「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

皆さんは、『Web3.0』と『DAO』という言葉をご存知ですか? 『Web3.0』とは、自己主権型Web社会とも定義されますが、従来の中央集権型とは異なる、分散型ネットワークのことを指します。

また『DAO』(Decentralized Autonomous Organizationの略)も、特定の管理者や主体を持たない分散型組織のことを指し、Web3.0と共に今、時代の最先端を行く概念として注目されています。

今回は、そんなWeb3.0とDAO時代を切り拓くFracton Venturesの鈴木雄大氏にお話を伺いました。

  • 左から赤澤 直樹氏・鈴木 雄大氏・亀井 聡彦氏

鈴木雄大氏
Fracton Ventures株式会社 Co-Founder
2017年からスタートアップインキュベーターを経て、東証一部上場企業にて新規事業の立案を牽引。2021年1月にFracton Venturesを亀井聡彦氏・赤澤直樹氏とともに設立。

Web3.0やDAOの未来に対して「プレーヤー」としてコミット

――本日はありがとうございます。鈴木さんが最近起業されたと聞き、ぜひインタビューしたいと思いました。どんなきっかけがあってFracton Venturesを起業されたのですか?

鈴木雄大氏(以下、鈴木氏): 新型コロナの影響で、昨年3月から社会的にも個人的にも大きな変化がありました。「これで一生が終わるかも」と感じるほどで、社会転換の時期だと思いました。昨年はまだ会社員だったのですが、「会社に行くって何だろう? 仕事があるって何だろう?」と疑問に感じて。それは、生命の危機と言っても良いくらい。今考えると、振り返る時期だったのだと思います。それで、「大きなことにコミットしたい」と強く思うようになりました。

会社員時代から、Web3.0(自己主権型Web社会)やDAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)に関心があったので、それらが社会にどれほどの影響を与えるのか。それをディスカッションしていこうと思って、後に共同経営者になる亀井・赤澤と3人でカジュアルな感じで始めたんです。

――なるほど。では、起業ありきではなかったわけですね。

鈴木氏: そうですね。ディスカッションをしていくうちに、だんだんと法人化の話になったという感じで。それで、2020年11月末に退職して2021年1月にFracton Venturesを設立しました。Web3.0やDAOに社会が進化、変化していくイメージは湧いてきていたのですが、Web3.0やDAOが産業にどうかかわってくるかまでは見えない状況でした。しかし、Web3.0やDAOの啓蒙に需要があると思ったわけです。

――それでFracton Venturesさんのサイトには、「Web3.0領域の啓蒙活動(リサーチ・研修)」「法人としてDAOへの直接のコミットメント(コミュニティ参加、開発、企画・設計)」「既に存在するWeb3.0プロダクトの日本展開」と事業内容に書かれているわけですね。

鈴木氏: はい。まずは啓蒙が必要だと思います。Web3.0やDAOが普及していくには、長い道のりがあると思います。ビットコインも、2008年にサトシナカモト論文が出てからこれまで10年以上が経っています。コロナ禍の中で、社会が今まさに大きく変わろうとしていると強く感じました。自分たちが、Web3.0やDAOの未来に対してプレーヤーとしてコミットしていくことが重要だと思っています。

DX化の先にある「DAO化」

――鈴木さんは、Web3.0やDAOの普及をどのような形で進めていこうとお考えでしょうか?

鈴木氏: Web3.0やDAOをさまざまな領域に浸透させ、新しい事業を展開していこうと考えています。海外の優秀なブロックチェーン関連の商品・サービスが日本にまだ入ってきていない現状がありますから、それらを目利きして日本国内展開の支援をすることも考えています。

また、『ブロックチェーンで正直者が報われる「学習歴」社会を目指す』でインタビューされているtechtecの田上智裕さんは教育の領域でブロックチェーンを活用していますが、教育の他にも相性の良い事業領域はあると思います。

例えば、金融や貿易、不動産…などなど。それらのリサーチや研修、啓蒙活動をしながら、Web3.0・DAO領域での新規事業の立案や、Web3.0・DAO関連の国内外のスタートアップベンチャーとの協業などを仕掛けていきたいですね。

