本連載の第9回では「自分の仕事の範囲にとらわれてはいけない」と題し、同僚などの周りの仕事に視野を広げ、時に助けることで業務の効率化につながるという話をしました。今回はデータの集計や分析をスマートにこなす方法をお伝えします。

データの集計・分析をスマートにこなせるようになろう

売上や経費の集計、顧客別/商品別の収益分析や経費の発生要因分析など、定量データを集計・分析する機会のある方は少なくないのではないでしょうか?

一方で、定量データの集計や分析の方法について体系的に学び、実務に活かしている方はまだまだ多いとは言えないのが現状で、ほとんどの方は上司や先輩、その業務の前任者などから教わったり、わからないところをネットや本で調べながら我流で行ったりしているのではないでしょうか?

そのような方にお話を伺うと「今までの自分のやり方で困ることはないから、今更変える必要もない」と言われる方が多くいますが、これは本当にもったいないことです。

表計算ソフトに搭載されている数々の機能を知らず、使わないでいるということは、スマホを購入したのに電話としての機能のみ使っているようなもので、Webサイトのブラウザ機能や地図・GPS機能、各種アプリの機能などは一切使わないようなものです。

では、表計算ソフトの機能を使いこなすと、どのようなメリットがあるのかということですが、集計・分析などの作業効率と作業品質が共に格段に上がるメリットが大きいと言えます。つまり、「これまでより圧倒的に早く、正確にアウトプットを出せるようになる」ということです。使いこなさない手はないですね。

以下では多くの企業で使われているMicrosoftのExcelを例に、集計・分析作業の効率化に特に役に立つ機能を厳選してご紹介します。

機能1.ショートカットキーで操作速度を上げよう

突然ですが、Excelのシートを挿入(追加)してください。

恐らく多くの方が画面上部にあるリボンで「ホーム」を選択し、右の方にある「挿入」から「シートの挿入」をクリックしたのではないでしょうか。そしてポインタを左右に大きく動かすことで時間は5秒ほどかかったのではないでしょうか。

では次に、Altキー、"I"、"W"を連続して押してください。シートが挿入されましたでしょうか? では、この動作を10回繰り返してシートを10枚挿入してください。

繰り返し同じ動作を行うことで、「シート挿入」のショートカットキーをマスターできたことでしょう。また、操作にかかる時間も0.5秒くらいに縮んだのではないでしょうか?

「5秒が0.5秒に縮んだところで大した効果はないじゃないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。ところがデータ集計や分析などの作業においては、「シートの挿入」だけでなく、列や行の追加、削除、幅の調整、書式の設定、データのコピー&ペースト等の多種多様な作業を数多くこなす必要があります。

とあるデータ集計・分析にかかる各種操作の回数が1,000回で、マウスやタッチパッドで各操作にかかる時間が5秒とすると、集計・分析作業全体では最低でも5000秒、つまり1時間半弱かかります。一方、これらの操作全てについてショートカットキーを用いて0.5秒でこなしたとすると、作業全体では500秒、僅か8分少々で終えることになります。

1つ1つの操作にかかる時間の差は微々たるものでも、積み重なると大きな違いになる、まさに「塵も積もれば山となる」ですね。これがショートカットキーの威力です。おわかりいただけたでしょうか?

特に使用頻度の高いショートカットキーの一部をこちらに載せておきますので、ぜひ繰り返し練習して習得してください。

データのコピー:Ctrl + C
データの貼り付け:Ctrl + V
行の追加:Alt + I + R
列の追加:Alt + I + C
行の削除:Alt + H + D + R
列の削除:Alt + H + D + C
シートの追加:Alt + I + W
シートの削除:Alt + H + D + S
選択範囲の上下左右への拡大:Shift + 方向キー
ブック内の次のシートへの移動:Ctrl + PgDn
ブック内の前のシートへの移動:Ctrl + PgUp

