テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第103回は、5日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『逃走中』をピックアップする。

2004年のスタートから年1~2本程度のペースで放送されてきただけに「一度は見たことがある」という人は多いだろう。「芸能人が限られた空間と時間の中でハンターから逃げて賞金を獲得する」というシンプルなコンセプトだけに、学生たちが「逃走中ごっこ」で遊んだり、出演者の「自首」が炎上したりなど、さまざまな反響を得ている。

今回の舞台は、東京のららぽーと豊洲。朝日奈央、安藤美姫、伊藤桃々、岡崎紗絵、岸優太(King & Prince)、工藤阿須加、斎藤司(トレンディエンジェル)、酒井一圭(純烈)、DAIGO、西畑大吾(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、HIKAKIN、福岡堅樹(ラグビー日本代表)、藤田ニコル、ミキ(亜生、昂生)、村山輝星、りんごちゃん、和田正人の18人が出演し、一方のハンターには新型が登場するという。

  • 『逃走中』のハンター

■HIKAKINと福岡がまさかの早期確保

舞台であるららぽーと豊洲は、夜明け前でふだんの人気はなく静寂に包まれている。新型ハンターの登場を明かされた逃走者たちが「怖いんだけどマジで」「生きて帰ろう」などと不安を漏らす中、3体のハンターが放出されて90分間の戦いがスタート。

ところが、子どもたちの人気者・HIKAKINが開始直後にいきなり確保されてしまった。ゲーム内容を紹介するVTRよりも前の確保だったことが、その意外さを裏づけると同時に「『逃走中』はガチンコ」という印象を植え付けたのではないか。

「ただ広い場所を追いかけっこするだけではない」のが当番組の面白さであり、この日もゲームマスターの如月カケルと青山シズカが「ハンターの大量放出」「仲間の復活」を賭けた3つのミッションを発動。ここでミッションの詳細は省くが、身長が低く見つけにくい10体の“キッズハンター”、女性同士の戦いをうながす3体の“レディースハンター”、アクロバティックな“パルクールハンター”を新たに投入して盛り上げた。

その間、残り72分で斎藤司、残り69分で亜生、66分で福岡堅樹、58分で安藤美姫、56分で伊藤桃々、47分で西畑大吾、44分で藤田ニコル、40分でりんごちゃん、38分で朝日奈央、32分で酒井一圭、25分で岸優太、21分で村山輝星、18分で和田正人、17分で工藤阿須加が次々に確保されていった。

やはり驚きは、今回の目玉である福岡が早々に確保されたことだろう。福岡は仲間たちを助けるべく、1つ目のミッションに挑んだのだが、「もし失敗したら…」と視聴者をハラハラさせ、結果的に確保されたことでガチンコ感を上書きした。

ところが、福岡は残り時間わずかの中、2つ目のミッションに挑んで「復活カード」をゲットした岡崎紗絵に指名されて復活。何ともドラマティックすぎる展開でガチンコ感が薄れ、「できすぎた筋書き」のムードが漂いはじめる。

■ガチンコ感が薄れた終盤の展開

残った4人は、モデル・女優の岡崎紗絵、タレント・ミュージシャンのDAIGO、芸人の昂生、アスリートの福岡と、性別から年齢、業職種、キャラクターまで、偶然と言いにくいほどバランスの取れた顔ぶれ…。

残り8分になって岡崎が確保されたが、その1分前に1月9日スタートの出演ドラマ『アライブ』の表示が出ていた。これが確保のフラグだった…というより「編集のフライング」と言える。

福岡はハンターから追いかけられる2度のピンチを切り抜けたが、ここまで悪知恵と無責任だけで生き延びてきたDAIGOは残り3分で無念の確保。いよいよ福岡と昂生の2人だけになったが、すぐさま福岡に3体のハンターが迫り、残り1分で確保されてしまった。

この日の福岡を振り返ると、早々に確保されたが、仲間たちの果敢な挑戦によって復活。救世主となってパルクールハンターを撃破し、ハンターからの逃走に2度も成功したものの、3人のハンターから集中攻撃を受け、賞金が100万円を超えた残り時間1分で確保されてしまう。

あまりに福岡だけドラマティックな展開が続いたからか、ネット上には「パルクールハンターの動きがわざとらしかった」「急に3人もハンターが来るのはおかしい」「福岡アゲ露骨すぎないか?」などの声も見られた。もちろん真相はわからないが、そう言いたくなる視聴者がいても仕方のない構成だったことも確かだ。

