悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「変化のない仕事」へのモチベーション維持に悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「毎日同じ仕事内容で、モチベーションを維持できない」(52歳男性/技能工・運輸・設備関連)

  • 変化のない仕事に対してモチベーションを維持できていますか?(写真:マイナビニュース)

    変化のない仕事に対してモチベーションを維持できていますか?


いただいたご相談内容を確認しているとき、よく目にするのが「モチベーション」に関するお悩みです。

今回のご相談がまさにそうですし、他にもいま、営業関係のお仕事をしていらっしゃるという36歳の女性からも「30代後半になってモチベーションが上がらない」ことに悩むメッセージが届いています。

もちろん細かく考えれば、たとえば「マンネリ化してしまった」「おもしろさが見出せない」など、その理由は多岐にわたるでしょう。いずれにしても、現実問題としてなかなか越えることのできないこの壁にぶつかっている方はとても多いのです。

程度の差こそあれ、誰に対しても言えることだと思いますが、仕事は必ずしも未知の刺激に満ちたものとは限りません。決して、ドキドキするようなことが毎日起きるわけではないということ。

それどころか、毎日同じことをしなければならない場合も少なくないでしょう。ですから必然的に、"鮮度"は失われていくものだと考えることもできるわけです。

ただ、考え方ひとつで感じ方が大きく変わることもまた事実。

たとえば僕は、会社員とライターという二足のわらじを履いていたころ、週末が楽しみでたまりませんでした。金曜日までは会社の仕事をするわけですが、土日には原稿を書いたり取材に行ったりしなければならなかったからです。

休む時間はありませんでしたが、代わりに大きな充実感がありました。そしてそんなことを続けていると、いつしか週明けの月曜日のこともつらいと感じなくなっていきました。

そのころ、隣の課に2、3歳年下の男性がいました。鮮明な記憶として残っているのは、日ごろからとても愚痴っぽかった彼が、ある金曜の夕方に漏らしたひとことです。

僕が「週末はあれをやって、これもやって……」と考えていたまさにそのとき、彼がこう嘆く声が聞こえてきたのです。

「あ〜あ、これで土日休んだら、また月曜に来なくちゃならない……」

驚きました。僕は週末から週明けの流れを楽しいと感じていたので、「なるほど、そういう考え方もあるのね」と思わずにはいられなかったのです。

お断りしておきますが、別に「自分の考え方のほうが優れている」などと言いたいわけではありません。そうでなはく、「そんな考え方をしていたのでは、モチベーションも高まらなくて当然だろうな」と思えてしまったということ。

彼は「ネガティブ」が服を着ていたようなタイプだったので、かなり極端な例だったとは思います。でも、高まらないモチベーションをなんとかしたいのであれば、やはり考え方を変えてみるのがいちばんだとは思うのです。

アメとムチの使い方

勉強でも仕事でもスポーツでも、やる気をモテないことに対して、人はそもそも集中することができない。その結果、いつまでたっても上達しない。だから、ますます面白くなくなる。
そればかりか、やる気を感じない状態を放置したまま生きていたら、新しいことに気づく力がどんどん衰える。あきらめ感やテンションの低さが続けば、メンタルヘルスにも深刻な影響が出てくる。
だから、やる気を育てること、つまり「やる気の出し方」を示すことは、成績アップや労働効率アップの問題にとどまらず、生活のクオリティをも左右する重要なポイントなのだ。
やる気を育てることは、人の心を育てることにつながるのだ。
(「はじめに 本書の読み方」より)

こう主張しているのは、『「やる気」を育てる! ~科学的に正しい好奇心、モチベーションの高め方』(植木理恵 著、日本実業出版社)の著者。特に「モチベーションの理論」や「意欲のメカニズム」に詳しいという心理学者です。

  • 『「やる気」を育てる! ~科学的に正しい好奇心、モチベーションの高め方』(植木理恵 著、日本実業出版社)

    『「やる気」を育てる! ~科学的に正しい好奇心、モチベーションの高め方』(植木理恵 著、日本実業出版社)

本書において注目すべきは、目先のことを片づける意欲、すなわち「短距離のやる気」を育てたいのであれば、「アメとムチ」による育て方が有効だとしている点です。アメとムチの使い方としては、以下のことが重要なのだとか。

(1)アメとムチは、例外をつくらず速やかに与えることが大切
(2)相手が誰であっても、深い感情を注ぐと台なしになる
(3)相手の反応をよく見て「その場ですぐに」実施する
(4)相手と2人のときでなく「大勢の前で」行なう
(5)アメとムチの指針をクリアに伝え、その指針は変えない
(38〜39ページより)

よいことをしたらアメを与え、悪いことをしたらムチを与える。そうして高めることができるやる気のことを、心理学では「外発的モチベーション(extrinsic motivation)」と呼ぶのだそうです。

