9月27日放送の『これは経費で落ちません!』(NHK)、『Iターン』(テレビ東京系)を最後に令和初の夏ドラマがほぼ終了した。

新作ドラマの全話平均視聴率では、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)12.6%、『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)12.0%、『サイン ―法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系)11.1%、『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)10.9%、『偽装不倫』(日テレ系)10.3%の5作が2桁を記録。さらに、春から2クール連続放送した『あなたの番です』(日テレ系)は、最終話で19.4%と今夏最高の視聴率を叩き出した。

また、リアルタイムで見る必要がある視聴率こそ伸び悩んだが、ネット上を盛り上げた作品が多かったのも今夏の特色。なかでも、『凪のお暇』(TBS系)、『ルパンの娘』(フジ系)、『これは経費で落ちません!』(NHK)、『だから私は推しました』(NHK)など、熱い支持を集めるものが少なくなかった。

ここでは、「夏枯れならぬ夏栄え。良作ラッシュに沸く」「原作の大胆な脚色に活路」という2つのポイントから夏ドラマを検証し、主要18作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

■ポイント1 夏枯れならぬ夏栄え。良作ラッシュに沸く

  • 大泉洋、上野樹里、吉田鋼太郎

    左から『ノーサイド・ゲーム』大泉洋、『監察医 朝顔』上野樹里、『刑事7人』吉田鋼太郎

かねてから夏は在宅率が低く、毎週の視聴習慣が安定しないため、「一話見逃したら物語がわからなくなる連ドラには不利な季節」とされ、低視聴率にあえぐ作品が多かった。そのため、テレビ業界における“夏枯れ”と言われ続けてきたが、今夏は様相が一変。質の高い作品が並び立ち、それぞれが視聴者とメディアの両者から絶賛されるという良作ラッシュに沸いた。

法医学モノにホームドラマと震災からの再生をかけ合わせた『監察医 朝顔』。ラグビーのディテールにこだわり、昭和の熱さを思い起こさせた『ノーサイド・ゲーム』。人生のリセットと三角関係のラブストーリーを夏の風情に乗せた『凪のお暇』。一般企業の経理というありふれた舞台を魅力たっぷりに描いた『これは経費で落ちません!』。おバカコメディと映像美を両立させた『ルパンの娘』。アラサーOLと地下アイドルの生々しい描写にミステリーを織り交ぜた『だから私は推しました』。

2クールに渡る長編ミステリーを最後まで成立させた『あなたの番です』も含めて、終わってみれば「よくここまで多彩なテーマの作品がそろったな」と思わせるラインナップだった。その中には、“涼”を感じさせるカットを多用した『凪のお暇』や、暑さに熱さをかけ合わせた『ノーサイド・ゲーム』といった夏ドラマらしい作品もあり、「あとは学園ドラマさえあればコンプリート」という感も。

この充実ぶりは、各局が“夏枯れ”対策で、さまざまなプロデュースを試みた成果ではないか。来年以降は、「失敗を恐れず挑戦できる、“夏枯れ”ではなく“夏栄え”の季節」となるかもしれない。

■ポイント2 原作の大胆な脚色に活路

  • 凪のお暇

    左から『凪のお暇』の中村倫也、黒木華、高橋一生

良作が多かった一方で課題として残るのは、「プライムタイムの新作ドラマはすべて“原作アリ”」だったこと。

原作アリのドラマは、「固定ファンがいて計算できる」「スタッフもキャストもイメージがつかみやすい」「企画が通りやすい」などのメリットがある反面、「見せ場や結末がわかっている」「原作ファンの反感を買いやすい」「スタッフとキャストが原作のイメージにしばられる」などのデメリットも少なくない。

しかし、今夏の作品に関しては、「スタッフとキャストが原作のイメージにしばられる」というデメリットはほとんど感じなかったし、むしろ大胆な脚色がことごとく効果的だった。

たとえば、『監察医 朝顔』は、ヒロインが母を失った設定を原作漫画の阪神淡路大震災から東日本大震災に変更し、法医学以上にホームドラマの色を濃くするなど、真摯に向き合いながら描いていた。

  • ルパンの娘

    前列左から『ルパンの娘』の瀬戸康史、深田恭子、渡部篤郎、後列左から栗原類、小沢真珠、大貫勇輔

『凪のお暇』は、原作漫画のキャラクターイメージにとらわれることなく、「演技力ファースト」で黒木華、高橋一生、中村倫也をキャスティング。さらにドラマオリジナルの展開や結末で、原作者や原作ファンをもうならせた。

『ルパンの娘』は、設定こそ原作小説を踏襲しているが、その世界観はまったくの別物。泥棒スーツ、ミュージカルシーン、パロディやオマージュの数々など、視聴者を笑わせることに特化した演出で最後まで飽きさせなかった。

また、『偽装不倫』の準主役・伴野丈(宮沢氷魚)を韓国人から日本人に変え、舞台を韓国から福岡に変えたことには否定的な声もあったが、これも大胆な脚色のひとつと言えるだろう。

いずれにしても、批判を恐れず、キャストのポテンシャルとスタッフのスキルを信じて攻めの姿勢を貫いたプロデューサーの決断力が光るクールとなった。今後、「夏は原作の実写化で安定感をベースにしつつ、大胆な脚色で勝負する」のが定番となるかもしれない。


上記を踏まえた上で、夏ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『監察医 朝顔』。

『凪のお暇』『ノーサイド・ゲーム』『これは経費で落ちません!』『だから私は推しました』とほとんど差はないが、各局が避けたがるホームドラマの要素を真正面から採り入れるなど、思い切ったプロデュースが見られた。“法医学ドラマ6割、ホームドラマ4割”というバランスは「どちらつかず」のリスクもあったが、穏やかなトーンでリンクさせ、違和感を抱かせなかったのは見事と言うほかない。

主演俳優では、大男たちの熱さの中に脱力をもたらした大泉洋と、続編も含め「のだめ」を超える当たり役になりそうな上野樹里。助演俳優では、高橋一生と伊藤沙莉の存在感が出色だった。

【最優秀作品】『監察医 朝顔』 次点-『凪のお暇』『ノーサイド・ゲーム』
【最優秀脚本】『だから私は推しました』 次点-『あなたの番です』
【最優秀演出】『ノーサイド・ゲーム』 次点-『ルパンの娘』
【最優秀主演男優】大泉洋(『ノーサイド・ゲーム』) 次点-田中圭(『あなたの番です』)
【最優秀主演女優】上野樹里(『監察医 朝顔』) 次点-桜井ユキ(『だから私は推しました』)
【最優秀助演男優】高橋一生(凪のお暇) 次点-時任三郎(『監察医 朝顔』)
【最優秀助演女優】伊藤沙莉(『これは経費で落ちません!』) 次点-三田佳子(『凪のお暇』)
【優秀若手俳優】廣瀬俊朗(『ノーサイド・ゲーム』) 眞栄田郷敦(『ノーサイド・ゲーム』)