本連載の第32回では「自分の仕事の価値を突き詰めよう」と題し、顧客の目線に立って価値を基準に仕事を見直すときの考え方をお伝えしました。本稿では業務改善する際に業務を全体像から捉えて細分化するアプローチの意義と方法についてお話します。

「うちの会社は社員にしっかり業務改善をさせています」という企業の中には、社員に自分自身や職場で気がついた業務改善のアイディアを出させているところがあります。

その心がけは素晴らしく、社員のモチベーション向上にもつながるかもしれないので一概には否定できませんが、個々の社員が目についたところから手あたり次第に改善しようとすることは、必ずしも効率的・効果的なアプローチとは言えません。

なぜなら、社員個人にとっては有意義な改善でも、全社もしくは部署の規模からすると他にもっと費用対効果が高く、先に手を付けるべき改善機会が潜在的にあっても、認識されずに手付かずのまま残ってしまう可能性があるからです。また、他の業務との関連性を考慮しないことで、部分最適に陥ってしまったり、全社規模ではかえって業務効率が低下してしまったりする恐れもあります。

大枠から可視化しよう

それでは、どのように対応したらよいかということですが、まず個人ではなく全社、もしくは部署全体などの対象組織で遂行されている業務の全体像把握から始めることをお勧めします。そして全体像は、パワーポイントなどのプレゼン用のアプリケーションで、スライド1ページに収めてもしっかり認識できるくらいの情報量に留めるのがよいでしょう。

逆に一挙手一投足の細かい手順やルールから書き出すと、情報過多になるうえに全体像の正確な把握が困難になってしまうので、留意しましょう。これは例えば、日本全体の地図を描こうとする際に、自分の住む町内の地図から描き始めるようなもので、地図ができあがるのに途方もない時間と労力がかかるうえに、完成する頃には僅かな誤差の積み重ねが無視できないほど大きな歪みとして現れ、著しく不正確になってしまう恐れがあります。

それと同時に、情報過多のために本来あるはずの主要な地域が地図から漏れていても気がつきにくいという弊害もあります。こうした状況を避けるために、まずは例えば大雑把に北海道、本州、四国、九州を描いた後に主要な島、例えば沖縄本島や佐渡島、奄美大島などを追記し、全体像を大まかに捉えるアプローチを取るのが普通でしょう。

業務改善を検討する際も同様に、まずは業務を大枠から把握することが肝要です。そうは言っても、大枠をどう捉えたらよいか皆目見当もつかないようなら、例えば購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスのような主活動と全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動のような支援活動で構成されるバリューチェーンのモデルを基にして、ご自身の会社の業務の大枠を定義するのも有効な手立ての一つになり得るでしょう。

そして大枠が固まったら、そこから段階的に細分化していくのです。日本地図の例でいえば、本州については東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方、中国地方と区分けし、さらに関東地方については東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県と分けて……と細かくしていくのと同様です。このようなアプローチによって、情報のレベル感を合わせながら漏れや重複を排除して整理することが可能です。

先ほどのバリューチェーンのモデルの例を例に取ると、全般管理については、それを構成する経理や総務、情報システム管理などに分け、経理については債権管理、債務管理、決算、資金運用、税務管理などに分け、さらに債権管理については売掛金計上、売掛金回収などに分けて……と徐々に分解していきます。このように改善対象の業務を大枠で捉え、そこから細分化して詳細な情報を把握していくアプローチをお勧めします。

最終的にどこまで細分化するかを決めておこう

実際に業務を大枠で捉えて細分化していくと、途中で「一体、どのレベルまで細分化すればよいのか」がわからないことに気がつくはずです。日本地図の例でいえば、都道府県レベルまででよいのか、市区町村レベルまでなのか、さらに細かいレベルまで細分化する必要があるのかがわからないというのと同様です。

しかし、残念ながら「どこまで細分化すべきか」という問いに唯一絶対の解は存在しません。そのため、改善の目的と状況に応じてどこまで細分化するかを決めておくことが必要です。もし、大企業の経営陣が集まって、自社の業務に着目した競争優位性を確立するためのリソースの選択と集中を検討するのであれば、経理業務の「請求書と納品書を得意先に郵送する」とか、営業業務の「見積書を作成する」といった詳細な活動レベルの情報は不要なはずです。

このような場合は、自社のコアとなる業務以外については他社へのアウトソースやシステムを使用した自動化、または契約社員や派遣社員の活用などによるコストダウンと、コア業務への正社員の配置転換などを検討することになるでしょうから、その議論をするのに過不足ないレベルで業務を把握できれば十分ということになります。

一方で、顧客からのクレーム削減や社員の残業削減などを目的として業務改善をするのであれば、「債権管理」や「売掛金回収」といったレベルでは大まかすぎて改善機会を検討するのには情報が不足しているので、もっと細分化して一挙手一投足まで把握する必要があるでしょう。

全業務を詳細なレベルまで細分化する必要はない

現場レベルの業務改善によりクレーム削減や残業削減を目指すのであれば、詳細な活動レベルまで業務を細分化して調査・可視化しなければならないと言うと、「全社ですべての業務を活動レベルまで洗い出すなんて途方もないし、非現実的だ」と反対される方がいます。特に会社の規模が大きく、さらに事業が多角化されていたり多様な職種があったりする場合には、その指摘はもっともなことですし、その考え方は重要でもあります。

というのも、そもそも細分化については必ずしもすべての業務で同じレベルまで行う必要がないからです。仮に100人の社員が所属する部署と5人の社員が所属する部署があったとして、どちらの部署で業務改善をしてもコスト削減効果が等しく10%だった場合、単純に考えると100人の部署では10人分のコスト削減になるのに対して、5人の部署では0.5人分にしかなりません。つまり見込まれる効果が20倍も異なるので、通常は100人の部署の業務にターゲットを絞ればよく、5人の部署の業務は手間暇かけて詳細な活動レベルまで細分化する必要はないと考えます。

ただしこれは一般的な話で、例外もあります。仮に5人の部署の業務が100人の部署の業務と密接に関わっていて、さらに100人の部署のパフォーマンスに大きく影響を及ぼしているような状況や、5人の部署の業務がサービス品質やコンプライアンス、セキュリティーなどの経営に甚大なインパクトを与えるような事案を度々発生させていて、それらの改善が早急に求められるような状況であれば、先ほどとは逆に5人の部署の業務を優先的に活動レベルまで調査すべきであり、逆に100人の部署の業務は概要レベルで済ませてよいと考えられます。

つまり、細分化すべき箇所とそうでない箇所を特定する際にも、目的と状況を考慮して対応することが肝要ということですね。

さて、本稿では業務改善を進めるうえで、まず大枠から捉えて徐々に細分化することの意義と、目的に応じて細分化のレベルを決めること、状況に応じて必要なところを見極めてその部分のみ細分化することをお伝えしました。自社での業務改善の際には、これらの要素を意識することで取り組み自体の効率性を高めていただければ幸いです。