注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、ABEMAの編成局長兼制作局長を務める谷口達彦氏だ。

2016年4月に多チャンネルのインターネットテレビ局として開局して以来、ニュース、恋愛リアリティショー、ドラマ、バラエティ、将棋、格闘技など、各ジャンルで存在感を示すようになってきたが、この成長の背景には何があったのか。そして、地上波テレビや外資系のサブスク動画配信サービスにない強みとは――。

  • ABEMA編成局長兼制作局長の谷口達彦氏

    谷口達彦
    1983年生まれ。06年、新卒で株式会社サイバーエージェントに入社。社長室を経て、「Ameba」の宣伝担当、11年にアメーバ事業本部マーケティング・プロモーションDiv ゼネラルマネージャー。13年に株式会社アメスタを設立、代表取締役社長に就任。現在は、サイバーエージェント執行役員、株式会社AbemaTV編成制作本部・制作局長、編成局長としてコンテンツ責任者を務める。

■地上波のタイムテーブルとは別の魅力がある

――当連載に前回登場したディレクターの岡田純一さんが「ABEMAの立ち上げ当初、出会ったときには『テレビのこと何も分からないんです』と言っていたのですが、グイグイ出世されて、今では手を伸ばしても届かない遠い存在になってしまいました(笑)」とおっしゃっていました。岡田さんとの出会いはどこだったのですか?

テレビ朝日で『私のホストちゃん』というAmebaモバイルのゲームをドラマ化したんですけど、鈴木おさむさんに構成と演出をお願いして、そのときに現場にディレクターとしていたのが岡田さんだったと思います。それから、おさむさんの携わっている番組や『GENERATIONS高校TV』『フリースタイルダンジョン』など、ずっとご一緒させてもらってますね。

――谷口さんは、ABEMAの開局から携わっているということですね。

もともと「AmebaStudio」というライブ動画配信サービスの代表をやってたんですけど、AbemaTVが開局を迎えるにあたって藤田(晋、サイバーエージェント社長/AbemaTV代表)に呼び戻されて、何人かいるプロデューサーたちのマネジメントという形で入り、そこから制作局長となって、去年の7月から編成局長も兼任しています。

――改めて、ABEMAはどのように立ち上がったのでしょうか?

テレビ朝日の番組審議委員に藤田がいて、外資OTT(当時のHulu、Netflixなど)が日本に上陸するときに、日本のテレビ局がどう立ち向かうかという論点から議論を深めていく一方で、テレビデバイスの受信機としての機能と若者の生活態度が合わなくなってきたという現状があって、コンテンツのクオリティはすごく高いということを前提に、若者がみんな覗き込んでいるスマートフォン上にテレビ局を誕生させるのがいいんじゃないかという話になったんです。そこは、餅は餅屋でやってもらったほうがいいということで、テレ朝さんにご相談させてもらいました。

――テレ朝もそうですが、岡田さんをはじめ、テレビの制作者がどんどん参加されている印象があります。そこは積極的にお声がけをしていった感じですか?

そうですね。テレビの人たちは本当に優秀な方が多くいらっしゃるので。そして、若者がテレビデバイスから離れてしまい、若者に向けてリーチしにくいというクリエイターの葛藤みたいなものがあったので、僕たちが新参者として挑戦したいときに、賛同を得やすかったというのがあります。若者に向けて思いっきり作品や番組を放っていこうというところで共感を得られたので、そこでどんどんお仕事をしていくようになりました。

――やはり皆さん、従来の地上波テレビよりものびのびやってらっしゃる印象ですか?

そうですね。地上波のタイムテーブルとはまた別の魅力がABEMAにはあると思うので、今までとは違うプラットフォームで放つという意味で、皆さん楽しんでやってくれたり、使命感を持ってやってくれたりしていると思います。

■クリエイターの勝負企画に「1回やってみましょう」

――この6年で、番組の編成方針も変遷してきたと思います。

若者がウェブで動画を視聴するときはYouTubeを中心に、再生ボタンを押してアーカイブ動画を見るため、番組を途中から見るという感覚があまりないので、まずは24時間生放送しているニュースをファーストチャンネルにしました。それに慣らす目的もあって、生放送のコンテンツをすごく増やしたんです。何かあったらニュースを見て、その横のチャンネルでバラエティをやっていると。

そうやって、リニア視聴(=編成された番組の視聴)に挑戦していたんですけど、そのトライアンドエラーの中から、わざわざ見に来るような強い引力を持っているコンテンツが必要になるという仮説を立てて、とにかく尖ってて、誰かにとって夢中になれるものをテーマに企画開発をしていきました。その上で、クリエイターの人が人生を懸けて勝負したいという企画をやるときは、あまり細かく言うことなく、「1回やってみましょう」ということもあります。

――これまでを振り返って、ターニングポイントとなった番組を挙げると、何でしょうか?

まずは『亀田興毅に勝ったら1000万円』(17年5月7日)、それから『72時間ホンネテレビ』(17年11月2日~5日)、『オオカミくんには騙されない』(17年2月18日~)、それに、将棋の藤井聡太さん、MLBや先日の『THE MATCH 2022』(22年6月19日)といったスポーツ中継。また、大きな会見や報道というのも入ってきますね。

――それで言うと、宮迫博之さんと田村亮さんの記者会見(19年7月20日)の生中継は、相当注目を集めました。

そうですね。芸能会見以外でも、開局から1カ月も経たないうちに熊本地震があって、テレ朝さんが誇る報道力を発揮されて、ライフラインとしての可能性を感じました。「何かあったらすぐABEMA」を目指して、報道というジャンルは1つ力を入れていますね。