主要23作がそろった2025年春ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
別記事(2025年春ドラマ、オススメ5作発表&23作の傾向分析「絶妙なリアリティー」「若手・中堅俳優に刺激」)において2025年春ドラマの主な傾向を【[1]月9と日曜劇場に積み上げられたスタッフの力 [2]“アラ還”の大ベテラン主演がそろい踏み】の2つと解説。
おすすめドラマとして、『続・続・最後から二番目の恋』(フジ系 月曜21時)、『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合 火曜22時)、『PJ ~航空救難団~』(テレ朝系 木曜21時) 『波うららかに、めおと日和』(フジ系 木曜22時)、『キャスター』(TBS系 日曜21時) の5作を選んだ。
本記事では、それらを含む主要23作のレビューと目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『続・続・最後から二番目の恋』 月曜21時~ フジ系
出演者:小泉今日子、中井貴一、坂口憲二ほか
寸評:ヤエル・ナイムの挿入歌「Go to the River」で11年のブランクを超えて没入。世界観はそのままだが、関係性や心理にはゆるやかな変化を加えている。特に千明と和平は物理的な距離感こそ変わらないものの、心の距離感は着実に接近。人生の棚卸しをするように会話を重ねていく姿に恋の概念を考えさせられる。鎌倉での理想郷を思わせる暮らしにファンタジーが漂う一方、登場人物が俳優の実年齢と同じペースで歳を重ねているためリアリティも十分。人生における侘び寂びが感じられる。千明と長倉家を見守り、ともに生きていく…多くの人々に寄り添う作品として、シリーズ作では異例の右肩上がりで支持上昇か。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『あなたを奪ったその日から』 月曜22時~ カンテレ・フジ系
出演者:北川景子、仁村紗和、大森南朋ほか
寸評:「主人公女性が子どもを誘拐」という筋書きは15年前の名作『八日目の蝉』『Mother』と同じ。ただ、今作の大義は「愛娘の死と復讐」であり、前2作の「不倫と堕胎」「孤独と虐待」という劣らぬ必然性はある。「逃げ切れるのか」「子どもを手なずけられるのか」「芽生えた愛情や絆の行方は」などの展開は緊迫感であふれ、両作を知らない世代には新鮮だろう。北川の鬼気迫る演技と子役の愛らしさが鍵を握っている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『夫よ、死んでくれないか』 月曜23時6分~ テレ東
出演者:安達祐実、相武紗季、磯山さやかほか
寸評:テレ東の十八番「夫が震える」シリーズの新作はより過激なコンセプト。“社会的に抹殺”でも“家庭を壊す”でもなく“死んで”は最大級のインパクトがある。それだけに「こんな酷い夫なら仕方ないかも」の設定や「誰も死にそうにない」の展開に拍子抜け。序盤は妻たちが「本当に夫を殺したがっているのか」が伝わらず、親友3人の衝突などもなく、大きな動きがほしいところ。復讐、サスペンス、謎解き、裏切りという4つの要素をうまくさばき切れるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『天久鷹央の推理カルテ』 火曜21時~ テレ朝系
出演者:橋本環奈、三浦翔平、畑芽育ほか
寸評:「医療版シャーロック・ホームズ」というコンセプトは、小説では画期的でも、連ドラにおいては超保守。中高年層の支持を集めなければ数字は得られないコンセプトであり、主人公の傍若無人キャラと若手キャストで苦戦必至か。序盤は笑わせるシーンの不発が続き、木村ひさし監督のポップな演出との相性にも不安が残る。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『人事の人見』 火曜21時~ フジ系
出演者:松田元太、前田敦子、桜井日奈子ほか
寸評:今をときめく現役アイドルであり、新たなバラエティスターである松田元太の起用はタイムリーで苦境のフジを明るく照らしたいところ。愛されキャラを生かした脚本のあて書きには納得だが、肝心の主人公はバラエティにおける松田の魅力を超えていない。退職代行、パワハラ、隠れ残業、副業、人事の多様性など、各話のテーマは多彩かつ意欲的だけに、人見の解決方法に納得感が得られるかが成否を分けそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『しあわせは食べて寝て待て』 火曜22時~ NHK総合
出演者:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこほか
寸評:病気で健康、仕事、部屋、将来設計を失ったヒロインが薬膳に出会い、超スローペースで人生を歩み直していく。さらに1話ごとに異なる生きづらさを抱える女性が登場し、主人公とふれ合うことで小さな一歩を踏み出していく…というNHKらしい地に足のついた物語。地味でも身体が喜びそうな薬膳ご飯も、古い団地の住民や小さなデザイン事務所同僚のさりげない言葉に温かさが漂い、優しく背中を押されるよう。劇中の「生産性や向上心がなくても大丈夫」というセリフ通りの人生賛歌であり、これほど丁寧な人間描写の脚本・演出は希少。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『対岸の家事~これが私の生きる道!~』 火曜22時~ TBS系
出演者:多部未華子、江口のりこ、ディーン・フジオカほか
寸評:時折、芯をつくようなセリフがある一方で、脚本のバランスは微妙なライン。専業主婦、働くママ、育休パパ、妊活女性などの描写が一面的でリアリティが薄く、多様性の尊重というムードにつながらず。女性の共感を集めたいのなら専業主婦を実際以上にレア扱いせず、仕事と子育てを無難に両立しているママなども交えたほうが女性の奮闘や悩みに寄り添った作品になるのではないか。真裏の『しあわせは食べて寝て待て』と比べると人間模様の描き方に粗さを感じさせられる。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】