悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「交際相手との結婚」に悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「今のパートナーから結婚の話は出てこないので、諦めればよいという気持ちと、このままで良いのかと迷う」(39歳女性/事務・企画・経営関連)

  • 交際相手との結婚について悩むことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    交際相手との結婚について悩むことはありますか?


僕が結婚したのは29歳のときでした。もともと結婚願望が強かったし、でもなんとなく自信が持てなかったから、気がつけば彼女(現在の妻)と6年もつきあっていたのでした。

しかし30歳を目前にして「これではまずい」とようやく感じ、一気に結婚まで持ち込んだのです。

今年で結婚28年目。夫婦仲も悪くはないと思いますし、一男一女にも恵まれ、「結婚してよかった」といつも感じています。

ただ、まわりを見渡してみると、結婚していない人が多いことにも気づくのです。そもそも弟が54歳未婚だし、従兄弟や従姉妹にも未婚者が何人か。仕事でおつきあいのある40〜50代の未婚男女も少なくなく、当然ながら離婚した人もいるわけです。

なかでも特に気になるのは、ミレニアル世代よりも少し上くらいの40代未婚男性です。会社でも相応の地位にいて、収入もそれなりにある彼らのなかには、結婚生活よりも、趣味などを重視した「自分の生活」を大切にしているようなタイプがとても多いように感じるのです。

当然のことながら、その世代のすべてがそうだと言う気はありません。けれど複数の知人を見ていると、「いまはいいけど、老後にひとりはキツいんじゃないかな」などと、つい余計なことを考えてしまうのです。

もちろん、それは悪いことではないのでしょう。でも、結婚に満足している僕からすると、ちょっと理解できない部分があることも否定できないわけです。

ご相談者さんは39歳女性ということなので、もしかしたらパートナーの方がちょうどその世代にあたるかもしれませんね。だとしたら、ふたりの結婚観が大きく違っているということも考えられそうです。

また、それ以前に、結婚に対する男女の感覚の違いが影響している可能性もあるでしょう。30代終盤となると、女性の場合は結婚に対する焦燥感が大きくなって当然です。ところが男性の場合は現実的に、「きょうと同じ明日が訪れればそれでいい」という感覚の人が多い気がするのです。

そこで、きちんと時間をとってお互いの本音を明かし、話し合いをしたほうがいいのではないでしょうか。少なくとも今回のケースに関しては女性側に迷いがあるのですから、その件についての考え方を明らかにする義務が男性にもあると僕は思います。

迷い婚から悟り婚へ

著者によれば、『迷い婚と悟り婚』(島田雅彦著、PHP新書)』の第一の目的は「結婚の定義を変えること」。そのため結婚にまつわる迷いを解き、少しでも悟りに近づいてもらうための提言を盛り込んでいるのだそうです。

  • 『迷い婚と悟り婚』(島田雅彦著、PHP新書)』

    『迷い婚と悟り婚』(島田雅彦著、PHP新書)』

結婚に躊躇し、傷つき、どっちつかずの状態に陥ることを「迷い婚」と呼び、その迷いを振り払い、大きな決断に踏み出したり、結婚にまつわる偏見や先入観から自由になり、深く思い悩むことから解放されることを「悟り婚」と呼んでみることにする。(「まえがき」より)

この定義に基づくとすれば、ご相談者さんはいま「迷い婚」の状態にあることになるはず。だとすれば、ふたりで話し合い、「悟り婚」を目指すことが大切なのかもしれません。

著者は、ほとんどの男女が結婚を望んでいるにも関わらず、異性とうまくつきあえない男女が増えていると指摘しています。またその一方、恋愛は成就していて、男も女もそれなりに満たされているにもかかわらず、結婚に結びつかないというケースも増えているのだとか。

そこで本書においては、そうしたボタンのかけ違いに対する解決策をさまざまな角度から提案しているわけです。それは、結婚しにくい状況の打開策をさまざまに提起し、結婚についての意識を変えてもらいたいからなのだといいます。

ちなみに著者が示す「結婚をすすめる七つの理由」とは、次のとおり。

(1)子供が作れる
(2)毎日、会える
(3)食卓を囲むことができる
(4)経済状態が上向く
(5)心の支えができる
(6)信用が高まる
(7)離婚できる
(16ページより)