一方、最後の1人になった昂生は、残り16秒でハンターに見つかったが、何とか逃げ切って108万円を獲得。番組は最後に“お小遣いボーナスチャンス”として、パルクールハンターから逃げた時間に応じて賞金を獲得できるゲームを行い、HIKAKINやジャニーズ勢などの人気者が10万5,000円を獲得して終了した。

この番組の魅力は、「鬼ごっこ」という子どもにもわかるシンプルな真剣勝負と、大人心を揺さぶる大金獲得の誘惑だが、それは「先が読めないガチンコ」という前提があってのこと。多くの視聴者は、「『逃走中』はガチンコ」という前提で見ている。だから「作り手がハンターの位置や動きを調整していたのでは?」と疑念を抱く視聴者が少なくなかったことが気がかりだ。

バラエティである以上、撮れ高や番組の盛り上がりなどを考えて作るのは当然だが、視聴者がこの番組に求めているのは、それだけではないだろう。時には「驚くくらいあっさりお金を獲得してしまった」、あるいは「わずか半分の時間で全滅してしまった」という形があるほうがガチンコ感は高まり、引いては番組のブランディングにつながるのではないか。

■悪役を引き受けたDAIGOと純烈・酒井

当番組は「出演者に身体能力の高さが求められる」という意味で『SASUKE』(TBS系)と比べられることもあるが、あちらは競技性重視で、こちらはゲーム性重視。だから出場者は身体能力の高いアスリート系ではなく、キャラクターのはっきりしたタレントをそろえている。

タレントだからこそ使い手は、「お金がほしいだけでなく、テレビに映りたい」「自らの危険をかえみず仲間のために動いて好感度を上げたい」「ゲスなキャラもおいしいから自首して逃げ切りたい」などのさまざまなキャラクターの計算が立ちやすい。

実際、確保された人を復活させるためにニコルが「私は行きますよ」、朝日も「絶対行く」と言い切ったあとに玉砕して好感度を上げた一方、酒井は「今、月給44万円だから44万円を超えたら自首しよう。家族も納得してくれると思うし、長男の塾代も30万円くらいかかるって嫁に言われた」と自首宣言した上で、あっさり確保。「自首する前に脱落だ」という天罰を下すようなナレーションで、視聴者の留飲を下げようとしていた。

しかし、酒井が狙わなければ“自首”は無意味なルールになってしまうため、番組にとっては必要な存在。この日もう1人の悪役を担っていたDAIGOも含めて2人はクソキャラを引き受けられる貴重な存在であり、それは好感度のセルフコントロールができるからだろう。

ただ、かつてと比べると悪役テイストはかなりマイルドになり、炎上の気配すらないのはどこか寂しさを感じる。たとえば「誰かが自首するとハンターが増えて仲間に迷惑をかける」という強烈な悪役が登場するシステムを復活させたほうがいいのか?など、熱狂度を上げる方法は再考の余地があるのではないか。

最後に1つ挙げておきたいのは、CMまたぎのうまさ。「新型ハンターの登場」「いよいよ福岡がミッションに挑む」「ジャニーズ2人は逃げ切れるか?」「最高難度のミッションが登場」「行き止まりに逃げ込んだDAIGOにハンターが迫る絶体絶命」など、寸止めのストレスこそ多少あるものの、それを上回る期待感を与えるなど、嫌な印象はまったくなかった。

「同じスーツ、サングラス、髪型、動きの無機質なハンター」「不穏なBGM」「残り時間が減り、獲得金額が増えるスリリングな画面表示」など番組のフォーマットは強固であり、しばしばパロディされるほどの価値を持っている。

今回の視聴率は9.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を獲得したが、スタッフやカメラの映り込みを極力排除する技術や努力も含め、「もうひと工夫さえできれば2桁視聴率をキープできる」。フジテレビにとっては貴重なコンテンツの1つだろう。

■次の“贔屓”は…小学生の問題で300万円獲得なるか『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』

『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』MCの劇団ひとり(左)と佐藤隆太

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、10日に放送される日本テレビ系バラエティ『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?新春こそ最終問題突破!!SP』(19:00~20:54)。

同番組は世界50か国以上で放送された人気クイズ番組の日本版として2011年4月、2018年11月、2019年5月、8月に単発番組として放送されたあと、同年10月にレギュラー化。「小学生の問題を全問正解できたら300万円獲得」という単純明快なコンセプトで激戦区の金曜夜に放送されている。

このところ、『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジ系)、『そんなコト考えた事なかったクイズ!トリニクって何の肉!?』(ABCテレビ・テレビ朝日系)と、子ども解答者を生かしたクイズ番組が増えているだけに、その狙いも含めてさまざまな角度から掘り下げていきたい。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。