注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の“テレビ屋”は、NHK Eテレの異色トーク番組『ねほりんぱほりん』チーフ・プロデューサーの大古滋久氏。際どい話題を人形に扮して展開するというシュールな構図は、どのように誕生したのか。制作の裏話に加え、気になるシーズン3の予定も聞いてみた――。

幻となった“謎の人物・X”

001のalt要素

大古滋久
1966年生まれ、広島県出身。91年に東京大学大学院工学系研究科修了後、NHK入局。広島放送局、制作局ファミリー番組部、大阪放送局を経て、『ディープピープル』『Rの法則』『香川照之の昆虫すごいぜ!』『ねほりんぱほりん』などの番組を制作。現在は、制作局青少年・教育番組部チーフ・プロデューサー。

――当連載に前回登場した『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ)プロデューサーの角井英之さん(イースト・エンタテインメント社長)が、「『ねほりんぱほりん』を見て、『アンビリバボー』と一緒で、こんな人がいるんだよ、人間ってすごいんだよというのをやろうとしてるのかなという感じがして。でも、人間を描きたいのに、画が人形なのはすごいことやってるなと思っていた」とお話しされていました。

ありがとうございます。チーフ・プロデューサーになって1年目の時に、『テレ遊びパフォー!』という番組でイーストさんのチームと一緒にやったんです。プロデューサーに「他に何の番組やってんの?」って聞いたら『アンビリバボー』と言っていて、あの番組をやってる人たちだったら深い取材をしてるから大丈夫だと信頼できました。

――『ねほりんぱほりん』は、どのように誕生したんですか?

もともとNHKが若い人に見られていないという問題がありまして、将来の受信料に直結することですし、テレビ業界としてもネットに視聴者が流れているという共通の課題もあり、理事レベルで「なんとかしなきゃいけない」となって、我々「青少年・教育番組部」にオーダーが来たんです。そこで部長から、「ネットと親和性のある番組で若者を取り込む」という至上命題が出されて、何本か企画を出したうちの1つがきっかけでした。

――最初はどんな企画だったんですか?

顔出しNGの人気ブロガーさんを集めて、話題になってる世の中の出来事とかを言いたい放題する『しゃべり場』みたいなのをやろうということで一旦はまとまったんですけど、ちょっと待ってと。『朝まで生テレビ!』という番組がある中で、かたや人気があって顔も売れて顔出しOKなのに、顔を出さずにやるっていうのはどうなんだろうという話になりまして。じゃあ、ネットの中で話題になっている「〇〇だけど質問ある?」をネットと同じく顔出しNGの人でやってみようとなって、そこから動き始めたんですよ。ただ、それをやるにあたって大問題は、我々はテレビなので、全編モザイクだけでやるわけにはいかない。そこで、藤江というディレクターが「パペット(人形)でも使いますかね」と提案したんです。

――そこから一気に画が浮かんできた感じですか?

そうですね。で、MC側をどうしようということで、まず山里(亮太)さんにアプローチしたんですよ。山里さんとは以前、『Rの法則』という10代向けの番組で、顔出し無しで仕事の裏側を聞く1企画をやってたんです。例えば、高校生のデートスポットNo.1の水族館で働いている人に聞くとか、まさに「○○だけど質問ある?」のような企画でした。そこでの山里さんが、相手を絶対けなさず、高校生も立てて、なおかつ自分も面白いことをぶっ込んでくるという見事な進行だったので、「これは絶対山ちゃんは押さえなきゃ」と思ってお願いしました。

――YOUさんはどのような狙いで起用したんですか?

