テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第102回は、22日に放送されたABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『M-1グランプリ2019』をピックアップする。

2001年の第1回から数えて今年が15回目の放送。史上最多5,040組がエントリーした中、「9組中7組が初の決勝進出」という令和時代の幕開けにふさわしいフレッシュな顔ぶれが注目を集めていた。

当コラムでは今年3月に『R-1ぐらんぷり』(カンテレ・フジテレビ系)、9月に『キングオブコント』(TBS系)を書いてきただけに、「今年のお笑い賞レースを振り返る」という意味も含めて深掘りしていきたい。

  • 『M-1グランプリ2019』優勝のミルクボーイ

■「1組目の漫才まで43分」の引っ張り

午後の敗者復活戦放送を経て、番組は18時34分にスタート。しかし、肝心の漫才がなかなか始まらない。繰り返されるアバンVTR、MCと審査員のやり取り、システムの紹介…1組目の漫才がはじまったのは番組開始から43分後だった。

「キラーコンテンツをいかに長い時間放送するか」はテレビマンとして当然の行為かもしれないが、視聴者ファーストが求められる現在ではさすがに「引っ張りすぎ」の感がある。3時間36分間の番組は、少なくとも30分以上凝縮した中身の濃いものにできたはずだ。

1組目にニューヨーク、2組目にかまいたち、3組目に敗者復活戦を勝ち抜いた和牛が漫才を披露。全国区の芸人が早々に登場し、しかも、かまいたちと和牛が最終決戦進出に十分な得点を叩き出してしまった。つまり、番組の盛り上がりは、「残り7組の無名芸人たちがこの2組を凌駕できるか」にかかったのだが、これこそ生放送の醍醐味と言える。

その後、7組目で登場したミルクボーイが歴代最高得点となる681点を獲得。さらに、「このまま終わる」というムードの中で登場した10組目のぺこぱが3位で最終決戦に滑り込んだ。わずか2点差で大逆転を許したのが3年連続準優勝の和牛だったことも含め、残酷なコントラストを見せるM-1らしい劇的な展開で視聴者の心を揺さぶった。ファーストラウンドが終了した時点で、今回の成功はなかば約束されたようなものだったのではないか。

最終決戦は、ぺこぱ、かまいたち、ミルクボーイの順でネタを披露し、7票中6票を獲得したミルクボーイが第15代王者となった。松本人志と富澤たけし(サンドウィッチマン)が「過去最高」と語るハイレベルな戦いの中、今年初めてテレビで漫才を披露した12年目のコンビが優勝。

くすぶり続ける漫才師たちだけでなく、世間の人々に希望を与えるような夢のあるフィナーレは、「テレビはこうありたい」と他局のテレビマンたちの心にも染みたはずだ。

■「誰が見ても優勝」の王者に救われた審査員

『R-1ぐらんぷり』『キングオブコント』などの賞レース番組と『M-1グランプリ』の違いは圧倒的な緊張感であり、ブレイク前の芸人が人生逆転ドラマを見せることでそれを高めてきた。また、「視聴者に圧倒的な緊張感と人生逆転ドラマを見せ続けてきたことで、ダントツのブランド力をまとうようになった」とも言える。

2019年を振り返ってみると、『R-1ぐらんぷり』では霜降り明星・粗品、『キングオブコント』ではどぶろっくが優勝。どちらも優勝前から知名度は十分あり、大会をきっかけに人生逆転したわけではない。その点、『M-1グランプリ』は全国的には無名のミルクボーイが優勝したことで特大級の人生逆転ドラマを見せ、さらにブランド力を上げることになった。

そもそも『M-1グランプリ』は、島田紳助が「日の当たらない芸人たちにチャンスを与える」と同時に、「ダメなら引退を決意するきっかけにしてほしい」という両極の意味を込めて創設したもの。そのコンセプトは15回目となってもまったく変わっていないし、無名の芸人が台頭していることからも、いまだ意義深さを感じさせられる。

