「相続税」は、亡くなった人(被相続人)から相続や遺贈によって財産を取得した場合に、その取得した財産にかかる税金です。

「我が家にはそんなに大きな額の遺産なんてないから、相続税なんて無縁」と思っている人も多いと思いますが、実は、2015年1月1日以降、相続税法の改正によって相続税の課税対象となる人が広がっているのです。

  • 出典:国税庁HP

親が元気なうちに相続について話し合い、生前から相続税の節税対策を始めておけば、大きな節税効果が期待できます。

そこで今回は、弁護士ドットコム執行役員で弁護士の田上嘉一さん監修の下、相続税の節税対策のポイントについてお伝えします。

  • 弁護士ドットコム 執行役員 弁護士 田上嘉一さん

相続税の仕組み

相続税の節税対策のために、まずは、相続税についての基本的な知識を頭に入れておきましょう。

相続税は、相続や遺贈によって取得した財産、及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の、価額の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算します)が基礎控除額を超える場合に、その超える部分(課税遺産総額)に対して課税されます。

ちなみに、基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。

相続税の対象となる財産は、土地、建物、株式などの金融財産、預貯金、現金などのほか、自動車、ゴルフ会員権、美術品、骨董品、著作権や特許権など、金銭に見積もることができるすべての財産が相当します。

  • 相続税の対象となる財産は?

これらは、日本国外に所在するもの、被相続人の財産で家族名義になっているものも含まれます。また、被相続人が自分を被保険者として保険料を負担していた死亡保険金や死亡退職金も課税対象となります。

そして、相続税の申告及び納税の期限は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内となっています。

贈与税の年110万円の基礎控除を活用した生前贈与

相続税の節税対策の一つに「生前贈与」があります。生前贈与とは、その名の通り亡くなる前に財産の贈与を行うこと。

個人から財産をもらうと贈与税がかかりますが、その基礎控除額を上手に活用して生前贈与を行うと、大きな節税効果があるのです。

贈与税の課税方法の一つに「暦年贈与」と呼ばれるものがあります。これは、1月1日~12月31日までの1年間に受け取った贈与財産の合計額を基に課税される仕組みで、これには、年110万円の基礎控除が設けられています。

つまり、年110万円以下の贈与は非課税になるのです。

ですから、被相続人の預金額が多い場合は、年110万円ずつをコツコツと生前贈与していけば、贈与税も節税でき、また最終的に、相続対象となる預金を減らし、相続税を節税することが可能になります。

ただし、相続が発生する3年前までに行った生前贈与の額は、相続税の計算をする際に戻し入れなければならないという決まりがあります。

亡くなる直前になって慌てて生前贈与をしても、それは相続税の対象となってしまうため、前もって計画を立てて行っていくことが得策です。

土地や不動産を生前贈与する方法

土地や不動産を相続すると、大きな相続税が発生することがあります。これに対しても、生前贈与を活用することで節税が実現できることがあります。

その方法の一つが、「相続時精算課税制度」の利用です。

60歳以上の直系尊属(両親や祖父母)から、20歳以上の子や孫(推定相続人)に対して行われる贈与については、2,500万円までを限度に非課税とされているため、相続が発生する前にこの限度で土地や不動産を生前贈与しておくことで、節税できるケースもあります。

土地や不動産の価額が2,500万円におさまらないという場合には、年110万円の基礎控除を利用して、毎年一定割合ずつ土地や不動産の持ち分を贈与し、その後、ある程度の権利が贈与された時点で、相続時精算課税制度によって残りの財産を一括贈与するという方法もあります。

ただ、この方法においては、毎年、登記費用(不動産評価額の2パーセント+税理士等への申告報酬)と不動産取得税(不動産評価額の3~4パーセント)がかかってきますし、一度相続時積算課税を選択すると暦年課税に戻せず110万円の非課税枠が使えなくなったり、小規模宅地等の特例を使えなくなったりするというデメリットもあります。

詳しくは、専門とする税理士の方にお聞きいただくのがよいでしょう。

家なき子特例とは

土地の相続にあたり、被相続人が自宅として使っていた土地については、配偶者か同居している親族が相続した場合には、本来の評価額から80%OFFの金額で相続税を計算していいという特例があります。

これを、「小規模宅地等の特例」といいます。

この特例が改正され、被相続人に配偶者も同居している親族もいない場合には、別居している親族が相続しても小規模宅地等の特例を受けることができることになりました。

それが、通称「家なき子特例」と呼ばれているものです。

家なき子特例を受けるための要件には、以下のことがあります。

・被相続人に配偶者も同居している親族もいない
・相続する人が3年以上自分の持ち家に住んでいない
・相続が発生した日から10カ月間は所有し続ける

これらを満たせば、この特例を利用して土地を相続することで、相続税を大幅に抑えることが可能となります。

ただ、この家なき子特例は、2018年4月1日に大幅改正され、要件がさらに厳しくなっていますので、注意が必要です。

税金にまつわる法律はたびたび改正が行われているため、知識や情報を定期的に更新することが大切です。

相続税の節税対策については専門的な知識も必要になるので、検討する際には、税理士や、相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

監修者

田上 嘉一(たがみ よしかず)

弁護士、弁護士ドットコム執行役員 早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数