――それは面白そうですね。

鈴木氏: DAOのフレームワーク開発にも力を入れています。会社という組織をDAO化する観点での組織改革ですね。そのためには、フレームワークが必要かと。コロナの影響で、パラレルワーク(複業)が増えてきています。しかし、パラレルワークが当たり前になると、会社組織を壊しかねない。でも、ちゃんと機能すればサスティナブルですよね。

――そうですね。複数の肩書を持つ「スラッシャー」のような働き方をする人はますます増えると思います。「複業ができない人は優秀ではない」という風潮すら生まれてきているとも聞きますし。パラレルワークが当たり前になると、会社という組織の在り方の前提が変わってきますね。

鈴木氏: そのとおりだと思います。また、新しいことをするのに属人的な調整が必要なことも会社だとよくあります。「あの部署のあの人に根回しをして…」というような調整ですね。DAO化させることで、それらを短縮化してよりスピーディに新規事業を立ち上げることができるかもしれません。

――オープンでガラス張りであることがDAOの特徴と言えますね。もちろん、隠す必要がある部分は隠すのですが、変なブラックボックスがあると組織としてはそこに懐疑心が生じて、うまくいくこともうまくいかなくなったり…。

鈴木氏: そうですね。組織内に懐疑心が生まれてしまうなら、DAO化して変なブラックボックスを取り除いた方が良いかもしれません。DAO化はマネジメントにも活きます。オープンな情報だから納得がいく。納得しているから、モチベーションが上がり、パフォーマンスも上がる。そんな組織が理想的ですね。

業界最大手でも知名度が低く、優秀な人材を採用できないという経営課題をお持ちの企業もいらっしゃると思います。そんな企業さんにDAO化を通じて課題解決策をご提案したいですね。

――先代はITに疎くても、2代目・3代目の社長は変えていきたいというニーズはあると思います。最近は、「DX化」という言葉が市民権を得てきていますが、DX化のさらに先にあるのがDAO化と言えますね。

「個」が強くなっていくコロナ時代

――新型コロナの影響で大変な状況になっている人も多いと思いますが、私は個人的にはこの変化をポジティブに捉えていて、むしろ良い時代になっていると感じています。なんていうと批判されそうですが。コロナ禍に起業された鈴木さんのような人を応援したいですし、起業したということは鈴木さんもポジティブなのでしょうね。

鈴木氏: 「個」の持つ力が強くなっていくのが、Web3.0社会でありDAOだと思います。その道を切り拓こうとしているので、ポジティブと言えるかもしれませんね。組織変革や新規事業の立ち上げをDAOで加速することができると確信しています。

ビットコインもそうですが、ブロックチェーンプロジェクトでは、会ったこともない人ともコミュニケーションを取って、それでプロジェクトが動いていくじゃないですか。実際、ビットコインは分散型で10年以上止まることなく動き続けています。体験しているとわかるのですが、体験していないとわからないのかもしれません。

ブロックチェーンでもよく「コミュニティ」という言葉が使われますが、ブロックチェーンネイティブが使う「コミュニティ」と、一般的に使う「コミュニティ」という言葉には認識に相違があります。

一般的には、「コミュニティ」と聞くと町内会や学校などをイメージすると思います。ブロックチェーンで言われる「コミュニティ」は、なんとも言葉にしにくいですが、もっとこう…プロジェクトにビジョンやミッションがあって、その実現のために誰もがコミュニティに参加してディスカッションして、プロトコルをブラッシュアップして価値を高めていく。そんなニュアンスが含まれていますよね。

――そうですね、確かにそんなニュアンスです。

鈴木氏: 本当の意味でブロックチェーンはまだまだ理解されてないと感じます。ブロックチェーン関連のプロジェクトは、たくさんの数が生まれては消えていきましたが、DeFi(分散型金融)が普及してからプロジェクトの事例もさらに増えました。なかには継続しているプロジェクトもありますが、内部崩壊したプロジェクトもあります。

「新しいプロジェクトがどのようにワークするか」「成功し続けるのか」「失敗パターンはあるのか」など、事例が増えたことで検証もできるようになってきましたから、プロジェクトを検証するのと同じように仮説を立ててDAO化を進めることができるようになると感じています。

Web3.0領域の基盤は、ブロックチェーンなどがもたらした『検証できるインターネット』です。これは「オープンさ」「フェアさ」を誰しもに与えるというインターネットの根本的なシステムにおける最重要なイノベーションだと捉えています。

3クリックでつくれるブロックチェーンが実現する?