あえて泥臭く考えてみたことだそうで、なかにはやや極端なものもある気はします(しかし、それはおそらく意図的なもの)。とはいえ僕としても共感できる部分は多く、(2)(3)(5)などはかなり本質的な部分だと思います。

ちなみに「同棲すればすむことじゃん」と思われるかもしれませんが、結婚と同棲は本質的にまったく違います。端的にいえば、違いは「責任の所在」。責任の重さがモチベーションを高めてくれるということで、だから僕も著者の考え方には強く共感できるのです。

恋愛や結婚の原点に立ち戻る

『幸せな結婚をするために大切なこと』(香川浩樹著、PHP研究所)のターゲットは、厳密にいえば“婚活”をしている人。著者は結婚相談所の経営者ですし、目次にも「結婚できる人になるために必要なこと」「あなたの『理想の人』を決める」などの文字を確認することができます。

  • 『幸せな結婚をするために大切なこと』(香川浩樹著、PHP研究所)

    『幸せな結婚をするために大切なこと』(香川浩樹著、PHP研究所)

つまり今回のご相談とは少し趣旨が違うのですが、それでもご紹介したいと感じたことには理由があります。こうしたベーシックな婚活本に目を通すことによって、恋愛や結婚の原点に立ち戻ることができるはずだからです。

交際期間が長くなると「一緒にいるのが当たり前」だという感覚が大きくなっていくものですが、今回のような機会にこそ、初心に戻ってみるべきではないかということ。

無理に一〇〇%以上の自分を出して、相手に気に入られたとしても、一生ずっとそれを維持し続けるのは困難です。(中略)自分の魅力を一〇〇%出すことは大切です。でも「一〇〇%以上の自分は出さないで」と、いつもお伝えしています。  がんばり過ぎないでください。無理しないでください。一〇〇%のままのあなたを好きになってくれる人が、あなたが幸せになれる理想の相手ですから。(169〜172ページより)

これは「相手の見極め方」に関する記述であり、つまりはやはり「理想の相手を探している人」に向けて書かれた部分です。しかしこの主張には、結婚後のスタンスに関する重要なポイントが示されているとも感じます。

なぜなら、がんばりすぎてしまうと、やはりうまくいかないものだから。つまり、素の自分でいられる相手であることが重要なのだということを、この文章は教えてくれるわけです。

両者が歩み寄ることが重要

さて、最後に「結婚後」のことも考えておきましょう。参考にしたいのは、『2人で理想の未来を叶えていく 夫を最強のパートナーにする方法』(ヒロコ・グレース著、大和書房)です。

  • 『2人で理想の未来を叶えていく 夫を最強のパートナーにする方法』(ヒロコ・グレース著、大和書房)

    『2人で理想の未来を叶えていく 夫を最強のパートナーにする方法』(ヒロコ・グレース著、大和書房)

著者は約20年間にわたり、10,000人以上の男女をカウンセリングしてきたという実績を持つ「恋愛・夫婦関係研究家」。その経験と実績に基づき、本書では理想的な関係をつくるための秘訣を明らかにしているのです。

夫婦が人生を共に生きるパートナーとして、本質を伝え合う深いコミュニケーションをとり、お互いの考えや生き方を尊重し、すり合わせていく。そうすることで、影響し合い、高め合える理想的とも言える関係性を構築できるようになります。(「はじめに」より)

著者自身が女性であるため、本書においては「まずは、私たち妻が」意識を変えようと提案しています。そうすることで、夫の意識も変わり、新しいパートナーシップが築けるようになるというのがその理由。

しかし男性である僕からすれば、「まず夫が」変わることも無駄ではないと思います。いってみれば、両者が歩み寄ることこそが重要だということです。


なお、結婚しようという場合、お互いの年齢も決して低くはない壁になると思います。年齢が上がるほど壁が高くなっていくわけで、ご相談者さんのなかにもそんな思いがあるかもしれません。

しかし、あえて既婚者の立場から言わせていただくと、「30代後半だから」「40代だから」結婚は難しいということはありえないと思います。30代には30代の、40代には40代の、50代には50代の、理想的な夫婦関係があるからです。

だからこそ、その年齢にしかできないつきあい方をして、一緒にいる時間を楽しめばいいのです。

たとえば僕と妻は50代ですが、特に大きな変化があったわけではないのに、ここ数年はより自然にいられるようになった気がしています。おそらくそれは、年齢を重ねてきた結果なのだろうなと思っているのですが。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。