悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、異性の同僚とのコミュニケーションに悩む人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「職場で異性の同僚とうまくコミュニケーションがとれなくて困っています。異性の同僚とは近すぎず遠すぎず適度な距離感で仕事がしたいので良い方法があれば教えてほしいです」(38歳男性/IT関連技術職)

  • 異性の同僚と、うまくコミュニケーションを取れていますか?(写真:マイナビニュース)

    異性の同僚と、うまくコミュニケーションを取れていますか?


僕は会社員時代、異性とのコミュニケーションについて悩んだ経験はないのですが、だからといってコミュニケーション上手だということではありません。簡単な話で、つまり自分は呑気で無神経な男だということ。少なくとも自分では、そのように自己分析しています。

その証拠に、妻からはしょっちゅう「女性の気持ちがわからない人」だと文句を言われます。やはり、異性の気持ちはつかみにくいもの。ましてや仕事が絡んでくると、さらに話がややこしくなるのは当然かもしれません。

でも、そうやって妻から叱られてきた結果、ひとつ学べたこともあるのです。仕事の関係であれプライベートの仲であれ、男と女はやはり「わかりあえない」ものだということ。

当たり前すぎるといわれればそれまでですが、でも、おそらくそれは真実ではないかと思うのです。「理解し合おう」「うまくコミュニケーションをとろう」と意識してしまいがちですけれど、そもそもそれは「無理」なのです。

「だからコミュニケーションを断とう」という意味ではありません。しかし、男女が「わかりあえない」のは間違いないことなのですから、そんな現実を受け入れたうえで、少しでも無理のないように接すればいいのではないかということ。

もちろん、そうすればベストな関係になれるという可能性も高くはないでしょう。けれど、それくらいの気持ちでいたほうが、お互いに負荷がかからないのではないかということです。

自分のコミュニケーションタイプを把握

さて、男女のコミュニケーションに関する書籍といえば、すぐに思い浮かぶのが『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』(五百田達成著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

  • 『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』(五百田達成著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

    『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』(五百田達成著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

たとえば、男性の上司が部下の女性に「これ、簡単だからやっておいて」と仕事を頼んだとします。部下の女性はどのように感じるでしょうか。
上司のほうは、「『君にとっては』簡単な仕事だから、短い時間で片付けられるはずだよ。お願いね」という気持ちで言っていたとしても、これではまるで伝わりません。それどころか、「君にはこれくらい簡単な仕事がお似合いだ」と言われたような気分になる女性さえいるでしょう。
これは、男性が女性に通じない言葉の使い方をしているのが問題です。(「はじめに 男と女は違う言葉を話している」より)

男女間ではこうしたことがしばしば起こるものだといいますが、本書でいう男・女とは、性別的なものではなく、コミュニケーション上の「カテゴリ」なのだそうです。

性別的に女性で「女らしい」考え方をする人がいる一方、「男らしい」考え方をする女性もいます。また、性別的に女性で、仕事の面では「男らしい」考え方をするけれど、恋愛面では「女らしい」考え方をするというケースもあるはず。もちろん、男性の場合も同じ。

だとすれば、「自分のコミュニケーションは"男タイプ"なのか"女タイプ"なのかがわかれば、あとは簡単。うまくコミュニケーションできない「異性(自分とは逆タイプの人)」の考え方や行動パターン、習性などを学び、相手に伝わる言葉を使って話せばいいわけです。

著者は、「コミュニケーション」「生活者心理」「社会変化と男女関係」などに造詣が深い作家・心理カウンセラー。本書ではそのような立場から、"わかりあえない男女"のコミュニケーションを円滑にするための「具体的なフレーズ」を紹介しているのです。

たとえば今回のご相談に関しては、第4章「仕事/職場編」が役に立ちそうです。

男と女の仕事の価値観は「野球」と「ままごと」という言葉に凝縮されます。男は、子どもの頃からチームで野球に取り組んで、縦社会や序列に慣れ親しみ、勝つための努力をしています。これは会社で仕事をするのとよく似た仕組みなので、男性は女性に比べてビジネスに適応するのが早いのです。
しかし、「ままごと」をしてきた女性たちは、そういうわけにはいきません。女性が大切にするのは、ままごとという仮想世界をみんなで協力してつくり上げる「協調性」や「共感力」。人間関係を穏やかに保つためには必要な能力ですが、ときに他人を出し抜かなくてはならないビジネスでは、邪魔になることさえあります。そのため、なかなか職場で実力を発揮できない女性もいるようです。(192ページより)