目先のことをする短距離のやる気は、この外発的モチベーションによって育まれるもの。しかも、この「短距離のやる気」は「長距離のやる気」にもつながる重要な部分だというのです。

なお、ここまで読んでいただければおわかりのとおり、本書が読者として想定しているのは、部下や後輩を育てるリーダーなど。とはいえ、自分自身のやる気を育てることにも応用が可能だそうです。なぜなら、やる気を育てる方法はどちらも同じだから。

つまり、自分自身のモチベーションを向上させるためにも有効だというわけです。

モチベーションを高めるヒント

『モチベーションの新法則』(榎本博明 著、日経文庫)の著者も、心理学博士という立場と経験に基づき、モチベーションを深く考察しています。

  • 『モチベーションの新法則』(榎本博明 著、日経文庫)

    『モチベーションの新法則』(榎本博明 著、日経文庫)

納得させられる部分は多いのですが、今回のご相談のように個人的な悩みをどうにかしたいという場合、第4章「仕事が楽しいとはどういうことか」が役に立つのではないかと思います。

特に注目すべきは、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」との違い。外的報酬によってやる気にさせることを外発的動機づけ、活動そのものが目的となっているため外的報酬なしでも自発的に行動することを内発的動機づけということです。

E・L・デシは、内発的に動機づけられた行動とは、人がそれに従事することにより、自分自身を有能で自己決定的であると感じられるような行動であると言います。
たとえば、ご褒美をもらおうと思って子どもが勉強する場合や、給料をもらうために仕事をする場合のように、外からの報酬を得るために行動するとき、それは外発的動機づけによる行動ということになります。
それに対して、子どもが遊んだり、大人が趣味を楽しんだり、家族で旅行に行ったりする場合は、外からの報酬を得るための手段として行動しているのではなく、活動そのものが目的となっており、それは内発的動機づけによる行動ということになります。(117ページより)

とはいえ見逃すべきでないのは、誰もが給料や昇進といった外的報酬のために働いているわけではないこと。

働くことで充実感が得られたり、チャレンジによるワクワク感や達成感があったり、自分の成長を実感できたりして、働くことそのものが喜びになっていることもあるわけです。当然、そこには内発的動機づけが働いていることになります。

つまり私たちが仕事をするとき、給料などの外的報酬を得るための手段として働いているだけではなく、働くこと自体が目的となっている側面もあるということを見逃してはならないということ。だとしたらそこにも、モチベーションを効率的に高めていくためのヒントが隠れていると考えられるのではないでしょうか?

他者に向けての思い

ところで、モチベーションを維持できないとしたら、それが「やり抜くことができない」という結果につながってしまうことも考えられるはず。

  • 『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(アンジェラ・ダックワース 著、神崎朗子 訳、ダイヤモンド社)

    『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(アンジェラ・ダックワース 著、神崎朗子 訳、ダイヤモンド社)

そこで参考にしたいのが、アメリカの教育界で重要視されている「グリット」(やり抜く力)研究の第一人者による『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(アンジェラ・ダックワース 著、神崎朗子 訳、ダイヤモンド社)です。

「興味」は情熱の源だ。そして「目的」、すなわち人びとの幸福に貢献したいという意思も、やはり情熱の源だ。「やり抜く力」の強い人びとが持っている深い情熱は、「興味」と「目的」によって支えられている。(202ページより)

「やり抜く力」の鉄人が、自分の目指していることには「目的」があると言うとき、そこには単なる「意図」よりも深い意味が込められているのだと著者は言います。「目的」が明確であるだけでなく、そこには特別な意味があるというのです。

それは、他者に向けての思い。苦労を重ね、挫折や失望や苦しみを味わい、犠牲を払っても、その努力はほかの人びとの役に立つ。つまり「目的」ということばの中心的な概念は、「自分たちのすることは、ほかの人びとにとって重要な意味を持つ」ということ。

人間は進化し、「意義」と「目的」を探求するようになった。もっとも深い意味において、人間は社会的な生き物であり、周りの人びととつながって互いに奉仕することも、やはり生存の確率を高める。孤独な人よりも、周りの人びとと助け合う人のほうが生き残りやすい。社会は安定した人間関係によって成り立っており、私たちは社会に属することで、食料を手にし、悪天候や敵から身を守ることができる。つまり、つながりを求める気持ちも、快楽への欲求と同じように、人間の基本的欲求なのだ。(206ページより)

たしかに他者との関係性を軸に仕事を捉えてみれば、ひとりで考えていただけではわからなかったことが見えてくるのではないでしょうか? そして、それがモチベーションを高めるきっかけになってくれるかもしれません。


単調な日々が続くと、たしかに気持ちは落ち、やる気も薄らいでいくものです。しかし、だからこそ、自分をうまく舵取りすることが大切。そうすれば、やがて進むべき方向が明確になり、モチベーションも高まってくるのではないかと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。