最初は、“ねほりん”の山ちゃんに加えて“ねほりん隊”みたいなのを作ろうと思ったんです。例えば、薬物中毒者がテーマだったら、麻薬Gメンや運び屋といった人を山ちゃん側に置いて、みんなで話を聞いていくイメージ。でも、ただでさえ主人公を見つけるのが大変なのに、他の人たちまで探すのは死人が出るぞという話になって、今度は山ちゃんと謎の人物・Xというタッグを考えました。Xは毎回違うゲストで最後まで正体を明かさない。人形が「あなたの話を聞いても、自分は不器用ですので」って発言したら、「え?もしかして高倉健!?」ってネットがザワザワするんじゃないかって(笑)。そんな案もありつつ、やっぱり下世話に切り込んでいける人がいいなということで、YOUさんになったんです。

――はからずも、イーストさんが制作してる『テラスハウス』でも共演している2人ですが、そこでの掛け合いも評価していたんですか?

うちの部長が、YOUさんがすごい好きで(笑)。そんなこんなで、あの黄金コンビができ上がったんです。

  • 002のalt要素

    『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ)
    顔出しNGの訳ありゲストはブタに、聞き手の山里亮太とYOUはモグラの人形にふんすることで、「そんなこと聞いちゃっていいの~?」という話を“ねほりはほり”聞き出す新感覚のトークショー。

人形の操演さんは国宝レベル!

――何と言っても人形に置き換えるというところが『ねほりんぱほりん』の面白いところだと思うんですが、その前に『マツコの日本ボカシ話』(TBS)という番組で、全編モザイクというのが問題になって打ち切りになりましたもんね。

モザイクだと、悪いことをしていなくても、悪いことしてる人みたいに見えちゃうのが嫌だねという話になりましたね。

――人形だと正反対です。

また、人形を操る「操演さん」がすごくうまいんですよ! 国宝にしてもいいんじゃないかって思うくらい!

――NHKさんには、人形劇の長い歴史がありますが、そこで活躍されている方が動かしているんですか?

はい、『プリンプリン物語』(1979~82年)からの技術です。当時は、まさかこんな使い方されるとは誰も思ってなかったでしょうけど(笑)、ブタとかモグラといった人形が、不思議とだんだん生きてる人に見えてくるんですよね。

――声の収録はどのようにやってるんですか?

ラジオスタジオで向かい合ってやっています。そこで、山ちゃんとYOUさんの後ろから、ゲストの人たちを小型カメラで撮って、操演さんも現場に来て、出演者の動きを観察するんです。「ヒモと暮らす女」のときは、ヒモの人も一緒に出てくれたんですけど、深刻な話をしてる中でやたらと水を飲むんですよ。そういう癖とかをメモって、「人形の小道具で水を用意してください」って頼まれて、それを生かしたりします。カメラはその1台ですがテレビに映るわけじゃないんで、YOUさんなんて背もたれを倒して「だってねぇ~これじゃだめだよ~」みたいに、すごいリラックスして(笑)。だからみんな全然緊張感なく、普通にお茶飲み話してる感じなんですよね。

――人形に置き換えることでそんな効果もあるんですね。MCの2人には、事前にどこまで情報を入れておくんですか?

山ちゃんには、土曜日に収録があるとしたら、木曜日に日テレさんの『スッキリ』の楽屋にお邪魔して「この人はこんな話をだいたい持ってるんです」というのを伝えると、「たぶんこの人はこういうこともあるはずですよね」とアドバイスをくれて、ディレクターがさらに主人公から話を聞き出すということもあります。そうやって、山ちゃんにはゲストの情報を伝えておくんですが、YOUさんには全く言いません(笑)。だから、本当に素のままで「今日のは全然興味な~い」って言う時もあります(笑)

――でも、いいコンビですよね。

なんとなくこういう順番で聞いていったら丸く進行できるみたいな感じのことを、僕らスタッフと山ちゃんは描いてるんですが、YOUさんが一発目に最後の大ネタとして聞こうと思ってたことをドーンとかますこともあるんですよ(笑)。でも、考えてみるとそれが視聴者の本能的に知りたいということなんだろうと思いますね。

――NHKさんの番組は、リハーサルをきちんとやって事前の段取り確認をすごく大事にするイメージがありますが、この番組は異色なんですね。

そうですね。この番組はそこまできちっとやらないです。