2026年春ドラマでは、『月夜行路-答えは名作の中に-』『未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3』をはじめ、女性同士の関係性を軸にした作品が目立つ。そして、その流れの中で改めて感じたのが、「波瑠は女性バディ作品でこそ、さらに魅力を発揮する俳優なのではないか」ということだ。
ライターの清見真緒が愛と気合いを込めて、1人の人物、1つの作品をたっぷりとつづるお試し企画【気になるあの人、あの作品(仮)】。第2回は、波瑠とドラマ『月夜行路』『未解決の女』を中心に「女性バディ作品」の魅力を語っていきたい。
『月夜行路-答えは名作の中に-』 関係の変化と共に事件も変わる
ドラマ『月夜行路 -答えは名作の中に-』(日本テレビ系 毎週水曜22:00~)で波瑠が演じるのは、銀座のミックスバー「マーキームーン」のママであり、自身もトランスジェンダー女性である野宮ルナ。「文学オタク」として数々の名作小説からヒントを得ながら事件を解決していく。ルナと行動を共にするのが専業主婦の沢辻涼子(麻生久美子)だ。
序盤の大阪編では、殺人事件や強盗事件を解決するうちに互いの心の内を知る。大阪編の終盤に「そんなことが起きたのによくその関係に収まったな」という出来事を挟み、理解しあえる友人となった。
ホームズとワトソン的に殺人事件の解決を中心に話が展開すると思いきや、7話時点で二人が解決しているのは物騒な事件ではない。ルナの父親のパソコンのパスワードを解くことを中心に、その過程で偶然再会した、涼子の過去の友人家族の問題など、ケガ人が出ることはあるが、どちらかというと穏やかな事件を解決している。
この穏やかな事件の数々は、二人が親しい友人となり、互いの交友関係に少しずつ立ち入るようになったからこそ生まれたものだ。二人が仲良くなったから事件が生まれ、その事件を解決しながらお互いの理解が深まっていく。
「恋愛の相手ではない新しい知り合い」を相手にどこまで踏み込んでいいのか。大人になるからこそ考えてしまう距離感だったが、事件を通して近づき、その距離感の変化によって事件そのものが変わっていくのが、『月夜行路』の面白さだ。
『未解決の女 警視庁文書捜査官』 異動になった矢代の大きすぎる存在感
今期でシリーズ3作目となるドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3』(テレビ朝日系 毎週木曜21:00~)。Season3では矢代朋(波瑠)が異動となり、鳴海理沙(鈴木京香)は年下のエリート部下、陸奥日名子(黒島結菜)と新しくバディを組み事件を解決している。
『未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3』が面白いのは、新しいバディが“対等な相棒”として始まっていないこと。鳴海にとっての“本当の相棒”が矢代だったことを、制作陣も視聴者も知っている。
だからこそ陸奥は、鳴海にとって“矢代の代わり”にはなれない立場に置かれている。「本当の相棒は矢代ですよね」と理解したうえで距離を測っているような空気感。上司と部下であり、解決担当と進行・サポート担当のような役回りになっている。
もしこれが男女バディ作品であれば、少し遠い距離感を縮めていくことも同時に進んでいったかもしれない。しかし『未解決の女』では、“前任の相棒の存在が残る職場の人間関係”でしかない。鳴海と陸奥の間にあるのは、恋愛的な駆け引きではなく、「まだ互いの距離を測っている同僚同士」の空気だ。
今シーズンは鳴海を中心に皆で事件を解決しているが、もし次シーズンも陸奥が続投してくれるなら、職場の同僚が本当の相棒になっていく変化を見られることに期待したい。
波瑠の「眼差しの表現力」への信頼
前述の通り、波瑠は『未解決の女』Season1と2に出演しており、Season3での続投も望まれていた。そして『月夜行路』では『未解決の女』の鳴海と仲良くなれそうな“文学オタク”を演じている。お互いに1話ずつ登場してくれないか……というオタク的願望はさておき、この2つの作品を見て「波瑠、女性とのバディ作品がハマりすぎでは?」と感じている。
男性主人公の隣に置かれた場合、こうした役柄は「おもしれー女」として評価、処理されやすい。もしくはただの「気が強い女」として描かれてしまうだろう。
波瑠の魅力は気の強さではない。「意志の強さ」なのに……。
波瑠は、「意志と芯の強い女性」と、「白黒つけられない、セリフにならない人間の機微」を、眼差しひとつで表現できる俳優だ。そしてその表現力は、白でも黒でもグレーでもない人間関係の物語でこそ存分に発揮される。
このことに気が付いていたのは、波瑠演じる矢代に「目力(めぢから)」と愛称をつけた『未解決の女』の制作陣なのかもしれない。
「性急で熱烈なキス」がない物語の面白さ
バディ間での恋愛感情を描かない事件解決作品としては、『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』や『アンナチュラル』(ともにTBS系)が思い浮かぶ。どちらの作品も「それどころではない」出来事が起こり続ける作品だったが、同時に、恋愛関係へ発展するかどうかが物語の中心には置かれていなかった。
もしバディ解消になるとしても、それはそれであっさりと受け入れそうな空気感もあった。恋愛感情がないビジネス上のバディだからこその関係というのだろうか。
だが、『月夜行路』と『未解決の女』では、どちらの作品の相棒も、心の中の大切なところに波瑠演じるルナと矢代を住まわせている。つらいこと、悲しいこと、楽しいこと。なにかあれば心の中にいる相棒を思い出し、なにかが起きれば「あの人なら」と行動の指針にするだろう。
役柄の「意志と芯の強さ」に惹(ひ)かれ、憧れ、影響を受け、大切にし支え合う関係になったとしても、恋愛の文脈で描かれないから、メインストーリーと同時に恋愛模様が動くような展開にもなりにくい。
もし恋愛の文脈が描かれることがあったとしても、性急で熱烈なキスをぶちかまして度肝を抜いてくる可能性は低いはずだ。「最終回でキスして終わり」「酔った勢いで関係が変わる」のような展開ではなく、小さな理解や信頼、踏み込みを積み重ねながら、少しずつ関係を変えていくしかない。
白黒ついた「好き」ではなく「この人がいないと困る」「この人にだけは見せられる顔がある」のような繊細な関係の変化を、最後まで丁寧に描くからこそ「物語」を安心して楽しめるのも女性バディ作品の良さなのだ。
女性バディブームが来るのか!? 『さよならノワール』に注目
春ドラマは女性バディ作品がかなり多く放送されているが、7月に放送がスタートする夏ドラマでも、早速女性バディ作品の情報が解禁された。特に注目したいのは、7月7日スタートのフジテレビ系ドラマ『さよならノワール』(毎週火曜21:00~)。小池栄子と北香那による警察ヒューマンドラマだ。
「バディ」と明言していることはもちろん、『14才の母』(日本テレビ系)や『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)といった社会的に話題になる出来事を描くことに長ける井上由美子氏が脚本を担当する。井上氏が描く犯罪被害者に寄りそう物語であること、小池栄子が出るならなんでも面白いだろう、という信頼が強く、個人的に楽しみにしている作品だ。
恋愛でも友情でも、簡単に出会い、簡単に縁を切れる時代だからこそ、心の奥でつながり、簡単には切れない関係性を描く女性バディ作品に惹かれる人は、これからさらに増えていくのかもしれない。






