注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、フジテレビ系バラエティ番組『奇跡体験!アンビリバボー』(毎週木曜19:57~)の角井英之プロデューサー。世界中の信じられない出来事を映像化した"再現ドラマ"が同番組の大きな柱だが、その映像の制作スタイルも"アンビリバボー"だった――。

フジテレビも驚きの制作費

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角井英之
1962年生まれ、広島県出身。東京大学卒業後、85年にテレビ番組制作会社・イースト(当時)に入社。『わくわく動物ランド』『ギミア・ぶれいく』(TBS)、『世界まるごと2001年』(MBS)、『平成教育委員会』(フジ)などを担当し、97年に『奇跡体験!アンビリバボー』を立ち上げ。14年からイースト・エンタテインメント社長、エグゼクティブプロデューサー。

――当連載に前回登場した『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ)脚本の古沢良太さんが、「『奇跡体験!アンビリバボー』の再現ドラマって、あのクオリティを毎週作るのはとんでもないことだと思うんですよ。あれは、みんなもっと褒めるべきだと思う」と絶賛されていました。

古沢さんにそう言ってもられるのはうれしいですけど、そこまで褒めていただけるレベルではないですよ(笑)。もう20年もやってるんで慣れちゃったんですけど、僕らはクイズ番組やトーク番組をメインにやってきたので、再現ドラマを作るなんて最初はどうしたらいいか分からなかったんです。

それで、始まるときにフジテレビから若手のドラマ脚本家やスタッフを紹介してもらったんですけど、普通のドラマなら演出にも補佐でチーフ、セカンド、サードがいたりする一方で、僕らはそんなにマンパワーがかけられない。再現ドラマ以外にも(ビート)たけしさんのストーリーテラーのパートや、スタジオのパートもあるので、お金もかけられない。でも、それまであったシルエットや説明的な映像じゃなくて、感情までも表現するような"ドラマ"に近いクオリティを作ろうということで始めた企画なので、そんな制約がある中で、ディレクター1人にAD1人だけつけて制作するスタイルなんです。

――それまであった"再現映像"ではなく、あくまで"再現ドラマ"にこだわったんですね。

それで、20分や1時間のVTRを作ろうとするんですけど、ドラマに詳しいスタッフには「ふざけるな!そんなのできるわけないだろ!」って言われて(笑)。でも、そんなこと言われても、こっちはやらなきゃいけないですから、普通のドラマ制作の慣習やしきたりを無視して、とりあえずできなくてもやってみようという考えが、奏功したんだと思います。開始当時、フジテレビの編成の方に再現ドラマの制作費を聞かれて答えると、「考えられない! あれはドラマ部でやったら全然超えちゃいますよ。すごいですね」と驚かれましたね。

――ネタを見つけてからスタジオで出すまで、だいたいどれくらいの期間をかけて制作しているんですか?

一番多いのは1カ月前後ですが、本当に短いのだと2週間。長いものだと2~3カ月かかりますね。まずはネタ会議というのを毎週やって、地方の記事やネットとか書籍とか、いろんなところからネタが20~30くらい集まって、その概要を読んで精査します。そこで「これはしんどいな」といって落とすものや、「ここには書かれてないけど、こんな裏があったら面白いね」といった感じで3~5本くらいに絞り、そこから当事者に接触を始めるんです。日本だったら探偵も使って探したりするんですけど、お断りされることも結構ありますね。「昔の話なので、今さらちょっと…」ということもありますし、そもそも書籍がデフォルメされすぎて実際とはだいぶ違うという話もあります。海外だと、本当にガセネタも多いんですよ。そんな作業をして、最終的に成立するのは1本、よくて2本くらいですね。

――そこまで絞り込まれてしまうんですね!

当事者に取材できるまでの期間が、本当に千差万別で、ネタ会議の翌日にOKということもあれば、探偵を使って3カ月かけてやっと見つかることもあります。そこからは、わりと早いんですよ。台本は2日くらいで第一稿があがってくるので、その気になったら台本を作り始めてから1週間あればスタジオで流すVTRができると思います。

  • 002のalt要素

    『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系、毎週木曜19:57~)
    世界中の幸福な奇跡、常識や科学では解明できない超常現象、怪奇現象などアンビリバボーな話を紹介していく番組。
    (写真左から)MCの設楽統、剛力彩芽、日村勇紀 (C)フジテレビ

昼の映像がいきなり夕景に(笑)

――セットとかはどうするんですか? 航空機事故のときは、ちゃんと客室やコックピットも映し出されていますが…。

ドラマだとちゃんと作るかもしれないですけど、僕らは航空博物館の展示物を借りて撮ってるんですよ。セットなんて費用的にも組めないですからね。

――なるほど! 限られた制約の中で、アイデアが浮かんでくるんですね。

そうですね。だからお金をかけた本当のドラマと違って、引きの画はなかなか作れないですが(笑)。そんな中で20年間作ってきたから、笑っちゃうエピソードはいっぱいあって、ディレクターが撮るのが遅くて押しちゃって、さっきまで昼の映像だったのが、いきなり夕景になってるなんてこともありました(笑)。アメフトの話を撮るときに、貸してくれるグラウンドがなくて、公園みたいなところで撮ったら、後ろに木がたくさん生えてたり(笑)。結局CGで消しましたね。僕自身、結構いい加減で、多少のことはしょうがないっていう人間なんですが、その僕が見ても「いやいやいや、これはないよ」といったことが結構あるんです。だから、CGの技術の進歩には本当に感謝してます。

――『アンビリバボー』以降、再現ドラマの番組は増えましたよね。以前にあったとすれば、小倉智昭さんがやってた『どうーなってるの?!』(フジ)みたいな感じでした。

そうですね。ちょっとコミカルな感じのものはありましたけど、シリアスな本当にドラマっぽいのはなかったと思います。『Mr.サンデー』のプロデューサーをやってる方が、以前編成のときに『アンビリバボー』を担当されていたので、それで『Mr.サンデー』も再現VTRを使うようになったんじゃないかと思います。情報番組で時事性のあるネタをやるわけですから、下手したら2~3日でスタジオに出さないといけないですよね。