機能2.関数で面倒な作業を自動化しよう

  • Excelを活用して集計・分析作業を効率化

    Excelを活用して集計・分析作業を効率化

集計・分析というからには、数値の合計や平均の算出、値の最大値や最小値の導出など、様々な処理を行う必要がありますが、それらの多くはExcelが持っている「関数」という機能で実行できます。

リボンの「数式」タブを押すと左側に表示される、合計値を算出する機能「オートSUM」も実は関数の1つですが、合計値を出す以外にも数多くの機能があります。

例えばCount関数を使うと、指定した範囲内にある数値が含まれるセルの個数を集計して表示してくれます。また、数値か否かを問わずデータが含まれるセルの個数を表示するためにはCounta関数を用います。何千行、何万行という膨大なデータを前にして、これらの関数を使わずに目視で数えようとすると幾ら時間があっても足りませんし、見落としは避けられないでしょう。それを瞬時にして正確に集計してくれるのですから、使わない手はありません。

また、ある表から縦方向に検索をかけて特定のデータに対応する値を取り出すVlookupという関数もあります。例えば、あるシートに「商品名」「購入者No.」「売上金額」が縦に並んだ売上集計表があるとします。そして別のシートには「購入者No.」と購入者の住所のある「都道府県」、「市区町村」が載っている顧客名簿があるとします。

このとき、売上集計表の「購入者No.」を基に、顧客名簿から該当する「購入者No.」を検索し、その行に該当する「都道府県名」を取得して表示させるときなどにVlookup関数を使うことができます。詳しい使い方は色々なサイトに載っているので見ていただきたいのですが、非常に有用な関数なので使いこなせるようになると集計・分析スピードが飛躍的に向上するでしょう。

このように、手作業で地道に行おうとすると膨大な手間がかかるような作業でも、関数を使えばはるかに効率よく、正確に終えることができるものが多々あります。それではどうやって関数を習得するかということですが、まずはネットで検索するなどして、どのような機能を持つ関数が存在するのかを把握しておくことをお勧めします。

すると、いざ作業というときに「あ、そういえばこんな機能の関数があった気がする」と思い出せるようになるでしょう。そこまでいけば、後は使い方を調べて応用すればよいのです。それを繰り返すうちに、気が付いたら色々な関数を使いこなせるようになっていることでしょう。

以下、集計・分析作業において特に使用頻度が高い関数を挙げておきます。ぜひ、使い方を調べて実際の業務で試してみてください。

指定した数値を合計する:Sum
1つの条件に合う数値を合計する:Sumif
複数の条件に合う数値を合計する:Sumifs
範囲内にある数値の入ったセルの個数を表す:Count
範囲内にある空白以外のセルの個数を表す:Counta
範囲内にある指定した1つの条件を満たすセルの個数を表す:Countif
範囲内にある指定した複数の条件を満たすセルの個数を表す:Countifs
指定した数値の平均値を求める:Average
1つの条件に合う数値の平均値を求める:Averageif
複数の条件に合う数値の平均値を求める:Averageifs
指定した範囲の1列目で指定した値を検索し、指定した列の同じ行の値を表示する:Vlookup

ここでは表計算ソフト、中でもMicrosoft Excelに焦点を当てて、さらにショートカットキーと関数に絞って説明してきました。原理原則はGoogleスプレッドシートなど、他の表計算ソフトにも当てはまりますので、ぜひチャレンジしてみてください。

また、集計・分析を行う際はショートカットキー以外にも、様々な集計を直観的かつ柔軟に行う「ピボットテーブル」や数値データをビジュアル化する「グラフ」などの強力な機能もあるので、これらについてもぜひ学んで活用してください。1つの機能を習得するごとに自身の作業の効率化が手に取るようにわかると思います。

著者プロフィール:相原秀哉(あいはら ひでや)

株式会社ビジネスウォリアーズ代表取締役
慶應義塾大学大学院修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法、Lean Six Sigmaを活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の伝道師 "Lean Master"に 認定される。その後、幅広い組織や個人の生産性向上に寄与するべく独立。生産性向上による働き方改革コンサルティングや、コンサルティングスキルを実践形式で学べるビジネスブートキャンプを手掛ける。