放送作家･飯塚大悟氏が考えるテレビの強み「やっぱり面白いじゃんって思われたい」

――Twitterで「放送作家という仕事に、特別な才能やセンスが必要なのか未だに分からない。ひたすら傾向と対策の積み重ねのような気もするし」と投稿されていましたが、まだ自問自答の日々ですか?

脚本を書いたりする文章力も人生経験もないし、大喜利的センスがある人なら他にもたくさんいるし、圧倒的なトーク力で会議を盛り上げるわけでもない。自分には何か「特別な能力」があるわけじゃないので、一体なんで飯を食わせていただいてるか、分からなくなります。

――それでも、これだけのレギュラーがあるのはスキルに需要があるからでは?

放送作家には、ディレクターの意向を尊重しつつアイデアをプラスして、会議を良い雰囲気でまとめてくれる「菩薩タイプ」の人も多いですけど、僕はそんな器用なことができないので、もう「空気を読まずに意見を言う人」ということにしてもらってます。よく会議を変な空気にしちゃうんですけど、ディレクターから「言われたときはムカついたけど、結果的には助かった」って言われると救われます。そもそも友達が少ないので、できればムカつかれずに仕事したいんですけど…(笑)

■規制の中で面白いことをできる人が残る

――最近は「若者のテレビ離れ」ということも言われますが、これについてはどう感じていますか?

ひと昔前は、お茶の間でテレビがついてるのは当たり前でしたが、今はYouTubeや他の選択肢がたくさんある中で、わざわざ「テレビの前」までお客さんを呼ばないといけないですよね。だから今のテレビって「フェス」みたいなものだな思ってます。

「フェス」って、どうしても現場で見たいものがあるから、わざわざ会場まで足を運ぶじゃないですか。去年のラグビーワールドカップだって、友達や家族と一緒に生で見たいからわざわざテレビの前に集まるわけだし、面白いバラエティとかドラマも、SNSとかでネタバレもあるから絶対リアルタイムで見たいと思うじゃないですか。誰とどういう気持ちでテレビを見るんだという視聴体験ごとプロデュースしないといけない時代なのかなと思ってます。

――「テレビは規制が厳しくなった」とも言われますが、その点についてはいかがですか?

「規制が厳しくて面白いこと何もできないよ!」って、つまんないテレビマンがよく言ってる気がします(笑)。個人的には「なんでもあり」って言われるより、できる範囲で面白いことを考えるほうが楽しいですね。いい例えかわからないですけど、ストリートファイト最強の男より、ボクシングのチャンピオンのほうがすごいのかなって思うので。それに、YouTubeもめちゃくちゃ規制され始めてますよね。

――江頭2:50さんの乳首がNGですもんね。

ネットもどんどん規制されて、結局テレビと同等のコンプラが強いられることになると思うんですよね。そうなれば、決まったルールの中で面白いことをできる人が残るだけかなと思ってます。

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると何ですか?

『ボキャブラ天国』(フジテレビ)の直撃世代で、爆笑問題さん、くりぃむしちゅー(当時・海砂利水魚)さん、フォークダンスDE成子坂さんに特にハマってました。大学生の頃は『くりぃむナントカ』や『内村プロデュース』(いずれもテレビ朝日)が大好きで、「どうやらこれは企画を考えてるやつも面白いぞ」って番組の裏にいる制作者のことも考えるようになったと思います。

――根っからのお笑い好きですね。

小学校の同級生が6人しかいないような新潟の山奥で暮らしていたので、娯楽がテレビくらいしかなかったんです。『オンエアバトル』のネタ内容とキロバトル数とかを暗記しちゃうようなお笑いオタクでした。友達いなかったんで、その知識を誰かに披露することはなかったですけど(笑)

■コロナ禍でも「活躍の場として機能し続けるために」

――今後、こういう番組を作っていきたいというものはありますか?

抽象的ですけど「あの番組に出るのが夢なんだ」って言われる番組に携わりたいです。いろんなメディアがある中で、「しゃべくり007に出れた!」とか「アメトーークに出れた!」みたいな“番組の格”みたいなものが生まれるのって、たまたま見る人も取り込める全国放送・地上波のテレビの強みだったりすると思うので。視聴者の方々にも「テレビってやっぱり面白いじゃん」って思われたいので、誰にも頼まれてないんですけど、勝手にテレビの未来を担おうとしてます(笑)

――現在、新型コロナウイルスの感染拡大で各局の収録が軒並みストップする状況の中、お仕事の状況はいかがですか?

ほぼ全部の担当番組から「リモートでもできる企画」って宿題が来ましたね(笑)。リモートでできる企画を、リモート会議で話し合うという日々です。知り合いの芸人さんから仕事が全部飛んだという苦しい現状も聞くので、「しばらくテレビは再放送でいいのに」という声もあったりしますが、テレビが活躍の場として機能し続けるためにも、この状況でできることを絞り出したいなって思っています。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『博士ちゃん』『帰れマンデー』『10万円でできるかな』『家事ヤロウ!!!』の総合演出をしているテレ朝の米田裕一さんですね。テレ朝だと加地(倫三)さんにナスD、中堅だと『激レアさん』の舟橋(政宏)さんとか、『しくじり先生』の北野(貴章)さんとか、『あいつ今何してる?』の芦田(太郎)さんとかは名前が知られますが、米田さんは活躍のわりにテレ朝の中でも屈指の無名なんですよ(笑)。たぶん、テレ朝で1、2を争うほど仕事してるのに、同期の局員に「最近何してるの?」って言われたらしいです。かわいそうなので、少しでも注目されてほしいです。

――『黄金伝説』からご一緒されているんですか?

そうです。米田さんはADで、僕は一番下っ端の作家で、企画書を一緒に出して、通ったり通らなかったりしていた関係です。僕は勝手に、同じ釜の飯を食った仲間だと思ってます。