家庭、友人関係、仕事、趣味など…生活における読者の「お悩み」に寄り添う、さらには解決してくれるかもしれないドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー、リアリティショーなど、配信サービスの映像コンテンツを、コラムニストの長谷川朋子が“処方箋”としておすすめする「長谷川朋子のエンタメ処方箋」。

第1回は、仕事における人間関係のお悩みに『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』を紹介します。

  • 『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン1』(C)2025 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. HBO Max and related elements are property of Home Box Office, Inc. 全3シーズンU-NEXTで独占配信中

    『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル シーズン1』
    (C)2025 WarnerMedia Direct Asia Pacific, LLC. All rights reserved. HBO Max and related elements are property of Home Box Office, Inc.
    全3シーズンU-NEXTで独占配信中

「仕事の人間関係が原因で、なかなか一つの職場が長続きしません。転職しても厄介な人に絡まれることが多く、自分の不甲斐なさに落ち込みます。運も悪い気がして、どうしたらいいかわかりません」(千葉県在住・42歳男性)

わかる、って簡単には言いたくないですが――わかります。

人間関係って、避けられるものではないし、ましてや職場となると人間関係が複雑に絡み合う。たしかに、運の要素もあります。“次こそは大丈夫”と思っても、また似たような相手に出会ってしまう。人はそんなとき、自分を責めがちです。それはきっと、責任感が強い証拠でもあるんです。

だから、あなたにひとつの“処方箋”を。深刻になりすぎた心を、ちょっと笑わせてくれるドラマ。『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』(U-NEXT配信中)をおすすめします。

美しいリゾートに集う「人間の縮図」

高級リゾートホテル「ホワイト・ロータス」に訪れる客や従業員の複雑な事情をシュールに描くコメディ×ミステリーの同作。舞台は、ハワイ、シチリア島、そして最新シーズンはタイです。

楽園のような場所に集まるのは、格差カップル、成功者の女子旅、思春期の子ども連れの家族、傷心のおひとり様など、裕福だけれど不安定な人たちばかり。そんな何やら問題を抱えていそうな客を野心的なホテルスタッフがもてなします。誰もが優雅な笑顔の裏に、嫉妬や虚栄や承認欲求を隠しているのです。

観ていると、「このタイプの人、職場にいそうだな」と思う瞬間があります。完璧な人なんていません。それどころか、全員が少しずつ“厄介な人”なのです。だからこそ、このドラマを観ると少し安心するのかも。「自分だけが疲れているわけじゃない」と思えてくるのです。

マイク・ホワイトの“毒と優しさ”

このシリーズを企画・脚本・監督したのは、『スクール・オブ・ロック』のマイク・ホワイト。彼の描く人間は、みんな滑稽で、どこか愛しい。ブラックユーモアと社会風刺を絶妙にブレンドしながら、笑いと痛みを同時に見せてきます。

そしてもうひとつ、この作品の面白さを支えるフォーマットがあります。それは——毎シーズン、“誰かが誰かに殺される”事実だけが明かされて、物語が始まるということ。楽園のようなリゾートで、人間の欲望と不条理が静かに爆発します。「なぜ、殺人事件が起こったのか」というミステリーが軸にありながら、本当に描かれているのは“生きている人たち”の愚かさと可笑しさであることが伝わってくるはず。

エミー賞10冠を獲得したシーズン1(ハワイ編)では、人間関係の“限界”が静かに弾けます。続くシーズン2(シチリア編)では、愛と裏切り、ジェンダーと格差社会の皮肉が渦を巻くのが見どころに。そして、両シーズンをつなぐ存在として登場するのが、ジェニファー・クーリッジ演じるターニャ。富と孤独を抱えた彼女の物語が、“幸せとは何か”というシリーズのテーマを静かに照らしているのです。

毎回、誰かが命を落とすのに、どこか心が温かくなる。どんなに不器用でも、愛を求めずにはいられない——そんな人間の切なさが、この作品の芯にあるのだと思います。