――YouTubeやネット配信が盛り上がってきている中で、テレビの役割は何だと思いますか?

YouTubeやTikTokを見て思うのは、瞬間的に人の心を引く力は圧倒的だなと思うんです。しかも短い時間で通勤時間とかにスマホで気軽に見ることができる。その快感を1回味わうと離れられないのはよくわかります。NetflixやAmazon Primeの作品を見ても最初の数分でクライマックスが来て惹きつけている。そういう素晴らしい部分は当然学ばなければならないと思うんですけど、一方で、一瞬の快楽を追い求めると負けてしまうと思うんですよね。

テレビに残された可能性があるとすると、それは人生を変える力があるということだと思うんです。僕がそれを実感したのは、島津有理子(元NHKアナウンサー)さんがNHKを退職したことです。彼女は2012年度と、2017年度から2018年度9月まで『100分de名著』の司会を務めてくれていたんですけど、番組で『生きがいについて』を読んだことがきっかけで、自分の本当の生きがいってなんだろうと深く考えたそうです。その後、いろんなご縁が重なり、最終的に小さい頃からの夢だった医者になるためにNHKを退職しました。

この出来事によって番組の影響力の大きさを思い知らされました。人生を変えるくらいのインパクトを持っているのがテレビなんだなあと。テレビ屋が時間をかけて綿密に練り上げた“ストーリー”には、人々の人生を巻き込む力が確実に生まれる。テレビに可能性あるとしたらそこではないかと、いま実感しています。

――今後どんな番組を作っていきたいですか?

「テレビ屋の声」という連載で言うのもなんですけど、ラジオを作ってみたいんですよ。情報があふれている時代に、いまだに音声だけで手足を縛っているように見えて、実は一番受け手と親密になれるのがラジオかなって。本や文化をゆるく語るようなラジオ番組を作ってみたいです。やりようによっては、とんでもない可能性を秘めているメディアだと思いますね。

■“問い”を見つける大切さを教えてくれた『ガンダム』

――そんな秋満さんが影響を受けた“この番組”というと何でしょうか?

2つあるんですけど、1つはアニメ『機動戦士ガンダム』です。中学3年のときに見て、圧倒的に世界観を変えられましたね。どっちが正しいのかわからない悪と善の相対性。善の中にも悪があるし、悪の中にも善がある。あと、大人の怖さ、ズルさ、汚さ……すべて学びました。それでも富野由悠季という監督は、人間が変わりうるというのを信じていて「ニュータイプ」という新しい人類像を出す。すごい可能性も見せてくれるんだけど、それをまた続編で全部潰していく。結局「ニュータイプ」は戦争の武器にしかならないんだ、と。結局、何を言おうとしてるんですか、富野さん!って(笑)。世界を複眼的にみる視点、正解ではなく“問い”を見つけていくことの大切さを富野さんに教えてもらいました。『ガンダム』を見ていなかったらこの業界にはいなかったかも。いまもトークイベントにも行くくらいのファンです。

もう1つは70年代後半から80年代前半にかけてNHKで放送されていた『ルポルタージュにっぽん』です。『ルパン三世』の音楽も作曲した大野雄二さんがめちゃくちゃカッコいいテーマ曲を作っていて、寺山修司が競馬場に集まる人々のことをリポートしたり、ボブ・ディランが来日したときのファンの様子を村上龍が取材したり…と鋭い感性をもつ人物が社会現象を寄り添いながらリポートするすごい番組でした。その中で、ピンク映画の舞台裏を中西龍さんというNHKの名物アナウンサーがリポートした「ひとはピンクと言うけれど もうひとつの日本映画」という回が特に印象に残ってます。若き日の山本晋也監督とかアナーキーでめちゃくちゃカッコいいんですよ。世の中から「いかがわしい」と見下されているものたちが抱いている高い志、その“いかがわしい”現場を生真面目なNHKアナウンサーにリポートさせることでテーマをくっきりと浮き上がらせていくという逆張りの発想。たった1回きりの番組なのに鮮明に覚えています。今でも発想がマンネリに陥りそうなときに思い起こす番組ですね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

『進め!電波少年』を担当していたプロデューサーの土屋敏男さんです。特に、猿岩石の「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」「なすびの懸賞生活」など、すごくよく覚えています。『電波少年』は、ジャンルとしては「バラエティ番組」なんでしょうけど、僕は、「新しい形のドキュメンタリー」だと当時思っていました。「リアリティショー」という言葉は今でこそ定着して、ありふれた手法となっていますが、当時の日本では誰も試みていなかったのではないでしょうか。

人が極限状況に追い込まれたとき、どんな感情や表情をみせるのか? テレビ側があえてその状況を仕立て上げ、そこに人間を放り込む。いろいろと問題含みの番組でもありましたが、リップサービス抜きで、若き日の僕が、手に汗を握りながら毎回テレビ画面にくぎづけになった数少ない番組です。このたび、日テレを辞められ、新会社を立ち上げられるとお聞きしましたが、土屋さんの“次の一手”、ぜひお聞きしてみたいです。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • 元日本テレビ・土屋敏男氏