放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は16日、福岡放送のバラエティ番組『ナンデモ特命係 発見らくちゃく!』(毎週日曜23:25~)の民家清掃企画をめぐる申立てについて、「放送倫理上の問題があった」とする見解を公表した。この決定を受け、同局では「見解を真摯(しんし)に受け止め、今後も人権に十分配慮した放送に努め、健全で良質な番組を提供してまいります」とコメントしている。

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84歳男性宅を清掃する企画に3人が申立て

対象となったのは、2025年4月13日と20日に前後編で放送された「『命の危機』ゴミ屋敷大掃除!」。一人暮らしをしている84歳の男性の自宅が、足の踏み場もない状態となり、夏場にエアコンを修理することもできず、生命に危険が及ぶのではないかとして、男性の甥が番組に応募。タレントやスタッフが清掃業者とともに男性の自宅を訪れ、清掃を行う様子が放送された。

これに対し、住人男性とその妹、甥の3人がBPOに申立てを行った。住人男性は、ウジ虫やネズミのミイラなどの映像が強調され、過剰な演出や構成によって当事者を貶めたなどと主張。さらに、清掃によって大切な物品まで捨てられたと訴えた。妹は自身の私生活に関する表現、甥は少年期の写真が無断で放送されたことについて、それぞれ申立てを行った。

「不衛生さをことさらに強調」出演者への配慮欠く

決定によると、番組では男性の自宅が不衛生な状態にあることを示す映像が流され、出演者らが「くさい」などとコメント。特に、冷蔵庫の中でウジ虫が蠢いている様子をアップで撮影した映像は、前編・後編で各2回ずつ、計4回放送された。

委員会は、この映像について「通常の衛生観念を有する一般視聴者が嫌悪感を抱くような映像」と認定。その上で、実名・顔出しで放送したことが、男性の個人の尊厳を傷つける人格権侵害に当たるかを検討した。

一方で、番組全体については、男性が伝統工芸品の職人として築いてきた業績への一定のリスペクトも感じられ、一方的に貶める構成ではなかったと判断。また、清掃によって男性の生命・身体・財産のリスクが大幅に改善されたという側面も考慮し、人格権侵害には当たらないとした。

ただし、不衛生さをことさらに強調した編集部分については、視聴者参加型のバラエティ番組における出演者への配慮を著しく欠き、礼を失して不快な思いをさせる演出だったと指摘。深夜帯であったことを考慮しても、一般視聴者に嫌悪感を与え、出演者に対する疑問を招く内容として、「放送倫理上の問題があった」と結論づけた。

なお、委員会は、この判断について、個々の表現一つ一つを問題としたものではなく、ウジ虫の映像にモザイクをかけなかったこと自体を問題視したものでもないと付言している。

同意書なしも「放送倫理上の問題」までは認めず

住人男性が「大切な物品まで捨てられた」と訴えた点について、委員会は、番組内容や撮影に関する事前説明・承諾取得の問題として検討した。

福岡放送は、捨てては困る物品をあらかじめ分別し、それ以外は原則として不要物として捨てる旨を、依頼者と住人男性に口頭で説明していたと認定された。一方で、撮影内容や放送内容に関する同意書は取り付けておらず、説明内容や同意の有無が不明確になったと指摘した。

委員会は、本人以外の第三者が依頼者となる視聴者依頼番組であり、本人が高齢であることも踏まえれば、本人が十分に理解できるような事前説明を行い、その記録として同意書面を取り付けておくべきだったとした。

ただし、住人男性は、ゴミ屋敷を清掃する番組に実名・顔出しで出演し、それが一般視聴者に広く視聴されることについては理解し、同意して撮影に応じたと認められるとして、放送倫理上の問題を指摘するには至らないと判断した。

親族の申立ては権利侵害認めず

妹の申立ては、依頼者が応募の動機を語る中で、幼少時の経緯について「母が蒸発した」と表現した場面が対象となった。委員会は、放送に妹の氏名や映像、写真は出ていなかったものの、ごく限られた知人は本人を特定できたと考えられるとした。

その上で、依頼者が幼少時に母親と別居し、祖母や伯父と同居して世話になった事実に争いはなく、息子である依頼者が自ら語ることは許容されると判断。「蒸発」という表現はネガティブな印象を与えかねないものの、依頼者が真情から述べた表現をそのまま放送したことをもって、プライバシー侵害には当たらないとした。名誉毀損についても、社会的評価の低下があったとしても対象者の範囲や程度は限定的だとして、問題とするには及ばないと判断した。

また、依頼者の兄が少年期の家族写真を無断で放送されたとして肖像権侵害を訴えた点については、撮影から約40年が経過していること、屋外・路上で家族の日常を撮影した写真でネガティブな情報を含んでいないこと、依頼者本人が番組のために提供したことなどを総合的に考慮し、肖像権侵害には当たらないとした。

BPO「今後の番組制作に生かされることを期待」

委員会は結論として、3人からの申立てのうち、住人男性による自宅の不衛生な状況の放送内容に関する部分について、「個人の尊厳を傷つける人格権侵害とまでは至らないが、放送倫理上の問題あり」と判断。それ以外の申立てについては、問題点や留意点はありつつも、権利侵害は認められず、放送倫理上の問題ありとするにも至らないとした。

また、審理入りに先立ち、福岡放送がインターネット上での当該放送の配信をすべて停止し、肖像の取扱いについて謝罪する自主的対応を行っていたことにも触れた。

委員会は、本件放送について、独居高齢者やゴミ屋敷といった社会的課題を取り上げた公益性があり、生活環境の改善も実現したと評価。一方で、ウジ虫映像を前後編で計4回放送するなど、嫌悪感をあおる映像を強調し、出演者の自尊心に大きな悪影響を与えかねない演出・編集には行き過ぎがあったとして、「本決定の内容が今後の番組制作に生かされることを期待したい」としている。