8月下旬、公的年金の5年に1度の健康診断と言われる「財政検証」の結果が厚生労働省から公表されました。「財政検証」という言い方だけで「なんだか難しそうだな」という印象をもつ人もいるかも知れません。

実際、この「財政検証」の内容をちゃんと理解するには、年金に関してかなりの知識が必要になると思います。私は年金のことをたくさん知っている訳ではありませんが、私なりに「財政検証」を読んでみて、現役世代の皆さまにお伝えしたいことを少しまとめてみました。

  • 公的年金の「財政検証」 - 5年前の前回と比べると分かること

まず、そもそも「財政検証」は何のためにやるのか、という点から考えてみます。日本の公的年金制度は2004年に大きな改革を行いました。具体的には、現役世代が負担する保険料を固定し、高齢者の年金を調整する仕組み(=マクロ経済スライド)を導入したのです。

そして、この制度改革で将来にわたって公的年金が制度として維持できるかどうかを、人口や経済動向等をもとに5年ごとにチェックする、というのが「財政検証」の役割です。ですから、前回と比べてみる、という視点が「財政検証」の結果を見るポイントだと思います。

今回の「財政検証」では、5年前の前回と比べると、現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合である「所得代替率」という指標が、将来的に多少改善することが示されました。働く女性や高齢者が増えたことや積立金の運用がうまくいったことなど、その要因は色々挙げられます。しかし、まず理解すべきは、公的年金の制度としての安定性は5年前よりも多少高まっている、という事実です。

つまり、今回の「財政検証」から、これからも公的年金は老後生活の土台であり続ける、ということが確認できるのです。

一方、経済状況等の前提条件をもとに6つの試算を行った結果、将来的にはいずれのケースでも、所得代替率として表わされる年金の水準は下がっていくことが示されました。この傾向は前回と同様ですが、注目すべき前回との違いは、「オプション試算」という形で年金を増やすための方法が追加されている点です。

そして、その試算から「長く働いて、年金の受取開始をなるべく遅くする」という選択肢が、年金を増やすために最も効果が高いことが確認できます。いわゆる「年金の繰下げ受給」と言われるものです。現状、繰下げの利用率は約1%程度※ですから、今回の「財政検証」の結果が広く周知されれば、繰下げの利用者が増えると思います。

そういえば先日、訪問先でこんな話を聞きました。

「繰下げると年金も下がるって勘違いしている社員がいるかも知れません。逆に、繰上げは年金が上がると思ってたりして……(笑)」

この話を聞いて、私はまさに目から鱗が落ちました(驚)。加給年金や振替加算が受け取れないから等、繰下げが選択されない理由は色々指摘されますが、実はもっと単純なのかも知れません。よくよく考えてみても、「繰下げ受給」って手続きを言い表してるだけですから、いっそのこと「割増受給」とかに言い換えた方が利用者が増えるのではないでしょうか。

※出所:厚生労働省年金局「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(平成30年12月