これは裏を返せば、採点方法がゆるくポップな演出が目立つ『R-1ぐらんぷり』、審査員が温かく牧歌的なムードの『キングオブコント』は、たとえ「二番煎じ」と言われたとしても、『M-1グランプリ』のような圧倒的な緊張感が必要なのかもしれない。

今年の大会でもう1つ見逃せないのは、「視聴者と審査員が幸せな形で一致した」こと。賞レース番組で視聴者を笑顔にさせるのは、ネタがおもしろかったときだけでなく、審査員の評価と同じだったときも同様であり、今年のミルクボーイは2つの意味で日本中の人々を笑顔にさせた。賞レース番組はSNSの浸透で、必ずと言っていいほど審査員の是非が問われる時代となっただけに、今回は「“誰もが納得の優勝”を果たしたミルクボーイに審査員が救われた」という見方もできる。

そんな審査員にとっていい環境の中、さすがの存在感を見せたのは上沼恵美子。昨年の大会後に自分への暴言を動画配信した芸人に「更年期障害を乗り越えました」と皮肉で反撃したり、関係ないところで自分のCDを宣伝しはじめたり、突然「横柄」「ぞんざい」と和牛にキレたり、最後は涙ぐむなどの大暴れで、「やはりこの人は良くも悪くもM-1に必要」という存在感を示した。

■「番組に参加したい」に応える仕掛け

ネット上の反響という点ではコンビ名はもちろん、「UFJ」「コーンフレーク」「時を戻そう」「トトロ」「モナカ」などのネタに関わるツイートが検索ランキングを席巻。日付が変わっても、翌朝になっても、つぶやかれ続けていた。

上沼以外の個人に目を向けると、やはり上戸彩。「上戸彩きれい」がランクインしたほか、今年もさまざまな称賛ツイートが飛び交っていた。“上戸ツイート”は今や毎年の恒例行事であり、「年に一度、生放送の上戸彩を見て癒やされ、美しさを確認する」ことを目的にしている人も多く、これも『M-1グランプリ』ならではの強みだろう。

その他、笑神籤(えみくじ)の採用、敗者復活戦への投票、3連単順位予想キャンペーン、世界最速大反省会と打ち上げの配信など、「番組に参加して楽しみたい」という現在の視聴者ニーズに応える仕掛けが目立った。

気になる視聴率は17.2%を獲得(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。羽生結弦が登場した『全日本フィギュアスケート選手権 男子フリー』(フジ)が16.2%、木村拓哉主演ドラマ『グランメゾン東京』(TBS)が11.1%、日曜夜の長寿バラエティ『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』(日本テレビ)が13.6%、13.3%、8.7%、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京)が6.6%と強力な裏番組がそろう中、及第点ではないか。

昨年は史上最年少の若手・霜降り明星が優勝、今年は苦節12年の中堅・ミルクボーイが優勝と異なるドラマを見せていること。「初の決勝進出」という若いコンビが多かった上にハイレベルだったこと。もちろんいくつかの課題こそあるが、2つの意味で「少なくとも今後、数年間は安泰」と思わせる内容だった。

■次の“贔屓”は…ラグビー・福岡vs新型ハンターの攻防は?『逃走中 新春SP』

『逃走中~ONE TEAM VS 新型ハンター~』に参戦するミキの亜生(左)と昴生 (C)フジテレビ

来週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、1月5日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『逃走中~ONE TEAM VS 新型ハンター~』(19:00~21:00)。

2004年のスタートから年1~2本程度のペースで放送されてきただけに、「一度は見たことがある」という人は多いだろう。「芸能人が限られた空間と時間の中でハンターから逃げ切って賞金を獲得する」というシンプルなコンセプトだが、若年層の間で「逃走中ごっこ」が行われたり、出演者が「自首」でネット炎上したりなど、さまざまな反響を得ている。

今回の舞台は、東京のららぽーと豊洲。藤田ニコル、朝日奈央、りんごちゃん、ミキなどのバラエティでおなじみのメンバーに加えて、ラグビー日本代表の韋駄天・福岡堅樹選手も出演し、一方のハンターにも新型が登場するという。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。