールを決める

アプローチが決まったら、「何をいつまで行うのか」を考えてスケジュールを決めます。その際、アプローチの情報だけでは抽象度が高すぎて、どれだけの期間を要するのかピンと来ない場合には、アプローチを分解して具体的なタスクを洗い出し、それぞれのタスクに必要な工数を見積もるとよいでしょう。なおその際、タスク間の依存関係を図に表すと、ボトルネックになりそうな箇所が明らかになります。それを考慮することで、施策に着手する前から無茶なスケジュールを策定してしまうリスクを減らすことが防げるでしょう。

なお、スケジュールを立てる際には必ずバッファー(ゆとり)を持たせることをお勧めします。というのも、一般的にはプロジェクトを取り巻く環境は常に変化し続けるうえ、イレギュラーの事象が全く発生せず、計画立案時の想定通りに進むことは稀だからです。バッファーがないと、想定外のことが起こった途端に遅延が発生するので、それが焦りを生み、ひいてはミスを誘発します。そうならないためにもギリギリのスケジュールではなく、必ずバッファーを持たせたスケジュールを策定しましょう。

5.体制を決める

会社によっては誰も責任を取りたがらないので「敢えて責任者を置かない」という方針の下、皆で自発的にやっていこうというところもありますが、正直お勧めできません。少なくともサブプロジェクトの結果に責任を負う人(オーナー)、実行に責任を負う人(マネージャー)、実行する人(メンバー)の3つについて決めておくことは重要です。一般的には、オーナーには役員相当の方などの決裁権限を持った人に就いてもらい、マネージャーには現場のことを熟知したチームリーダーなど、メンバーには現場の中でもスキルや知識・経験が豊富かつ取り組みに前向きな人をアサインすることが多いです。

また、サブプロジェクトの規模が大きかったり数が多かったりする場合には、上述した3つの役割に加えて関連部署の責任者をアドバイザーに据えたり、プロジェクト間の調整を行う事務局を設置したりすることも考慮するとよいでしょう。

なお、体制を整えるのに加えてポジションごとに「どういう役割を期待するのか」「何をしてもらうのか」を文章で明確に表現し、それを当人にしっかり説明して理解を得ることを怠らないようにしましょう。

職場の生産性向上による残業削減、ひいては定時帰りを目指して業務調査を行い、可視化し、分析して改善機会を発見するまでにも一苦労ですが、それだけでは業務は何も良くなりません。そこからさらに改善機会を実際の効果を得るには、サブプロジェクトを設けて進捗や課題管理をしながら施策の実行完了まで導く必要があります。業務改善に王道なし、ということですね。

筆者プロフィール: 相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。