この部分だけを確認してみても、多くのヒントを見つけられるはず。「なるほど!」と納得できる考え方が多数紹介されていますので、きっと参考になると思います。

男女の違いを改めて認識

『理屈で動く男と感情で動く女のもっとわかり合える会話術』(佐藤律子著、かんき出版)も、基本的にコンセプトは『察しない男 説明しない女』と同様。違いがあるとすれば、著者が女性であること、そしてその経歴です。

  • 『理屈で動く男と感情で動く女のもっとわかり合える会話術』(佐藤律子著、かんき出版)

    『理屈で動く男と感情で動く女のもっとわかり合える会話術』(佐藤律子著、かんき出版)

私はこれまで、生物学、環境学、社会学、心理学など、男女間におけるありとあらゆる学問を通じて、男女の違いを体系化した「異性間コミュニケーション」を考案しました。(中略)「異性間コミュニケーション」は、この世に男と女がいるかぎり、すべての人に必要とされる知識とスキルです。(「はじめに」より)

普通のOLからスタートしたのち、ブライダル業界で独立して20年以上会社経営をしてきたという人物。その一方、一般社団法人異性間コミュニケーション協会の代表理事として、研修や講演会を行っているのだそうです。

つまり、そうしたバックグラウンドに基づき、男と女の違い、ビジネスにおいてスムーズに仕事を進めるコツ、恋愛や婚活のメソッドなどを幅広く紹介しているわけです。

「自分がしてほしいことが、異性がしてほしいこととは限らない」
これが、異性間コミュニケーションの大きな柱です。つまり、異性の特性や考え方を知り、「異性がしてほしいことを、異性の立場を考えて行動する」のです。そうすることで、男女間で生まれるすれ違いや誤解を取り除き、仕事においても、プライベートにおいても、よりよい男女間の関係を築くことができます。(中略)まずは「異性とは何か」を学び、それぞれの価値観を知ることからはじめましょう。(21ページより)

男女の違いを改めて認識することは、たしかに重要。原点に立ち戻るという意味でも、読んでみるべき一冊だといえそうです。

理解できなくても解決できる

最後にご紹介する『気難しい女性との上手な接し方 仕事がスムーズにいく24のルール』(遙 洋子著、朝日新聞出版)は、タレント、作家、コラムニストとして多方面で活躍する著者が、「気難しい女性」との接し方を論じたもの。

  • 『気難しい女性との上手な接し方 仕事がスムーズにいく24のルール』(遙 洋子著、朝日新聞出版)

    『気難しい女性との上手な接し方 仕事がスムーズにいく24のルール』(遙 洋子著、朝日新聞出版)

働く女性の多くが職場に受け入れられ、評価もされている中で、"気難しい"とされる女性には、女の私でもどう接すればいいのか途方に暮れる側面がある。まして男性たちの困惑はいかばかりだろう。その困惑は他の働く女性にも無関係ではない。
台頭するキャリアウーマンに危険物のように神経を尖らせている人は少なくない。それは異様に怖がる私への接し方や、男性が同僚女性を語る時の険悪な表情からもうかがえる。
これは互いに損な話だ。せっかく同じ職場で働いているのだからもっと互いを理解し、仕事につなげたほうが得なのだ。(「はじめに」より)

そう主張する著者自身、過去を振り返れば、職場でかなり周囲を困らせてきたのだとか。数々の問題を引き起こし、番組を途中で降りてしまうようなこともしてきたというのです。

しかし、そんな状況下においても、著者を見事に手なずけてみせた上司が何人かいるのだといいます。そこで本書では、そのような経験をもとに「彼女は気難しいから」と敬遠するのではなく、"荒れさせないですむ"接し方を考えているわけです。

ムクれる理由は必ずあります。
それを知って解決したほうが"得"。
理解できなくても、解決はできます。
(20ページより)

この「理解できなくても解決はできます」という部分には、つきあいにくい人とのコミュニケーションに関する本質が浮き彫りになっているような気がします。


今回ご紹介したような「男女のコミュニケーション」に関する書籍が発行されるのは、いうまでもなく、そこにニーズがあるから。つまり、異性間のコミュニケーションについて悩んでいる方は、おそらく一定数以上存在するのです。

いってみれば、多くの人が同じようなことで悩んでいるということ。それは間違いないはずですし、そう考えれば多少なりとも気持ちも楽になるのではないでしょうか? 焦らず自分を追い込まず、これらの本を参考にしつつ、できるところから改善していけばいいのだと思います。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。