――最近では「夏休みスペシャル for ティーンズ」と題して、加藤シゲアキさんを司会に起用していますね。

やっぱり若い人たちに興味を持ってもらいたいなと。でも、単に若い人に人気があるってだけではダメですよね。その点、加藤さんは小説を書いているのはもちろん、舞台の演出もやられている。実際お会いしたら、やっぱりアクセサリー的に小説を書いているわけではなく本気で純文学に取り組んでいることがわかったし、すごい才能だなって実感しました。番組でもあけすけに自分の体験を語ってくれて、素晴らしかったですね。朗読も『鬼滅の刃』の声優の花澤香菜さんと下野紘さんにやってもらって、間違いなく視聴者層を広げてくれました。

――特別編として手塚治虫や萩尾望都、水木しげるなどマンガも取り上げていますね。

4人がクロストークする『100分de幸福論』から始まったシリーズの一環でマンガも取り上げているんですが、結構若い人が見てくれているみたいですね。7月に放送した「100分de水木しげる」では、Twitterなどでもすごい反響がありました。「語りの空間」の複雑バージョンで4人が絡み合いながら、作品や作者の魅力が立体的に立ち上がっていって、僕も水木しげるは元々好きだったんですけど、こんなに深いんだって発見がありました。みなさん、熱量がすごくて、なんか目から火が出てるみたいで(笑)

――マンガをじっくり取り上げるという点では、秋満さんも関わられていた『BSマンガ夜話』と通じるところですよね。

自分のディレクター人生の中でも印象的で、今につながっている番組ですね。不定期の放送で純粋なレギュラー番組ではなかったのですが、僕は合計10本くらいやりました。“究極のマンガマニア”であるいしかわじゅんさん、夏目房之介さん、岡田斗司夫さんを中心にひとつの作品について語るんですけど、こんなに深く読めるんだって、「俺、浅かったわ」って毎回打ちのめされる感覚でした。作品を深く読み込む秘けつみたいなものを学ばせていただきましたね。間違いなく自分の原点のひとつです。

――中でも印象的な回はありますか?

大好きだった『ガラスの仮面』の回に、ゲストとして荻野目慶子さんに来てもらったんです。そしたら「私、(主人公の)マヤだったんです」って。それで普段あまり明かさないようなご自身のエピソードを語ってくれてました。マンガと実人生をここまでリンクさせている人はいないんじゃないかって驚きましたね。彼女の“自分語り”によって作品自体の魅力も豊かに膨らんでいく印象的な回でした。

■『夜と霧』『モモ』…名著が人生を導いてくれた

――秋満さんはどうしてテレビの世界に入られたのでしょうか?

大学時代は哲学を勉強していて研究者になりたいと思っていたんですけど、そこまで経済的に余裕のある家ではなかったので、そろそろ就職しろというプレッシャーもあって、どうしようか悩んでいたんです。それが顔に出ていたのか、同じゼミの女の子が「この本読んだら良いんじゃないですか」とフランクルの『夜と霧』を薦めてくれて。そこに自殺をしたいという人が相談に行くというシーンがある。彼らにフランクルはたった一言だけ言うんです。「あなたには待っていることや、待っている人はいませんか」と。その一言で、それまで自殺しか考えられなかった人たちが、それぞれに大切な人や仕事のことを思い出し、自殺を思いとどまるんです。つまり自分中心で考えると、人は簡単に「もうダメだ」って折れてしまうけど、誰かのために生きようと決めると、人生の見方が180度変わる。人は人生の意味を考えてしまいがちだけど、あなたが人生から問われているんだと、フランクル本人から直接叱られているように思えて。ガーンと頭を殴られた感じがしました。

そこから、今まで自分のやりたいことは何かって考えていたけど、自分が求められていることはなんだろうって思い始めて、先生や先輩たちに聞いてみたら、「お前は話を聞くのが上手い」「お前にだとなんか本音を言っちゃう」って自分で気づいてないことを言われたんです。そこで、自分の聞く力を生かせるのはどこだろうと思い当たったのがマスコミでした。フランクルの著作に出会っていなかったら、いま自分はここにいません。

――NHKは地方局への転勤があるのが特徴ですが、その中で印象的な仕事は何ですか?

福岡や長崎、千葉などと東京を往復するように転勤をしているんですけど、一番心を揺さぶられたのは新人2年目で福岡局に勤務していたときのことです。1991年6月3日の雲仙・普賢岳の火砕流災害で43人の方が亡くなってしまいましたが、同時期に被災地にいたんですよ。被災者が避難している仮設住宅を取材しようと決意したものの、新人2年生なのでどうやっていいかわからない。そのとき、夜になると現実逃避するようにミヒャエル・エンデの『モモ』を読んでいたんです。

モモは何もしゃべらない。その代わり、モモが話を聞くとその人が元気になる。それでハッとして、とにかく徹底的に話を聞こうと思って、100軒くらいしらみつぶしに聞いていって、仮設住宅の地図に1軒1軒状況を書き込んでいきました。周りからはあきれられたんですけど、信頼する先輩からは「お前がやっていることはすごく非効率だけど、これが本当の取材だ。取材相手一人ひとりに丁寧に寄り添う姿勢を絶対に忘れるな」って言われて、深く心に刻んだのをよく覚えています。まさに『モモ』という名著に助けられて、取材する姿勢の原点をつかむことができた貴重な体験でした。その姿勢は『100分de名著』で講師の方に取材するときも心がけてます。

――人生の節々に名著の存在があるんですね!

こうした体験を積み重ねる中で、最終的に名著に導かれるように天職のような番組に就かせてもらえたなと深く感謝しています。