――鈴木さんは、ブロックチェーンの未来はどんな風になると感じていますか?

鈴木氏: やがては、「3クリックでつくれるブロックチェーン」なんてものも出てくると思います。そのとき、ブロックチェーンの本当の普及が実現するのかもしれません。その先もブロックチェーンが伸びていくにはDAOが必要です。文系でも利用できる開発が進むと思います。

例えば、ホームページもECサイトも、今はコーディング不要でつくれるようになりましたよね。特にプログラミングの知識がなくても、テンプレートを選んだり画像を選ぶことでホームページやECサイトをつくれるようになりました。それと同じことが、ブロックチェーンでも起こると思います。

インターネットは、すでに世界中の人が利用していますが、使っている人には特別な技術や知識は不要です。ブロックチェーンもやがてそうなるでしょう。そうなると、アプリケーションやDAO、コミュニティの需要が増すことになります。だから私たちは、つくるだけではなく「育てる」「普及させる」「強化する」ことにコミットしています。

貢献者がプロトコルの価値を上げる

――鈴木さんのお話を伺っていると、ブロックチェーンの可能性をより強く感じます。ブロックチェーンとWeb3.0、DAOは切っても切れない関係ですね。

鈴木氏: そうですね。ビットコインは「分散型」の象徴的な存在です。その分散型の概念が、組織まで広がってきていると思います。それがDAOです。

しかし、会社組織の仕組みやシステムは、分散型という概念を前提につくられていません。ですから、仕組みやシステム自体をDAOに合わせてつくり変えていくというニーズがあると思います。DAOの組み立て方や組み合わせ方、広め方もあわせて啓蒙していきたいですね。

Web2.0時代は、社会の価値=企業の価値で、時価総額が価値の指標でした。Web3.0時代では、複数の企業や個人に支えられ、成長させる。プロトコルの価値を上げていく。だから、「自分にはなにができるか」を適材適所で考えて行動し、形にしていくことが重要になります。

例えば、あるプロジェクトを優秀な人が週末に手伝ってくれるとしても、その人が病気になったらプロジェクトが止まってしまうようではダメです。「複数」や「分散型」であることが重要で、プロジェクトの持続性に影響します。

誰もが参加できるオープンなものをつくることで、社会がより良くなるのではないかと考えています。誰でも参加できるわけですから、機会の平等があります。

――それはすごく良いですね。大手企業内ではイノベーションが起きにくい状況がありますが、DAO化することで新しい風が社内に吹いて新規プロジェクトが一気に立ち上がるかもしれませんよね。

日本社会や大手企業内で感じるある種の停滞感は、「足るを知る」文化や「完成しすぎた」文化に原因があるのかもしれません。生活や人生においては大切な考え方ですが、ビジネスでは邪魔になります。

私は、日本のスタートアップベンチャーへの投資を勧められることがありますが、日本のスタートアップベンチャーは日本市場しか見ていない傾向があり、勧誘されても投資したことはありません。ところが例えば、中国のスタートアップベンチャーは、中国市場での成功の先に世界市場を視野に入れています。中国国内市場で勝つだけでも、アメリカでのIPOの数倍の成功を意味するわけですが、そこで終わりとは考えていません。

日本が持っている技術やアイデアは、伝統技術も先端技術も世界で評価されるレベルのものです。それらを世界市場に持っていくために必要な資金は、日本国内に十分すぎるくらいあるはずです。DAO化は、大手企業の可能性も広げますし、スタートアップベンチャーの可能性も広げますね。

鈴木氏: そう思います。私たちはプレーヤーとしてコミットしますから、自らを支援者ではなく「貢献者」と呼んでいます。「支援者」や「アドバイザー」だと、どうしても一歩引いてしまう印象を受けます。一緒にもがき苦しみ、実現したときには喜びも分かち合うくらいコミットしたいですね。

プロトコルやプロジェクトを良くするための真剣さと真摯さを持って、建設的でロジカルな議論を重ね、プロトコルやプロジェクトの価値を高めていくことに貢献し続けたいです。